認知カウンセリング
メタ認知の育成という観点からの実践的な取り組み
「何々がわからなくて困っている」という認知的な問題をかかえる学習者に対する個別的な相談と指導
その活動を通して心理学研究と学習指導をつなぐという趣旨で行われている実践的活動(市川, 1995) その指導方法として市川, 1993が挙げる6項目のうち、ここではメタ認知的モニタリングに関わる3つを取り上げる どこがわからないか、なぜわからないかを言わせてみる
これによって、自身の理解の状態が明確になるとともに、
学習場面でメタ認知的モニタリングをしようとする意識の高まりが期待できる
学習内容について、それを知らない人に教示するつもりで説明させる
これにより、自らの理解の状態が明確になるとともに、
効果的なメタ認知的モニタリングの具体的方略が獲得できる
問題を解いたあとになぜはじめは解けなかったのかを自らに問うてみる
これにより、自分に欠落していた知識や犯しやすいミスなど、注意すべき自分自身の認知の特徴を見出し、次はそうしないよう意識させられる
学習への不適応感をいだく児童・生徒への相談・指導を通じて, 教育と認知心理学的研究の結びつきをはかろうとする実践的研究活動として「認知カウンセリング」がある。認知カウンセリングでは学習者に対して, 概念, 図式, 手続きなどについての言語的記述を促し, それを通常の学習方略としても行うようにすすめることが多い。本稿では, 中学生のいくつかのケースからこうした方略が生徒にほとんどとられていないことを示した。教育的視点からは, 学習者自身の理解状態の明確化と, コミュニケーション能力の育成という点で重要な学習指導方法と考えられること, また, 認知心理学的な背景としては, 概念獲得と命題的表象の認知心理学的理論があることを述べた。さらに, 数学や理科の学習をとりあげて, 学習者の様子とカウンセラーのはたらきかけの場面を具体的に示した。最後に, 学校の授業やテストに対する提案を行い, また, 言語的記述を促す学習指導についての反対論をとりあげてそれらを批判的に検討した。 認知カウンセリングとは、認知心理学を背景として、学習や理解に関する認知的問題をかかえる人に対して個別的な面接を通じて原因を探り、解決のための支援を行う実践的研究活動である。 認知カウンセリングにおける学習指導の特徴
学習者に自分の概念や思考過程を語ってもらい、それを診断の糸口とするところ
これまでの多くの観察事例から、概念の言語的説明が日常的な学習行動の中でのレパートリーとしてほとんど使われていないことが見てとれる
これは、成績がけっして下位ではない中学生にとっても、面接場面で見出される一般的な傾向である。
筆者らの学習相談・指導では、概念、意味、性質、手続きなどについて言語的に記述することを促し、それを通常の学習方略としても行うようにすすめることが多い
まず第1に、理解の診断や深化に役立つということである。
認知カウンセリングでは、市川(1991、1993a)が「仮想的教示」という方法を提案している。 これは、仮想的な相手に教える立場になったつもりで、あることがらを説明してみるということである。
たとえば、「関数とは何か」を知らない相手に説明するつもりで言語化することになる。 それは、認知カウンセラーが学習者の理解状態を診断するのに役立つということもあるが、学習者自身の自己診断においても有効である。 つまり、うまく説明できないところはまだよくわかっていないことが、自分でわかってくる。
そこは、あらためて教科書や参考書にたち返ればよい。
こうして「わかっているのか、わかっていないのかわからない」という状態から、「説明する」という行為を通して理解状態の明確化がはかれることになる。
第2の点として、説明するということ自体が、コミュニケーション能力の育成という観点から重要であることをあげたい。 コミュニケーションはもちろん言語だけで行われるわけではない。しかし、高度な概念を伝えるには言語的な説明が不可欠であるし、図式や手続きについても、言語で補足することによって着眼点が明確になり、人に伝えやすくなる。
とくに、以下で強調するように、概念を説明するのに一般的定義と具体的事例を与えるというのは、極めて基本的な方法と考えられ、わかりやすいと言われる教科書や事典、あるいは授業などでは、およそそのような叙述がなされている。
ところが、そのことが多くの学習者に意識されていないことは、これまでのケースから見て取れる。
ちなみに、国語科の教科書の中でも、「わかりやすい説明をするための基本的な方法」として定義と具体例の重要性を強調したものは見当たらず、社会生活の中での必要性に鑑みても、我が国の教育の中で大きな盲点となっているように思われるのである。
狭義の「定義」であり、その概念のもつ共通属性を「意味」として述べるもの
外延的定義とは、その概念に属する事例を網羅するやり方である
発達・学習過程において、人間はいくつかの事例から内包を獲得するという帰納的な概念獲得を行っていると考えられる 古くは、Brunerら(1956)によって、こうした概念学習の過程が実験的に検討された しかし、そのことは内包的定義の有用性を低めることにはならない。言語による内包的定義を用いることによって、人間は極めて効率よく概念を学習したり、伝達したりできる
とくに、科学や数学で用いられる概念は一種の人工概念であるから、比較的厳密に定義されたものが多く、内包的定義を明示することが可能だし必要でもある