ハンナ・アーレントの政治概念
多数性が人間活動の条件であるというのは、私たちが人間であるという点ですべて同一でありながら、だれ一人として、過去に生きた他人、現に生きている他人、将来生きるであろう他人と、けっして同一ではないからである。
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このPDFは、徳島大学名誉教授の石田三千雄氏が執筆した「アレントにおける政治的なものについて」の論文です。この論文は、ハンナ・アレントの政治哲学を中心に、彼女が「政治的なもの」をどのように捉えたかについて考察しています。アレントは「複数性」や「自由」といった概念を通じて、人間同士の関係性が政治において重要であると述べ、政治的な行為や公共空間が人々の間で生成されるものであると主張しています。また、アレントは家族の私的領域と異なり、政治的領域が自由と平等をもたらすと考えました。 複数性
「複数性」はアレント哲学のキー・コンセプトの一つと考えられる。 ロイドルトによれば、アレントは複数性の現象学の枠組みの中で、政治的現象や政治的経験からのみ、政治的原理を抽出しており、政治的なものに対する現象学的なアプローチを示している11。
複数性は政治的なものを哲学的で現象学的な思想のうちに導入するパラダイムである。
ロイドルトは、「政治的なもの」を、複数性が「現実化されること」(actualization)と見なす。 複数性は、それ自身を現われの空間における複数性の現実化としてのみ顕示する。その際、ロイドルトはこの表現を、アレントの活動、自由および政治的なものという関連した概念、ならびに主観性、相互主観性および政治的な意味での「われわれ」に対する鍵を表わす核心となる現象と見なす。 ロイドルトは、フッサールの超越論的アプローチがアレントを満足させなかったにもかかわらず、複数性がリアリティと客観性の構成に必要とされること、歴史的な生活世界が意味創設という概念によって形作られることなどから、アレントの複数性の構想のうちに、フッサールの超越論的な相互主観性理論にきわめて近い観念が存在している、と論じる