男性ホルモンは性別の認識や性指向に関わるのではなく、その後の意思決定に関わる
男性ホルモンは性別の認識や性指向に関わるのではなく、その後の意思決定に関わる
発表者
ポイント
男性ホルモンの作用を細胞に伝える2種類のタンパク質のいずれかを働かなくしたメダカのオスは、他のオスに求愛したり、メスに攻撃したりするようになりました。 通常のオスが相手の性別に応じて求愛するか攻撃するかを適切に判断できるのは、男性ホルモンがこれらのタンパク質を介して働くからだと考えられます。 脊椎動物のオスは出会った相手に求愛するか攻撃するかをどのように判断しているのか、という長年の問いに答える大きな手がかりが得られました。
概要
どの動物でも、成熟したオスは通常、メスに出会うと求愛し、他のオスに出会うと攻撃を仕掛けます。今回、東京大学大学院農学生命科学研究科の大久保範聡教授と西池雄志大学院生の研究グループは、男性ホルモンの作用を細胞に伝えるAraというタンパク質を働かなくしたメダカのオスが、他のオスに対してほとんど攻撃せず、そのかわりに盛んに求愛することを見出しました。また、男性ホルモンの作用を細胞に伝える別のタンパク質Arbを働かなくしたメダカのオスは、メスに対してあまり求愛せず、攻撃してしまうことも見出しました。AraとArbのどちらが働かなくなったメダカのオスも、相手の性別を正しく認識でき、メスへの性指向も保持しているにも関わらず、通常のオスとは違う判断をしてしまうことも分かりました。通常のオスでは、男性ホルモンがAraとArbを介して働くことで、出会った相手の性別に応じて求愛と攻撃のどちらか一方のみを適切に選択することが可能となっていると考えられます。 意外なことに、AraとArbのどちらが働かなくなったオスも、出会った相手がオスかメスかを正しく認識できており、メスへの性指向(注3)も保持していました。それにも関わらず通常のオスとは逆の判断をしてしまうことから、男性ホルモンは、性別の認識や性指向に関わるのではなく、その後の意思決定(相手がメスだから求愛しようとか、オスだから攻撃しようという判断)に関わると考えられます。また、男性ホルモンはAraを介して、視床下部(注4)とよばれる脳領域の神経細胞を活性化し、そこで社会的な行動に関わる脳内ホルモンの合成を促進すること、Arbを介して視索前野(注4)とよばれる脳領域の神経細胞を活性化し、そこで行動に関わる別の脳内ホルモンの合成を促進することも分かりました。脊椎動物のオスは出会った相手に求愛するか攻撃するかをどのように判断しているのか、という長年の問いに答える大きな手がかりが得られたことになります。