アメリカの円安牽制
円は11月以降のわずか3カ月間でドルに対して約19%下落した。本来ならば、米ビッグスリーなどによる円安批判にホワイトハウスが同調し、圧力をかけてきてもおかしくない。 日本の最大の輸出先は、OECD(経済協力開発機構)公表の「付加価値ベースの貿易統計」を見れば、中国ではなく依然として米国であり、ドル高・円安の急激な進行による通商上の影響は、米国において大きく発生するからだ。オバマ政権が本気で圧力をかけてきたら、アベノミクスはひとたまりもない。
ところが、現時点で、ワシントンから円安批判は全く聞こえてこない。それどころか、2月11日には、円安容認と市場に受け止められかねないアベノミクス支持の言葉が米財務次官の口から飛び出すなど、メルケル独首相を筆頭に、警戒感をあらわにしている欧州諸国や韓国、中国とは対照的なリアクションを見せている。誰の目から見ても、米国政府の意思がこうした言動に込められていると判断するのが妥当だろう。
その意思の中身は、たとえば、昨年8月に米シンクタンクのCSIS(戦略国際問題研究所)から発表された報告書、いわゆる「第3次アーミテージ・レポート」からも読み取ることができる。
主な執筆者は、米国の歴代政権に大きな影響力を持つといわれるリチャード・アーミテージ元米国務副長官とジョセフ・ナイ元米国防次官補(現ハーバード大学教授)だ。
ここでは細かい内容には触れないが、重要なことは報告書の底流に通奏低音のように流れる日本弱体化への警戒感である。「米国は、日本が強力な米国を必要としているのと同等に、強力な日本を必要としている」との一文を読むだけで、ワシントンの空気が読み取れる。