ゲノムインプリンティング
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ゲノム刷り込みと疾患
一方の親から受け継いだ遺伝子だけが選択的に発現することは、利用できる遺伝子が一つしかないため受け継いだ遺伝子に欠陥があった場合にそのバックアップがなく、流産または遺伝子疾患になってしまうことがある。 ゲノム刷り込みの必要性
上記のような問題点があるにもかかわらず、なぜゲノム刷り込みが必要であるか(なぜ哺乳類に備わっているか)については、いくつかの仮説が唱えられている。 仮説の一つとして、「単為発生を防ぐため」というものがある。この仮説のように「これこれのため」という目的説の妥当性は別として、ゲノム刷り込みがあるせいで哺乳類では単為発生が起こらないことは事実である。 仮説の一つとして、「全ての遺伝子を発現させるためだ」というものがある。この仮説に従えば、哺乳類のように高度に発達した生物に進化するには、ゲノム刷り込みが必要だったことになる。逆に言えば、ゲノム刷り込みがあったからこそ、哺乳類は(部分的に発現しない遺伝子をもって個体発生が成功するような危険を冒さずに)高度な個体組織をもつように進化できたことになる。
ゲノム刷り込みは、個体発生や胎盤形成と密接な関係があることもわかってきた。なお、ゲノム刷り込みが起こるのは、有袋類と有胎盤類である。単孔類は違う。また、有袋類と有胎盤類のあいだで、ゲノム刷り込みの機構は大きく進化した。 ゲノム刷り込みの機構
ゲノム刷り込みは分子生物学的な表現ではDNAのメチル化による転写調節異常とされている。その機構はほぼ解明されているが、非常に複雑である。 DNA配列自体には明らかな特徴がないため全ゲノム中でどの程度の遺伝子がこの作用をうけているのかは分かっておらず、現在知られているものはほぼ全て偶然発見された遺伝子である。
ヒトをはじめとする哺乳類はすべて父親と母親に由来する一対のゲノムを持っている。従って、常染色体上のすべての遺伝子座に一対の対立遺伝子があり、通常それらはともに発現して個体の発生や生体の営みを調節している。
これらの胚の形態を観察すると、母親由来ゲノムだけを持つ単為発生胚と雌核発生胚は、胚体の発達は比較的よい(ただしサイズは小さい)が胎盤の栄養膜の発達が非常に悪い。逆に父親由来ゲノムだけを持つ雄核発生では、栄養膜はよく発達するのに対し胚体は貧弱なものしか観察されない。よって父親・母親由来ゲノムには対極的な働きがあり、父親由来ゲノムは栄養膜の発達に、母親由来ゲノムは胚体の発達に必須である。 単為発生胚や雄核発生胚に由来する細胞を正常胚細胞と混合しキメラ(chimera)胚を作成すると、正常細胞がこれらの細胞の欠陥をある程度補償するので、さらに詳しく分化能がわかる。 その結果
(1)単為発生細胞を含むキメラは正常胚より30~50%程度小さく、雄核発生細胞を含むキメラは同程度大きい
(2)単為発生細胞は生殖細胞、脳、心、腎、脾などで高い寄与率を示すが、骨格筋、肝、膵には分化できない
(3)雄核発生細胞は骨格筋、心、骨などに寄与するが脳での寄与率は低い
などがわかった。このように父親・母親由来のゲノムは胚の成長や各細胞系列の分化・増殖を調節している。