効果的加速主義
アンドリーセン氏は、物議を醸した「テクノオプティミスト宣言」の中で、彼らの著作を読めば「あなたもテクノオプティミストになれます」として、その「守護聖人」を列挙しているが、リストの最初の2人(@bassbeffjezos と @bayslord)は、効果的加速主義の支持者だ。 効果的加速主義(effective accelerationism)とは、テクノロジーの時代において、社会の改革のためにイノベーションと資本主義を最大限推し進める必要がある、という考えだ。その主唱者は次のように指摘する。 人類は、テクノロジーの進歩と成長を通じて問題を解決します。歴史上の反例、つまり人類が後退することで問題を解決した例は、ほとんどないか、存在しないに等しいです。
そのため効果的加速主義は、資本主義に反対する脱成長のような考えを「一種の降伏」であるとか、「羊の皮をかぶった狼」だとして拒絶する。
そして、イーロン・マスク氏による投稿を参照し、「人類の最も重要な目標は、意識の光を保存すること」だと語る。マスク氏の投稿内容は「私たちが宇宙を旅する文明となり、他の惑星に生命を拡張することによって、意識の光を保存しなければならない」というものだ。 また効果的加速主義は、支持者たちの間で「e/acc」(支持者たちはイー・アックと発音する)と略される。a16z のマーク・アンドリーセン氏や Y Combinator の ゲイリー・タンCEO、ビジネスツール Notion の共同創業者クリス・プルーチャ氏などは、X のユーザー名に e/acc を記載し、アイデアへの支持を表明している。 効果的加速主義の由来は、「効果的」と「加速主義」に分けられる。
そのうち後者の加速主義とは、イギリスの哲学者ニック・ランドらによって唱えられ、資本主義をテクノロジーによってさらに加速させることで社会変革を志向する立場を指す(*2)。 前者の「効果的」とは、シリコンバレーで流行する別のアイデア「効果的利他主義」に由来している。「効果的」の意味するところは、効果的利他主義との違いを通して理解することができる。両者は資本主義を支持する点では基本的に同じだが、そうして得られた富の分配方法について異なる考えを持っている。 一方、効果的加速主義によれば、人々を貧困から救い出す際には自由市場が最も効果的だという。結果として、人々に完璧さや(効果的利他主義のような)善意を求めることもしない、と示唆している。 ここでは、米・イエール大学のウィリアム・ノードハウス教授の知見が参照されている。テクノロジーの創造者は、それによって生み出された経済価値の約 2.2% しか獲得できず、残りの 97.8% は社会に流出するという。だからこそアンドリーセン氏は、「市場システムにおける技術革新は、本質的に慈善的」だと述べ、テクノロジーで加速した自由市場こそ、最も効果的に社会問題を解決できると主張し、効果的利他主義を暗に否定するのだ。
こうした考えは、富裕者がさらに裕福になることで経済全体が活性化され、低所得の貧困層にも富が波及するという、トリクルダウン理論と親和的だとされ、後述するような批判を招いている。