Mythinformation
Langdon Winner, Mythinformation, The New Media Reader, The MIT Press, 2003, pp.587–pp.598. Original Publication
The Whale and the Reactor: A Search for Limits in an Age of High Technology, 98-117. Chicago: University of Chicago Press, 1986.
邦訳
『鯨と原子炉―技術の限界を求めて』,「第2部 技術―改革と革命(よいねずみ取り器を作る;分権化とは何か;情報社会の神話)」, Langdon Winner, 吉岡 斉 (翻訳), 若松 征男 (翻訳), 2000, 紀伊國屋書店 Futher Reading
Jasanoff, Sheila, Gerald Markle, James Petersen, and Trevor Pinch, eds. Handbook of Science and Technology Studies. Thousand Oaks, Calif.: Sage, 1994.
Mumford, Lewis. Technics and Civilization. New York: Harcourt Brace and World, 1934.
Winner, Langdon. "Upon Opening the Black Box and Finding it Empty: Social Constructivism and the Philosophy of Technology." Science, Technology and Human Values 18(3):362~378. 1993.
----------------------------------
Introduction
Langdon Winnerは、コンピュータ革命が自動的に社会的進展をもたらすという考えに対して批判的立場をとり、個々の人々が自らの目標をはっきりさせ、それを達成するために積極的に闘わなければならないと主張している。 彼はコンピュータ関連の社会的目標や選挙の実現可能性に疑問を呈し、コンピュータ革命の支持者たちの楽観的な考えを神話 "Mythinformation" と呼び、異議を唱えている。Winnerは、情報へのアクセスが民主主義を促進し社会の権力を平等化するという主張にも疑問を投げかけ、技術による民主化は自動的に実現されないため、積極的に追求されるべきだと述べている。
また、このエッセイはMacintoshの初期に書かれたものでありながら、現在(出版当時)のニューメディア議論でも注目されている。Winnerは、革命を待つのではなく、中心的な問題に積極的に取り組む必要があると結論づけている。 ここから本文 ↓
p.588
19世紀のヨーロッパでは、反乱が進行する際に「共和国宣言」が行われ、革命の準備が整ったことを示すジェスチャーが行われていた。同様のジェスチャーが現代のコンピュータと社会においても見られ、「コンピュータ革命」といったような「革命」という言葉が頻繁に使われており、その影響は広範囲に及んでいる。この比喩的な言い回しは、政治的革命とコンピュータ情報システムの変化を比較し、真剣に考える必要がある。
A Metaphor Explored (p.589~)
この部分でWinnerは、政治革命とコンピュータ化についての比較を行っている。政治革命には社会的正義へのコミットメントや民主的な支配への志向が問われる一方、コンピュータ化についてはその歴史的意義や社会的影響についての議論が欠けていると指摘している。コンピュータ化の到来を称賛し、その影響を描写するメディアが一般的には浅薄であり、その変革が人々に与える社会的な影響や意義を真剣に考察することがない。
Winnerは、現代のコンピュータ関連の専門家やビジネス関係者が、技術や経済活動に没頭しすぎて、その活動の歴史的意義を考える余裕がないと指摘している。彼らは利益、市場シェア、高い給与、発明の喜び、プログラミングの知的な報酬、強力なマシンの所有と使用の快楽など、自分たちの目標を追求しているだけで、社会や政治的洞察力を持っていない。その結果、コンピュータ革命に関わる主要な人物たち(ロバート・ノイス、マービン・ミンスキー、エドワード・フェイゲンバウム、スティーブン・ジョブズ)は、その目的についてほとんどコメントを出さず、過去の革命家(ロムウェル、ジェファーソン、ロベスピエール、レーニン、毛沢東)と違って、彼らの活動の歴史的意義を真剣に考えることができない。 Good Console, Good Network, Good Computer (p.590~)
この章は、コンピュータ革命に対する楽観的な期待が詳細に述べられ、情報社会における社会的変化についての議論を含んでいる。筆者はこれらの楽観的な視点には過去の技術革命における期待との比較が不足しており、慎重な検証が必要であることを示唆している。
コンピュータ革命に関する政治的な懸念は、過去の技術革命と社会変動を比較することで理解しやすくなるかもしれない。これまでの著作にはこのような比較が不足しており、初期の歴史的時代を研究したり、技術革新、資本形成、雇用、社会変化などのパターンを探求するより練られた比較が求められている。一般的には、コンピュータ愛好家たちは政治を二次的な関心事と見なしているが、実際には政治が彼らのメッセージにおいて重要な要素であることが示唆されている。
情報システムの進化により、コンピュータが新しい時代の主役となり、普遍的な情報アクセスが多様で豊かな社会を生むという楽観的な予測が一般的である。しかし、Winnerはこれらの予測は過大であり、コンピュータ時代の夢は現実とは異なると主張するとともに、技術の出現はしばしば理想的な未来像を提供するが、実際には問題の他の側面を隠蔽しており、より詳細な検討が必要であると指摘している。
J. C. R. Licklider氏などの一部の提唱者は、情報革命が民主主義プロセスの活性化をもたらし、政治に新たな参加と関与の時代をもたらす可能性があると考えている。しかし、このような信念をWinnerは "mythinformation" 神話情報とよび、コンピュータや通信システムの普及が自動的により良い世界をもたらすという独特な熱狂であるとみなしている。またこれらは広範な影響力と普及にもかかわらず、問題の他の見方を覆い隠しているため、より詳細な検討が必要だと主張している。 - 「情報革命」と彼は叫び、「それは新たな関与と参加の時代への扉を開く鍵をもたらしています。鍵となるのは、優れたコンソールを介して、優れたネットワークを介して優れたコンピュータに接続された、情報との真に効果的な対話に伴う自発的な高揚感です。 」19* 一言で言えば、それは機械の民主主義です。
- “The information revolution,” he exclaims, “is bringing with it a key that may open the door to a new era of involvement and participation. The key is the self-motivating exhilaration that accompanies truly effective interaction with information through
a good console through a good network to a good computer.” 19* It is, in short, a democracy of machines.
The Great Equalizer (p.592~)
この章では、まず最初に 産業社会のサービス経済への変革と、社会権力の動態に対するコンピュータ化の影響について論じ、情報へのアクセスの増加だけが民主化、社会的平等、文化の復興につながるという考えに疑問を投げかけている。
さらに、 コンピュータ愛好家は知識、権力、民主主義に関連する問題の複雑さを見逃しがちであると主張している。 例として、直接参加がより重大な効果をもたらした出来事を挙げ、コンピュータ化によって自動的に政治への関与が強化されるという考えを批判している。
最後に、パーソナルコンピュータが社会の平等化装置として機能するという考えに異議を唱え、それを銃器の役割を強化するという歴史的な誤解と比較している。
全体として、この章では、コンピュータ化に伴う楽観的な政治的期待は非現実的なことが多く、実質的な証拠に欠けていると主張している。
以下本章末の引用
- 要約すると、コンピュータ愛好家の政治的期待が空想以上のものになることはほとんどない。コンピュータの普及により、階層構造が崩壊し、不平等が崩壊し、参加が増大し、中央集権的な権力が解消されるという考えは、厳密な調査にまったく耐えられない。 情報=知識=権力=民主主義という図式には実体が欠けている。それぞれの時点で間違いは、コンピュータ化が必然的に社会を良い生活に向けて動かすだろうという確信から生まれている。 そして誰も指を上げる必要はない。
- In sum, the political expectations of computer enthusiasts are seldom more than idle fantasy. Beliefs that widespread use of computers will cause hierarchies to crumble, inequality to tumble, participation to flourish, and centralized power to dissolve simply do not withstand close scrutiny. The formula information = knowledge = power = democracy lacks any real substance. At each point the mistake comes in the conviction that computerization will inevitably move society toward the good life. And no one will have to raise a finger.
Information and Ideology (p.595~)
政治理論としては欠点があるにもかかわらず、コンピュータ化 "mythinformation" がイデオロギー(社会科学で一般的な意味で使われ、グループや階級などのニーズや願望を表現する信念の集合)として台頭し、情報処理が現代社会の中心的な使命とされていることについて述べている。大量の情報が組織にとって課題となっており、コンピュータや通信機器の高速な情報処理能力がこれに対応している。しかし、このモデルを人間の生活すべてに適用することは妥当かどうかについても問われている。ンピュータ技術の導入が必要かどうか、そしてそれが人間の生活に与える影響について、より深く考える必要があると述べている。
Everywhere and Nowhere (p.596~)
この章では、コンピュータと政治に対する真剣な研究の必要性に焦点を当て、特に懸念される3つの分野(電子機器の監視強化によるプライバシーへの脅威、徹底的にコンピュータ化された世界における社会的相互作用と地域社会の絆の侵食、グローバルな通信ネットワークが従来の空間的・時間的限界に挑戦する中での政治秩序の再構築)について説明されている。
これらの変化が革命的なものであり、公共の生活に深刻な影響を与える可能性があるため、公共の選択や議論が極めて重要であると指摘している。現在のコンピュータ革命は、「不在の心」によって導かれているとされ、将来的には人工知能の進展が新たな課題を生む可能性が示唆されている。
-------
本章 「Everywhere and Nowhere 」には、
で参照できる部分が含まれている
--------
*19. J. C. R. Licklider, "Computers and Government," in Dertouzos and Moses (eds.), The Computer Age, 114, 126.