English dictionary
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ご質問ありがとうございます。画像は、英語辞書の最高峰とされる「The Oxford English Dictionary (OED)」ですね。
「なぜOxford Dictionary(OED)は特別なのか?」
「なぜ、それが『Oxford』の名前を冠しているのか?」
この2つの点について解説します。
1. なぜ「Oxford English Dictionary (OED)」は特別なのか?
単に「オックスフォード大学が出版した辞書」というだけではありません。OEDが「辞書の王様」と呼ばれる理由は、そのユニークな編集方針にあります。
「歴史的原則」に基づいている
OEDの最大の特徴は、単に単語の「現在の意味」を説明するだけではない点です。その単語が「いつ、英語の文献に初めて登場し」「時代とともに意味がどう変化してきたか」を、徹底的に追跡します。
膨大な「引用例」
その歴史的な変化を証明するために、OEDは膨大な量の「引用例(Quotations)」を掲載しています。シェイクスピアの戯曲、科学論文、新聞記事、料理本など、あらゆる文献から「その単語が実際に使われた文例」を集め、年代順に並べています。
圧倒的な網羅性
OEDは、古英語から現代の俗語(スラング)に至るまで、英語のあらゆる単語を収録することを目指しています。(画像にある第二版(1989年)は全20巻で、約60万語を収録しています)
つまり、OEDは単なる「辞書」ではなく、「英語という言語の完全な伝記・歴史書」のような存在なのです。これが、OEDが他の辞書と一線を画す絶対的な権威と評価を得ている理由です。
2. なぜ「Oxford」なのか?
この壮大な辞書プロジェクトと「オックスフォード」が結びついた経緯は、以下の通りです。
始まりはロンドン
1857年、ロンドンの「文献学協会(Philological Society)」の学者たちが、「既存の辞書は不十分だ」と考え、全く新しい、包括的な辞書の編纂プロジェクトを立ち上げました。
巨大すぎたプロジェクト
当初は10年程度で完成する見込みでしたが、前述の「歴史的原則」を徹底したため、作業量は爆発的に増加。プロジェクトは資金難と遅れに直面しました。
OUP(オックスフォード大学出版局)の登場
この巨大で学術的なプロジェクトを引き受けられるだけの「資金力」「学術的権威」「印刷能力」を持っていたのが、オックスフォード大学出版局 (Oxford University Press, OUP) でした。
「Oxford」の名のもとに
1879年、OUPは正式にこのプロジェクトの出版元となり、初代編集主幹ジェームズ・マレー(James Murray)のもと、編纂作業が本格化しました。編纂室もオックスフォードに移され、プロジェクトは完全にオックスフォード大学の事業となりました。
結論として、この辞書が「Oxford」の名を冠しているのは、「19世紀に始まった英語史を網羅する」という壮大すぎる学術プロジェクトを、唯一引き受けることができたオックスフォード大学出版局(OUP)によって編纂・出版されたからです。
画像に写っているのは、そのプロジェクトの成果である第二版(全20巻)ですね。
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周囲を説得するための論拠:「やはり英語はイギリス」
説得のポイントは「歴史的な正統性」と「規範としての権威」です。
英語は「イングランド(England)の言語」である
これが最も強力な論拠です。そもそも「English」という言葉自体が、ゲルマン民族の一派である「アングル人(Angles)」の土地(Angle-land → England)の言語、という意味です。
英語はイングランドで生まれ、シェイクスピアやチョーサーといった偉大な文学者によって豊かにされ、育まれてきました。
アメリカ英語やオーストラリア英語は、そのイギリス英語が「移民によって持ち出され、現地で独自に変化した」ものです。
「規範」としての権威(OEDの存在)
先ほどのOEDがまさにその証拠です。「この単語はいつ生まれ、どう使われてきたか」という言語の戸籍簿を管理しているのは、ロンドン(文献学協会)で始まり、オックスフォード大学(OUP)が引き継いだプロジェクトです。
「スペル(綴り)」においても、"colour" や "centre" のようなイギリス式の綴りが「オリジナル」であり、"color" や "center" というアメリカ式の綴りは、ノア・ウェブスターというアメリカの辞書製作者が「(イギリスと違う)合理的な綴りを」と提唱して変えたものです。
「宗家(そうけ)」と「分家(ぶんけ)」の例え
これは説得に使いやすい比喩です。
イギリス英語は、英語という言語の「宗家」(本家)です。
アメリカ英語は、そこから分かれた「分家」です。
現在、分家(アメリカ)の方が人数も多く、家も大きく(経済力・影響力)、世界中に影響を与えていますが、ルーツを辿れば宗家はイギリスである、という論法です。
「日本と日本語」を使った分かりやすい例え
説得したい相手に、こう問いかけてみてください。
「日本語は、もちろん日本のものだよね? それは、日本語を母語とする人のほとんど(約1億2千万人)が日本に住んでいて、外国で使われる日本語も『日本で話されている日本語』を基準にしているからだ」
(ここからが重要)
「でも、もしもの話、考えてみてほしい」
「もし、江戸時代に日本の人口の半分がブラジルに移住して、200年後、ブラジルには『ブラジル日本語』を話す人が2億人、日本には『日本日本語』を話す人が1億人になったとする」
「さらに、世界中の人がビジネスやエンタメで使うのが、その『ブラジル日本語』になったとしたら…」
「その時、『日本語は(宗家である)日本のものだ』と主張しても、『いや、今や日本語は(話者も多く影響力も強い)ブラジルのものでしょう』と反論されたら、どう思う?」
…これが、まさに「イギリス英語」と「アメリカ英語」に起きていることなのです。
イギリス(日本)は「宗家」だが、人口は約6,700万人。
アメリカ(ブラジル)は「分家」だが、人口は約3億3,000万人。
世界で学ばれている英語も、映画・音楽・ビジネス・ITの分野で強いのはアメリカ英語です。
説得が難しい理由(予想される反論)
あなたが「英語はイギリスだ」と主張した時、周りの人が「そうかなあ?」と思う理由は、主に以下の2点です。
「数」と「影響力」の現実 相手は「歴史」ではなく「今」を見ています。現実問題として、ネイティブ話者の数はアメリカが圧倒的に多く、世界で最も影響力があるのはアメリカ英語です。
「世界共通語(リンガ・フランカ)」という側面 多くの人にとって、英語は「イギリスのもの」でも「アメリカのもの」でもなく、単なる「コミュニケーション・ツール」です。 日本人がドイツ人と話す時に使う道具であり、その道具の「本家」がどこかはあまり重要視されません。
説得するための落としどころとしては、このようにまとめるのが現実的です。
「もちろん、今や英語は世界中で使われる『国際語』であり、特にアメリカ英語の影響力は絶大だ。 しかし、その言語の『生みの親(宗家)』は誰かと言われれば、それは間違いなくイギリスである。オックスフォード英語辞典(OED)がその歴史をすべて記録しているのが、何よりの証拠だ」
このように、「歴史的な正統性(宗家)」を主張するのが、最も確実な説得の方法だと思います。
#宗家(本家)と分家