ドイツ
【Tooze】トランプの欧州政策は文化戦争の輸出。NSSにおけるロシア・中国との「大国対話」とは対照的に、欧州はMAGAが国内で戦うウォーキズムwokeの外部版として扱われている。大替理論や移民スケアモンジャリングを欧州に投影しているが、地中海では難民が実際に溺れており、「リベラルが移民を招いた」というのはMAGAのファンタジーでしかない。 【Tooze】ドイツの人口構成は急激に変わった。自分が子供の頃(1970年代)は外国人の子が学校に入った最初の世代。今や都市部の小学校で移民背景を持つ子供が半数超、ドイツ全人口の約30%が移民・移民ルーツ。変化の速度はかつての米国の移民ピーク期に匹敵する。CDUのメルツ首相が「都市の見た目」という犬笛発言をするほど、中道右派でもこの変化の問題化が進んでいる。
【Krugman】ベルリンは以前より「くたびれた」感じになった。1990年代から通い続けているが、確かに変化を感じると。そして公共交通はアメリカよりずっとマシだが、全体的に草臥れた印象がある。
【Tooze】それは単純に金がないせい。債務ブレーキで自治体への財政移転が締め上げられた結果で、鉄道・学校・道路インフラすべてが老朽化。重軍事装備を運べない橋まで出てきているレベル。「高レベルの不幸」(misery at a high level)という表現がぴったりで、暴力犯罪率はアメリカよりはるかに低く、公共交通は比べ物にならないほどマシだが、ピカピカではない。
【Tooze】ドイツ経済はWile E. Coyoteの状態。実質ゼロ成長の「失われた10年」が続いており、R&D投資が自動車産業に集中したまま中国EVメーカーに追い越された。主要企業は100〜150年前から続く老舗ばかりで、かつてはそれが強みだったが今は硬直の象徴。中国市場への輸出依存で20年間は潤ったが、ここ5年で完全に逆回転した。
【Krugman】欧州の脱工業化議論は奇妙。ドイツは今でも巨大な貿易黒字を持っており、トランプ的な「脱工業化=貿易赤字が原因」論は成立しない。ドイツの「脱工業化」はあくまで製造業比率が英仏並みに収束しているだけで、絶対的な凋落ではない。
【Tooze】Mario Draghi報告書の本音は「欧州も国家資本主義にシフトしろ」。競争規制を緩めて大企業の寡占的利益を容認し、官民協力でイノベーション投資せよということ。要は「ルールを真面目に守りすぎた、米中はずっと別のゲームをしていた」という認識で、フランスが長年訴えてきた国家チャンピオン戦略のEU版。Toozeはドラギを「欧州資本の最も雄弁な代弁者」とも評している。 【Krugman】ドラギは史上最高の中銀マン。「Whatever it takes」の一言でユーロ崩壊危機をあっさり終わらせた。あの発言の有効性は人類史上最も効果的な中央銀行コミュニケーションだろうと。
【Tooze】フランスは政治的機能不全が本当の問題。国債利回りがスペイン・イタリア水準に接近しているのがニュースになっているが、財政危機として本質的に深刻なわけではない(対GDP比の債務はほぼアメリカ並み)。問題はマクロンの中道路線の失敗と、次の大統領選でル・ペンを阻止できる連合が組めるか見えないこと。 【Krugman・Tooze共通認識】欧州の極右台頭の要因はどこも似たり寄ったり。イスラモフォビア(米国の反黒人感情に対応)、反エリート・反PMC感情、かつての安定した労働者階級的生活水準への喪失感、地域間格差の組み合わせ。比例代表制なので各勢力が「見える化」されているだけで、スペクトラムの幅は米国の民主党AOC〜共和党MAGAと実は変わらないとToozeは指摘。
【Tooze】AfDはトランプGOPより右ではない。ただドイツ語で言っているだけ。ドイツでの戦略は「封じ込め(ファイアウォール)」で誰もAfDと組まないが、25%の得票政党を排除したまま連立をどう組むかという矛盾に直面。イタリアがメローニを取り込んで飼い慣らした「変容主義(transformismo)」とは対照的なアプローチで、どちらが正解かは不明。 【Krugman・Tooze共通認識】ウクライナ支援は期待を超えている。欧州は本物の地政学的危機に直面し、米国が離脱する中でもそれなりに応答できている。ドイツが今年2/3多数決で債務ブレーキを廃止したことも含め、欧州には制度的変化の柔軟性がある——米国では今これが起きることは想像もできないとKrugmanは言う。AIが全てを決めるなら欧州は不利だが、AIバブルが崩壊すれば米国の株式市場が吹っ飛んで相対的に欧州評価が上がる可能性もあるとToozeは留保をつけながら、若干楽観的な見通しで締めた。