至近要因
ある生物現象の成立する理由を説明しようとするとき、その現象を引き起こすメカニズムを説明する立場と、その現象の存在理由を進化的な見方から説明する立場が区別できるが、前者にたったときにみいだされる要因群は、近接要因あるいは至近要因proximate factorとよばれる。 ベーカーJ. R. Bakerが1938年に鳥の繁殖期を問題にしてproximate causeとultimate causeを区別したのに始まり、トムソンA. L. Thomsonが1950年にproximate factorとultimate factorという用語を最初に用いたとされる。 著名な鳥類学者ラックD. Lackが両者を区別することの重要さを指摘し、このことがその後の進化生態学の発展に大きく寄与することとなった。 先の繁殖期の例をとると、冷温帯では小鳥は一般に初夏に繁殖を開始する。なぜ初夏なのかを問うときに、日長や気温の変化が鳥の生理的反応を引き起こすためであるとの答えと、この季節に繁殖を開始することによって一年中でもっとも食物の豊富な時期に雛(ひな)を育てることができるからであるとの答えが可能である。この場合、日長や気温は近接要因であり、食物は究極要因である。 なお、両要因はかならずしも別のものである必要はなく、先の鳥の繁殖期の例でも食物の存在が直接に雌の卵巣成熟に影響する可能性も指摘されている。