国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて
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2005
ロシア外交、北方領土をめぐるスキャンダルとして政官界を震撼させた「鈴木宗男事件」。その“断罪”の背後では、国家の大規模な路線転換が絶対矛盾を抱えながら進んでいた――。外務省きっての情報のプロとして対ロ交渉の最前線を支えていた著者が、逮捕後の検察との息詰まる応酬を再現して「国策捜査」の真相を明かす。
それまでの外務省には「日米同盟を基調とする中で、三つの異なった潮流」があった。
第一の潮流は集団的自衛権を認めて、さらに日米同盟を強化しようという狭義の「親米主義」。
第二は中国と安定した関係を構築することに比重を置く「チャイナスクール」の「アジア主義」。
第三が東郷和彦・欧亜局長や著者ら「ロシアスクール」が主導した「地政学論」
この「地政学論」は日本がアジア・太平洋地域に位置していることを重視する。日米中ロの四大国によるパワーゲームの時代が始まったのだから、今のうちに最も距離のある日本とロシアの関係を近づけ、日ロ米三国で将来的脅威となる中国を抑え込む枠組みをつくっておこうという考え方だ。
だが、ムネオ疑惑で「地政学論」のロシアスクールが外務省から排除された。
さらに親中派の田中外相の失脚で「アジア主義」が後退し、
結局「親米主義」が唯一の路線として生き残った。その結果生まれたのが今の対米追従一辺倒の外交政策である。もし一連の事件がなかったら、今ほどロシアや中国との関係は悪化しなかっただろうし、自衛隊のイラク派遣や多国籍軍参加もなかっただろう。
著者はムネオ疑惑が日本の社会・経済モデルを従来の「公平配分」型から金持ち優遇の「傾斜配分」型に転換させる機能を果たしたと指摘する。
鈴木氏は公共事業で中央の富を地方に再分配する「公平配分」型の代表的政治家だ。小泉純一郎政権は政治腐敗の根絶をスローガンにして鈴木氏を叩くことにより、国民の喝采を浴びながら「傾斜配分」型モデルへの路線転換を容易にすることができたというわけだ。