〈コラム〉心理学からみた「かわいい」
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何でもありの「かわいい」という言葉を説明するために、筆者は「かわいい」を感情として捉える心理学モデルを提唱した https://gyazo.com/1eaa49dd8fae2574b2e9dc0a35f093e8
身体に比べて大きな頭、前に突き出した広い額、顔の中心よりも下側にある大きな目といった特徴を人間は本能的にかわいいと感じ、対象を保護したり養育したりする行動が引き起こされる
今日の日本では「かわいい」という言葉をベビースキーマと関連しないものやファッションなどに使うこともある
また、誰もが同じものをかわいいと感じるわけではない
様々な対象の幼さとかわいさを調べた筆者らの調査から、幼さとかわいさの間にある相関関係は中程度であることがわかった
幼いものはかわいいと感じられやすい
その一方で、幼さが低くてもかわいさの高い対象(例えば「笑顔」)も存在する
笑顔は男女を通じて最もかわいさの得点が高かった
さまざまなかわいい対象に接する場面をイメージし、その時の心理状態を評定してもらう研究も行った
かわいいという気持ちを共通して説明するのは、「保護したい」「助けたい」といった気持ちではなく、「近づきたい」「そばに置いておきたい」という気持ちだとわかった
後者のような、対象に接近したいという気持ち(接近動機・接近欲求)が「かわいい」という感情の1つの核であると考えられる これに関連して、かわいい写真ほど長い時間見つめられるという知見もある
また、かわいいものを見ると、口角を上げる大頬骨筋の活動が高まり、笑顔になる 先ほど紹介した調査では笑顔はかわいいと評価された
かわいいと感じると笑顔になり、笑顔はかわいいと感じられる
かわいいが社会的な場面で増幅される感情であることを示唆
これまでの知見を総合すると、「かわいい」は対象に緊張や脅威を感じず、社会的な接近動機づけを伴うポジティブな感情状態として捉えることができる
ベビースキーマに関連したものに限らず、そういった状態を引き起こす対象を包括的に「かわいい」と呼ぶようになったのだろう
「キモいといわれるけれど、私は興味もあるし、ちょっと見てみたい」という気持ちを表している
「○○かわいい」という表現は、対象についての自分の肯定的な態度を表すものであるから、正解がない
だから、「かわいい」は何でもありになるし、ネガティブな表現を緩和する言葉として、日常生活で頻繁に使われるのであろう
しかし、それだけでは、なぜ日本において「かわいい文化」がこれほど避けたのかを説明できない
日本人には「甘え」(他者の愛情や受容を得ようとする行動や動機)や「縮み志向」(手で触れることのできる小さなものに愛着を持つ傾向)といった特性が強いと言われている このような伝統によって、日本では「感情としてのかわいい」が社会的に許容され、注目されるようになったと筆者は考えている
近年、心理学や神経科学の分野において「かわいい」の研究が再び盛んになってきた 幼いかわいさ(cuteness)についての研究が中心であるが、ベビースキーマ説を超えようとする動きが徐々に表れている このような変化は相手を自分たちの仲間と認めることにつながるという
また、ネンコフとスコットは、海外の研究で初めて、幼い以外のかわいさを取り上げた実験を行った 反対に、ベビースキーマに関連したかわいさは、慎重で自律的な行動を引き起こすと主張している
「かわいい」は"cuteness"よりも広く、自分と対象との関係から生じる感情を中心とした概念であると考えることができる