コミュニティ
松原(1978)はMacIverとHilleryの研究を取り上げて,コミュニティ概念の成立と定義を次のように説明している(pp.5-7)
コミュニティとは「共同生活が営まれているあらゆる地域,または地域的基盤をもったあらゆる共同生活」(MacIver, 1917, 1924)
コミュニティの定義に言及した94冊の研究書を整理
それらに完全に一致する共通の定義を見出すことは困難
MacIverとHilleryがいうコミュニティの定義は,「地域性」と「共同性」の2つに集約される。 「社会的相互作用」
「共通の紐帯」
古川(1993)が述べているように,パソコン通信などのコンピュータ・ネットワーク上に成立する電子コミュニティにおいては「地域性」という規定が外れ,構成員相互の交流や共通の目標・関心事等の絆という「共同性」のみが規定として存在するようになる(pp.108-109)
ネットでは広い地域から構成員を集めることができるので,たとえ非常に限定されたものであっても社会の一定数以上の人々が共有する関心事さえテーマとして設定することができれば,そこに空間を越えたコミュニティが成立しうる
これすごい大事だmtane0412.icon
ギークハウスはネットコミュニティをリアル空間に作ろうという試みだった リアルコミュニティに地域性があるというよりも、コミュニティの本質に地域性はなかったという話に感じるmtane0412.icon
物理的限界として地域性が立ち現れる
「構成員相互の交流」という点に関して言えば,ネット上のコミュニケーションは蓄積性や検索性に優れるなど,リアル・コミュニティにはない特徴を有している
金子(1999)は,既存の組織や機構ではこれまでうまく対応できなかった社会的問題を,コミュニティが「情報の共有と共同資源化」というやり方で解決していくことができるとし,
自由や機会が拡大することと引き換えにリスクが増大するインターネット社会では,「信用や信頼の提供」が最大の問題となるが,それらを提供するための“よりどころ”にコミュニティがなりうるという
例) Linuxの成功
佐々木・北山(2000)は,パソコン用の無料基本ソフトであるリナックスの成功事例は無償で開発に参加する多くの自発的な人々からなる“リナックス・コミュニティ”の存在に負うところが極めて大きいと指摘した。そして,ソフトウェア開発作業というある種の「情報の編集」作業においては,多様な環境にいる多くの人々の自発的な情報発信を“ソフトウェア”という価値物に結晶化していくことができるコミュニティという活動の舞台が適切かつ有効に機能したと主張している。
HagelandArmstrong(1997)は,ネット・コミュニティとは「興味・関心(interest or purpose)」「人とのふれあい(relations)」「幻想・非日常性(fantasy)」「購買・取引(transactions)」という人間が持つ4つの基本的な欲望を満たすことに根ざして組織されるものであると分析した。 SchubertandGinsburg(2000)は,ネット・コミュニティをさらに系統的に分類した。
彼らは,HagelandArmstrongのいう「関心(interest)」を社会的関心と商業的関心とに分類した上で,社会的関心のコミュニティの中に「社会的関係(relationship)」や「非日常性(fantasy)」が得られるコミュニティなどが含まれるとし,商業的関心のコミュニティの中に「商取引(commerce)」や「購買・取引(transaction)」を訴求するコミュニティなどが含まれるとした。 SchubertandGinsburgのいうネット・コミュニティには,消費者からなるコミュニティだけでなく,経済的動機から成立するビジネス・コミュニティも包含されている点が特徴的である
ネット・コミュニティは,池田・柴内(1997)が言う「聞き耳」だけを立てて情報を得るだけの参加者が多数を占める点にもリアル・コミュニティにはない特徴がある。 小川・佐々木・津田・吉松・國領(2003)は,ネット・コミュニティに参加する消費者を「書き込みをして情報発信を行うメンバー(RAM:Radical Access Member)」と,「情報を黙って読んでいるだけのROM(Read Only Member)」とに分け,それまでの研究では注目されることの少なかったROMがコミュニティで得た製品評価情報を外部に伝播させ第三者の購買を誘発する上で大きな貢献をしていることを明らかにした。 澁谷(2003)では社会的比較過程理論を援用し,ROMの情報収集行動や意見形成プロセスを説明する枠組みを以下のように説明している。 比較理論は,人が自分と他人を比較することで自分の意見の確信を強めたり弱めたりしているプロセスを扱う。
比較には2つのレベル
第1レベルでは自分と他人の意見内容そのものが比較される
第2レベルでは自分と他人の属性が比較される。
第1レベルの比較で他人の意見が自分と近いものであることがわかると自分の意見に対する確信が高まるが,第2レベルの比較で互いの属性を比較した結果,自分とよく似た他人が発している意見であるということがわかると,さらに確信が強まるという
ネット・コミュニティは第1レベルの比較,すなわち意見内容の比較には適しているが,意見を発している人物の属性情報が得られないことが多いため,第2レベルでの確信強化がなされないことが多い
澁谷(2004a)では,ネット・コミュニティを設計し運営する側が,そのコミュニティにおいて人々が他者の意見内容を評価したりする際に重要となる「類同属性」が開示されたり,意見内容と同時に表示されるような仕組みを取ること,すなわち「類同性認知の操作」が参加者の確信増大につながるという示唆を提示している コミュニティ全体の情報処理能力は参加者の数に比例して増加するが,同時に関係の数が参加者の二乗に比例して増加してしまう結果,情報処理負荷が急速に増大し,規模の限界に直面することになる
ジレンマを乗り越えるための課題
1. 変化していく状況に合わせて柔軟にコミュニティ・サイトの枠組みを再設定していくこと
2. 参加者の規模を設定するといった環境条件を整備すること
3. ネットワークの経済性などを利用して参加者の離脱を防ぐ誘因を構成すること