政治は人間の複数性という事実に基づいている
アレントが問題とする人間(die Menschen)は、神が創造したとされる人間(der Mensch)や、従来、哲学や神学で扱われてきた人間ではなく、この世の産物、人間の本性の産物である(WP 9; cf.PP 93-95)。 アレントは複数性を人間の条件と見なし、それを地球上に生き、世界に住むのが一人の人間(Man)ではなく、多数の人間(men)13であるという事実(HC 7; VA 17)に見ている。
アレントの複数性には、人間がお互いに異なっているということが含まれている。アレントによれば、人間はお互いに絶対的に異なっているのであり、この差異は、民族、国民、人種という相対的な差異よりも大きい。
政治は、異なった者の間の連関と共同関係を扱う。人間たちが政治において互いに組織し合うのは、差異のまったくの混沌の中で、あるいはその混沌から、一定の本質的な「共通性」(Gemeinsamkeit)を求めてのことである(WP 9f.,12; PP 93,96)