不法占有者が「登記の欠缺を主張する正当の利益を有する」ことが争われたのはなぜ
from 呉明植基礎本『民法総則』第3版
疑問
p. 22 不法占有者は登記の欠缺を主張する正当の利益を有さないのが判例・通説
ということは、不法占有者が登記の欠缺を主張する正当の利益を有すると裁判で争った事件があったって...コト!?
当たり前すぎることをなんで争うことになったのか?
調査
この判例は模範六法によれば
23 何らの権原なく不動産を占有する不法占有者は、本条にいう「第三者」に該当しない。(最判昭25・12・19民集四–一二–六六〇)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55963
細かい事案が書いてない基素.icon*2
LEX/DBから当時の判決文にアクセスできた
細かな事件の内容は書いていないが、上告代理人の主張が書いてある
o3.icon最判昭和25年12月19日(昭24オ296 家屋明渡請求)―事案の骨子
所有者Aが家屋を買主Xに売却。Xはまだ移転登記をしていなかった。
家屋にはもともと賃借人Yが居住。売買後、XとYは賃貸借を終了させることで合意したが、Yは退去せず無権原で占有を続けた。
Xは所有権に基づいて建物明渡訴訟を提起。Yは「登記が無いからXの所有権は対抗できない」と主張。
最高裁は「原審の認定によれば、Yは何らの権原なく占有する不法占有者である。不法占有者は民法177条の『第三者』に当たらない。したがってXは登記が無くても所有権を対抗できる」としてYの上告を棄却した
https://orange.suzukikenji.com/2015/08/31/post-2721/
https://www.retio.or.jp/wp-content/uploads/2024/12/113.pdf
なるほどなー。こんな感じ基素.icon
https://gyazo.com/1c29fa87476f292b39ef410c235ba3e2
所有権の書き方がまだ怪しい
基素.icon代理人の主張を要約するとどうなる?
o3.icon
被上告人(建物の所有者と主張する側)は売買契約書しかなく、登記がない
→ 登記がないままでは本当に所有者か確定できず、明渡しを求める資格がない
民法176条(所有権移転は当事者間の意思表示で成立)と177条(登記がなければ第三者に対抗できない)を正しく適用すべきだったのに、原審は十分に調べず判決理由も不備
上告人(占有者)は「第三者」に当たるから、登記の欠けている被上告人に対して所有権を争える
→ 登記が無い限り明渡しを拒める
原審は証拠(乙第6号証など)を精査せず、被上告人が登記名義人でない事実を見落としたまま請求を認めた
→ 審理不足・理由欠缺で判決は取り消されるべき
以上の理由で、原判決を破棄し、占有を続ける権利があるとの判断を求める
...不法占有者は民法第一七七条にいう「第三者」に該当せず、これに対しては登記がなくても所有権の取得を対抗し得るものであること大審院の不変の判例で、当裁判所も是認する処である。...
大審院を引いて判定しているからもっと過去がありそう基素.icon
o3.icon「大審院の不変の判例」として引用される主な先例
大審院明治41年12月15日判決
民録14輯1276頁(建物所有権確認請求事件)
判旨:「第三者」とは「当事者または包括承継人でなく、登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者」をいう。不法占有者のように正当権原のない者はこれに該当しない。
大審院大正9年11月11日判決(判例百選では補充例として紹介)
判例集未収録だが解説文献多数。
不法占有地を明渡さない占有者は177条の第三者に含まれず、登記の欠缺を主張できないと判示。
(参考)大審院明治40年10月10日判決(民録12輯1219頁)
明41判決でも引用された先行例。内容は上記と同趣旨で、無権原者排除の基調を早期に示した。
これらの大審院判決が一貫して「無権原占有者=第三者でない」という立場を採り、最高裁昭25判がそれを「不変の判例」と再確認したという流れになる。
24 仮装売買の買主のように、ある不動産につき実質上所有権を有せず、登記簿上所有者として表示されているにすぎない架空の権利者は、実体上の所有権を取得したものに対して、その登記の欠缺を主張しえない。(最判昭34・2・12民集一三–二–九一)