放送法
有馬哲夫
受信料判決の「親判決」というべきものが、2017年12月6日に最高裁判所大法廷で下された判決だ。NHKが受信契約の申し込みに応じない男性に対して起こした裁判である。最高裁まで争われた結果、大法廷は「受信契約を義務づける放送法の規定は、憲法に違反しない」という初めての判断を示したため、当時かなり注目された。
判決文は非常に長く、いろいろな論点が盛り込まれているが要点をまとめると次の二つになる。
1.NHKだけが公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように放送を行うことを目的としている。 2.NHKは民間放送とは違って営利を目的としない公共的性格を持っており、広告が禁じられているので受信料を徴収することができる。
1の反論:衛星波があるのでNHK以外も日本全国で受信できる
NHKがかつて「あまねく日本全国において受信できるよう」、離島に至るまで、電波のリレー網を整備したこと、そのために多額の資金をつぎ込んでいたことは事実である。
地上波アナログ放送の時代は、NHKのみ全国的リレー網を持っていたために、民放は全国どこでも視聴できるわけではなかった。地方ではNHKプラス民放1局または2局という時代が長かった。現在でも民放5系列をすべて視聴できる県は少ない。
しかし、このリレー網は現在必要ない。今では、宇宙空間にある衛星から衛星波で日本全国に放送できる。事実、衛星放送のアンテナとチューナーさえあれば、日本のどこでもBS日テレ、BS朝日、BS-TBS、BSフジ、BSテレ東を受信し、視聴できる。
衛星放送が始まってからは、NHKだけが「あまねく日本全国において受信できる」放送局ではなくなったのだ。
BSアンテナの普及率は?
NHKが設備投資した放送リレー網も、それまでに得た受信料収入で減価償却は終わったと見るべきだ。
2の反論:NHKが民間放送と違う公共的性格は法律上ない。広告が打てないのは法改正すれば良いのではないか
法律を変えて、広告収入を得てもいいことにすればどうか。
日本だけ見ていると気が付かないが、世界では公共放送が広告を流すのは珍しくない。韓国、中華民国、スリランカ、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、アイルランド、アイスランド、オーストラリア、ニュージーランド、ベルギーなどの国々では公共放送が広告収入を得ている。
これらの国々の公共放送は、受信料や国からの交付金が収入の大部分を占めていて、広告収入はそれほど多くない。しかし、それは受信料・交付金が入るからであって、これらに頼ることができないとなれば、広告放送への力の入れ方も違ってくるだろうし、それによって収入を大幅に増やすことができるだろう。
それでは、広告を流すことによって公共的性格は損なわれるだろうか。答えは、そもそもNHKは、民放にはない公共的性格など持っていないので、損なわれるものは何もないというものだ。
むしろ、NHKは受信料制度があるがためにほとんど政府の広報機関と化していて、報道機関として民間放送にはない大きな欠陥を持っている。
よく勘違いされていることだが、不偏不党、表現の自由を確保すること、健全な民主主義の発達に資することは、...民放を含めた放送全体が果たさなければならない放送法上の義務だ。したがって、これらのことはNHKだけが持っている公共的性格ではない。
歴代の総務省のNHK受信料を審議する委員会のメンバーは「NHKの公共性とは何か」と問い続けてきた。