高取正男「佛敎土着⸺その歷史と民俗」1973/10
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中國では儒敎や道敎の現世倫常主義からの論難に應へ續けねばならなかった
慧遠「沙門不敬王者論」
國家 (政治) と宗敎 (團體) のかかはりは、人閒の歷史や文明と共に古い。
文明の草創期においては、宗敎的價値規範が統治者の意志決定を支配 し、聖俗の社會組織の分化が明確でなかったので、國家と宗敎との關係が問題となることはなかった。 しかし、普遍的な理念や價値をもつ世界宗敎が成立する一方で、固有の主權を主張し、國境を設け、獨自の統治組織をもつ國家が確立していくにつれ、宗敎と國家との關係が拮抗し、これらの閒に、種々の形態を生みだした。
國家と宗敎との關係には、大別して、國家と宗敎が合一してゐる政敎一致型と、その閒が分離してゐる政敎分離型がある。さらに前者のなかにも、宗敎が國家を支配するときは、神權政治や祭政一致制度を生み、國家が宗敎を支配する狀況では、國家は宗敎を政治的に利用し、國敎制や宗敎の公認制をつくった。後者の政敎分離型は、おおくが近代思想のもとに發生したもので、國家と宗敎は法律や制度のうえで分離される。この場合にも、さまざまなものがある。
ここでは、國家 (政治) 權力と佛敎とのかかはりの一例を、中國晋代の慧遠 (三三四〜四一六) と沙門不敬王者の問題を中心に考察するものである。
西歐キリスト敎世界にあっては、古ゲルマンの信仰としての生命力は、はやく枯死させられた
佛敎の忌避
佛敎は傳來の當初から、なによりも亡靈たちの妄執を斷って成佛させ、この世に住むものに害をなさないやうにする力をもつものとして、その社會的效用が期待されてきた。
「ホトケになる」ことを忌む
死んでしまふ
抹香くさい
葬式佛敎といふ佛敎蔑視の貶稱
佛敎儀禮をもって人の葬送と關係のふかい凶禮とみなす
幼兒葬法に於いては
ノツゴ (野っ子) にコノシロを添へてやる
死んだ子の葬式は佛式でいとなんでも、その子の靈魂の管理は佛敎にまかさず、子供の靈がホトケになって遠い淨土へ行ってしまふのを妨げようとする
閒引きへの罪惡感もあったか
奈良縣吉野郡十津川村
十津川鄕士
苗木藩 (岐阜縣加茂郡白川町)
平田國學を信奉してゐた大參事靑山直道の指揮による
薩摩藩
寺は全て破毀された
一向宗の禁制
寺請けの基盤が未成立
外城
門割
村落は自立してをらず、檀那寺は無く、寺は在っても住僧はゐない。村落は自己の責任と判斷で外部と交涉できない爲に、村は外を知らない
役人が直接藩民の宗旨を統制した
幕末も近くなったころ、島津藩の領民が、外城制の基礎にあった門割りの枠を破って自立の道を步もうとし、居住する部落ごとに平準化した地緣共同體を完成させようとしたとき、ここでも、かうした農民たちのこの世における、もっとも現實的な要求を實現するため、あの世での救濟を說く門徒集團の組織づくりが、なんの矛盾もなしに一段と活潑に展開された
財政のゆきづまりから天保の改革とよばれる、體制たてなほしに着手するのを餘儀なくされた藩當局が、そのてはじめに領內の門徒組織の潰滅をはかった
女の地位は相對的に高い
家の自立にともなふ家父長的關係の未成熟
田畑や山稼ぎをはじめ、もっぱら家の外のことを擔當した夫
主婦たちの擔當した家政とは、衣服や食糧の調整・分配だけにとどまらず、文字どおり、家のまつりごとをもって最も主要な內容とする
都市に興隆した貨幣經濟が次第に個々の農民家族をとらへて、彼らの日常の家計まで左右するやうになるにつれ、もともと家の外のことを擔當してきた男の責任と支配力が强化され、主婦の擔當してきた家政も、貨幣經濟の網目につながれることで、夫の計劃のなかに組み入れられる
薩摩ではそれが遲れた
獨特の敎義を根據とする習慣は、その敎義を忘れれば、習慣自體は日本の多くの地域に類例が在る
齒固めの餠
椿の花を供へる事を忌む
躑躅の花を供へる事を忌む
鶏精進
カケツケ
枕ハズシ
お書物
御狀
吉永親幸 (市蔵) による冥界通信
往生の報知
如來に近侍する神や祖先からの宣託
阿彌陀如來の指示、ないしは指令の形をとり、それによって敎團の統制や運營に資した
親鸞のカチビル (ミイラ)
ケカチ (飢餓) のカチ + ビル (干る)
法然は正身 (其身其儘) の阿彌陀如來であるから、淨土の開山として彼の地にあって衆生の往生を待ちうけ、親鸞は娑婆での開山として心だけ淨土に行った
ミイラ
土中入定
木食につづく斷食の後に本人の意志で絕食し果てる
木食
法然の名の下に組織化される以前の念佛者の集團もミイラ信仰を保持してゐたかもしれない
カヤカベのカチビル信仰は、薩摩の念佛者達が淨土眞宗の組織化を受ける前の信仰が强化された結果かもしれない
永年の苦行とと長期にわたる斷食と絕食のすゑ、自虐の極致としかいひやうのない形で、自らの生命を斷ったものの遺體は、その人が生前に抱いた、なみはずれた念力の凝固したものであり、それ自身が異常な靈威力をもち、呪力をはらんでゐる
命終の一念
成佛の證 + 不可思議な呪力をもつ呪物そのもの
土俗の信仰は正信から見れば雜行雜信であるが、さうしたものの存在が、人びとの信心をはげまして限りなく正信に近づけるか、逆に離反させるかの差は、そのきっかけは小さな偶然による
神のみあれ
みあれ
み現れ。み生れ
御阿禮
≒みかげ (御蔭)
祭りの度に依代をもうけ、祭場への降臨をねがふ
をとめ
河中に出現する神靈を、川に身をくぐらせ、神をすくひあげ、神の一夜妻になる
村の信仰 | 共同體の外部からやってくる神性に對する信仰
村の信仰
村以外では生きられない
生涯をほぼ村から出ずに暮らす
村の山海草木が生涯の全て
生涯の境界に道祖神が置かれる
具體的な事物から遊離しない靈格に對する信仰
祖師達が村に遺したとされる遺蹟は、祖師たちが說き明かした廣い世閒、普遍世界に弘通する尊い敎へを自分のものにするための、この世におけるかけがへのない手がかりであり、諸佛菩薩による救ひの證し
土俗の、具體物を神聖視する傳統的な信仰が、彼らのあいだで如來の代受苦の證據とされ、そのことによって彼岸の救濟についての彼らの信仰が、物質的な力を姿を備へるまでになってゐる
普遍世界に弘通する諸宗敎が特定の地域社會に土着する + 生まれて育った村の草木のひとつひとつまでが信徒たちの信仰をはげまし、酷烈な彈壓に耐へさせた
實際に目にふれるもの、日常の生活圈の內部にあるものを通じなければ、廣い世閒に通用するものも考へられないといふ土着者の執念
打たれても殺されても、信心を捨てなかった根源の動力
祖先崇拜
現實の同族や親族組織と表裏の關係
生產が順調に向上し、村落世界の擴大なり充實がなされてゐるあいだは、村全體に相互扶助が働いた
不作や饑饉の際には
相互扶助を縮小する
天候の異變がはじまると、名子たちは危うくなった耕地を捨て、親方を中心に收穫可能な耕地の保持と、救荒非常食糧の採取に全力をあげた
弱い者は犠牲になり、餓死したり、流民となった
流民となった者は眞っ先に切り捨てられた
食ひのばしのための巡禮
土地が痩せ恆常的に不作の村は、食ひのばしの爲に巡禮を裝ひ道中で乞食した
村落は記憶が失はれない程には恆常的に饑饉に遭ってきた
子供のころに食事を粗末にしたり好き嫌ひをすると、餓死した (村が餓死させた) 人の話を聞かされた
贖罪のための喜捨
父祖たちは、現實の村落生活のなかで、生きながらえること自身のなかに重大な罪業意識をもつ充分な根據があった。そのうえに人びとは、魂の共同體の實在を信じ、門口に物乞ひが立つと施しをしないでゐられなかったのではなからうか。
生まれ育った村のなかに無事に今日があるのは、神佛の恩寵そのものであり、そのために隣人を見殺しにするなど、知らずに犯した罪がどれほどあるかわからない
放浪の藝能民に、自分たちが見捨て流民にした者達を重ねた
藝能民の語る血みどろな受難と復習は、聞く側の期待にこたへ、その罪障感をやわらげて、その意味で心を慰めるもの
聞くものが語る側の怨恨といった情念の一般的な存在を豫測し、それに身をゆだね、彼らの語る血の物語によって自らの鬱屈を淨化し、原罪感覺を滿足させた
しばしば念佛の信仰が、亡靈鎭送の呪術を結びついた
疫病の流行、稻の干害、病害虫などの災害は、祀ってくれる子孫をもたないもの、この世に恨みをのこして逝ったものの靈魂の所爲と信じられてきた
鎭めて送ろうとされる亡靈は、その「最後の一念」によって現れるものである。おのずから、それは送る側にとっても、けっして他人事ではない。呪術は呪術でありながら、人の魂の救濟といふ、すぐれて宗敎的な問題につながってゆく
苦しむ神、死んで蘇る神、人閒の苦しみをおのれに背負ふ神
護國の英靈
明日には自分が流民となり餓死するかもしれない
失はれた樂園の復活をのぞむ
遁世
共同體の外部からやってくる神性に對する信仰
見知らぬ外界からの來訪者
行商人
鹽トト
塩賣りと義理の親子關係を結ぶ
漁民
海人
季節によって泊地を移動させ、假設の住居に起居し、年閒を通じて一定の水域を周囘する漂泊囘歸の生活
大型漁船がつくられはじめると、一部のものは家財を船に積み、家族をつれて魚群を追ふ家舟とよばれる水上生活者になった。
大多數のものは、適當な場所に定住して村落をつくり、できれば周圍の空閑地を開拓して農業をいとなみながら、季節によっては、かなり遠隔の漁場まで出漁するやうになって、現在の漁村があらはれた
日常でも集團の共同作業を必要とするばあいが多く、海難の危險にさらされるといふこともあって、集團共同の古い仕來りが濃厚に傳承される素地がある
鹽や魚介、海藻などの海の幸は、一般農村にとって必需品であることから、それをめぐる古い時代の神聖交易の感覺も、相互のあいだに濃く存在しつづけることとなった。
山人
金屋
藝能民
普遍的な信仰
稼業の由緖
神と人閒とのあいだに交はされた約束