秦正樹
近年,世界中の政治過程において,これまでにない「地殻変動」が起きています.たとえば,トランプ大統領の誕生やイギリスのEU離脱は記憶に新しいでしょう.日本に限定しても,「慰安婦像」の設置問題にもわかる対韓関係,北朝鮮ミサイル問題,尖閣諸島をめぐる対中外交,北方領土をめぐる対露外交,そして「わからないずくめ」のトランプ大統領をめぐる対米関係など,悩みのタネは尽きません.
では,日本の世論は,こうした厳しい安保・外交環境の中で,どのような戦略を望み,あるいは対外関係を考えているのでしょう.
最近はこのような現実的な問題に関心をもっており...(3)いわゆる「ネット右翼」の主張する言説は現実の世論にどのような影響を与えるのか,... とくに現在は,(3)のテーマを重点的に分析しています.「ネトウヨ」に関する研究は,意外なことに(実証)政治学による分析はほぼ皆無で,社会学や社会心理学の研究蓄積に集中しています.
あるいは「論壇」と呼ばれる人々が様々な分析結果を報告していますが,それらは印象論だったり,統計学的な妥当性を欠く分析がほとんどです.
さらに既存の研究は,排外主義に注目したり,どのような人がネトウヨかの分析が多く,なぜネトウヨ化していくのかという「因果関係」にまでは踏み込めていません.
また「便所の書き込み」ともいわれる「2ちゃんねる」(やまとめサイト,近年話題になっているフェイクニュース)などでの怪しい情報を信用してしまう人が多数を占め,それにもとづいて「投票」したとしたら…近年の政治劇を見ても「さすがに皆そんな馬鹿じゃないよ」と笑って片付けられないでしょう.
そこで私は,前述の実験的手法やテキストマイニングなどの「妥当な」統計的手法を利用した上で,「陰謀論」や「デマ」といった政治的なうわさ(Political Rumor)について,なぜ・どのように怪しい政治情報を信じ,また政治的な結果につながっていくのかについて研究をしています. こうした「ネットの怪しい情報」を信じる人は,以前は一部の人だと言われていましたが,「まとめサイト」などを通して日本の世論にもじわじわと侵食しています. 実際に,秦が行なった全国世論調査において「民進党は反日政党だと思うか」と尋ねた所,実に4割の人々が「同意」もしくは「やや同意」と回答しました.確かに民進党に対する世論の評価は凄まじく低いのではありますが,嫌いな理由が「反日」という”ネット的な“考え方にもとづいている(しかもネットをさほど使わないような人々においても)とは私も思いもしませんでした. こうした研究テーマは,ややもすれば「色物」と思われるかも知れませんが,実は諸外国でも同様の枠組みにもとづいた研究の蓄積があり(たとえば,B.Swire先生やA.Berinsky先生の一連の研究がProcessing political misinformation: comprehending the Trump phenomenonにまとめられています),American Journal of Political Scienceという一流論文誌にも同様の論文が載っています.
秦としては,日本の政治文化や文脈を「利用」(適合的事例と)して「日本のイマを正確に記述する」と同時に,「政治的うわさの受容過程」という政治心理学における理論(一般化可能性)を広げられるような研究にしていきたいと思っています.