Vibecession
2025-11-20 "The Vibecession Deepens"
「バイブセッション」とは何か: 実体経済の指標はそこそこマシなのに、消費者の景気感覚だけが「どん底」みたいな状態のことを指す造語。バイデン時代に有名になった現象で、クルーグマンはこれが今のトランプ政権下でもまだ続いてるどころか、むしろ深刻化してると言っている。
クルーグマン本人も驚いてる: 普通に考えれば「自分の党が政権を取ったらみんな気分よくなる」という効果があるはず(実際、ミシガン大の調査データを見ると、与党支持者は景気感覚が上がり野党支持者は下がる、という動きが両党ともに明確にある)。共和党支持者の方が「政権取ったら大喜び」傾向が強いのだから、トランプ復帰でセンチメント改善するはずだった。なのにそうなってない、という話。
なぜ改善しないのか・仮説その1「嘘がバレてる」: バイデンが「インフレを上回って賃金は上がってる」と言ってたのは正直な話(事実だったが民心には刺さらなかった)。翻って、トランプは「食料品の値段が大幅に下がった」と繰り返しているが、これはただの嘘。人々はその嘘に薄々気づいているんじゃないか、というのがクルーグマンの見立て。
仮説その2「言い訳がひどすぎる」: 財務長官スコット・ベッセントは「当初は良識ある大人枠」として売り出されたはずが、今や「移民が病気の牛を連れてきたから牛肉が高いんだ」などという荒唐無稽な言い訳をかます始末。こんな説明を聞かされ続けたら、有権者の経済への信頼感が下がるのも無理はない。
仮説その3「イメージの全体汚染」: エプスタイン問題やICEによる強制送還の不人気など、経済以外のスキャンダルや不評政策が、経済センチメントにも滲み出てきているのかもしれない。政治コンサルタントは「台所の問題」と「民主主義の問題」を有権者が分けて考えると想定したがるが、実際は全部ゴッチャになって「なんとなく嫌な感じ」という一塊の感情として機能する。
2025-11-16 "Vibecessions, Part I"
「バイブセッション」とは何か:景気指標は悪くないのに人々が経済に悲観的になる現象を、Kyla Scanlonが「vibecession(バイブセッション)」と名付けた。
トランプの嘘と実態のズレ:トランプは「食料品価格は激下がり」とか言ってるが、これは単純に嘘。ただそれはそれとして、客観指標(失業率4.3%、インフレ3%)は歴史的に見てそこまで悪くない数字なのに、消費者センチメント(ミシガン大調査)は2022年のインフレ9%時代や、リーマン後の二桁失業率時代や、1980年のスタグフレーション時代より今のほうが悪いという謎状態になっている。
バイデンとトランプの「共通点」は表面的:バイデン政権もいい数字を出しても国民の不満を解消できなかったが、あっちは少なくとも本当のデータを示していた。トランプは嘘をついている。これを同列に語るのはフェアではない。とはいえ「良い指標なのに国民は悲観的」という現象が2政権連続で起きているのは確かだ。
本シリーズが扱う論点:①バイデノミクスは実はかなり良かったという話、②インフレの経緯、③なぜ人々はインフレをあんなに嫌うのか、④それでもバイブセッションが謎である件——をこの回でまとめ、次週はその「謎」の説明を試みる予定。
「決定的な説明を持っているとは主張しない」
2025-11-23 "Vibecessions, Part II - Paul Krugman"
数字と感情のギャップは昔からあるが、今回のアメリカは特にひどい。バイデン時代は「いい数字なのに怒ってた」、トランプ時代は「まあまあ悪い数字でもっと怒ってる」。その理由は一つじゃなく、メディア・党派性・物価水準感覚・実体経済・大統領の嘘が複合的に絡んでいる
ソフトランディングの奇跡が完全スルーされた件:2024年10月時点で失業率4.1%、インフレ2.6%。2年前にサマーズが「インフレ退治には数年の高失業率が必要」とか言い、Bloombergが「景気後退確率100%」とか煽ってたのに、蓋を開けたら歴史的なソフトランディング。なのに国民は超不満。経済を最重視した有権者のトランプ支持は60ポイント差という圧勝で、ハリスが負けた大きな原因になった。
トランプ政権になったら今度は逆回転:2025年9月時点で失業率4.4%、インフレ3%。数字としては大惨事ではないが、トランプが言う「史上最強のアメリカ経済」でも「物価下落中」でもない。それでも国民の悲観度はさらに悪化。ミシガン消費者信頼感指数が2008年金融危機直後どころか、失業7%超・インフレ14%だった1980年よりも低いという驚愕の事態。
政治的怒りも逆転:直近のバージニア・ニュージャージー知事選では、経済重視層が民主党を30ポイント差で支持。1年前の60ポイント差トランプ支持から90ポイントのスウィング。アメリカ人の怒りのベクトルが変わった。
「バイブセッション」の原因候補(有料部分で詳述):クルーグマンは「これが原因だ!」という一元論を見つけられなかったと正直に言っており、以下の複数要因が絡み合っていると分析している:
1. メディアのネガティブ報道バイアス
2. 極端な党派対立(自分が支持しない政権の経済は悪く見える)
3. 人々はインフレ率ではなく「物価の水準」を気にしている(物価が上がったこと自体への怒りが持続する)
4. 実は経済が見た目より悪い可能性
5. トランプの支離滅裂な経済政策がもたらす不安感
2026-04-22 Bad Vibes and Broken Promises
2026-04-17#69e215f100000000001bafabと似た内容
アメリカ人はトランプ2期目の経済を心底嫌っている。Reuters/Ipsosの世論調査では経済承認率が純マイナス33ポイント、価格・インフレに至ってはマイナス46ポイントというぶっ飛んだ数字で、ミシガン大の消費者心理指数は史上最低水準を更新中。
ところが実体経済の数字はそこまで悪くない。インフレ率は約3%、失業率は4%強——歴史的に見れば十分まともな数字だ。なのになぜこんなに怒ってるのか、というのが問題の本質。
バイデン期の怒りの説明:Bernstein & Morrisの「価格水準」仮説
Jared Bernstein(ちゃんとした経済学者)とG. Elliott Morris(世論調査の俺の頼れる男)は、アメリカ人が怒っているのはインフレ「率」ではなく「物価水準」そのものだと主張。
つまり「数十年続いた低インフレ時代の物価に戻せ」という要求で、それが実現しないから(そもそも原理的に無理なのだが、そんなこと一般の人は知らない)怒りが続いているという話。
クルーグマンもこの説には一定の敬意を払いつつ、バイデン期の不満はこれで説明できると認める。
なぜバイデンはレーガンより叩かれたか? レーガンは高インフレ期の後に登場したので「物価が上がっても予想の範囲内」だったが、バイデンは数十年の低インフレ後に着任したため価格上昇が「ショック」として受け取られた。これで調整すると、Bernstein & Morrisの説はバイデン期によくフィットする。
トランプ2期の怒りはそれだけでは説明できない——クルーグマンの追加仮説
問題は、トランプ2期になってからさらに怒りと悲観が増幅していること。「古き良き物価への郷愁」だけが原因なら、そのうち慣れてマシになるはずなのに、逆に悪化している。
クルーグマンの仮説:トランプが2024年選挙戦で「就任初日に食料品価格を下げる」「エネルギー価格を半分にする」と大風呂敷を広げたことへの反動ではないか。
実際に多くの人がこれを信じた証拠:トランプ当選後、共和党支持者のインフレ期待が急落してほぼゼロに。一方、民主党支持者の期待は逆に上昇(こっちのほうが正確だった)。
高卒以下の低学歴層でも当選直後にインフレ期待が急落し、その後は急騰——約束を信じて裏切られた典型的なパターン。
「低情報有権者」(どの党が議会を支配しているか知らない層)が2024年にトランプを押し上げたが、今は激しく反発。これも「不可能な約束を信じた→嘘だとわかった→激怒」の流れと整合する。
バイデンとトランプの道義的非対称性
バイデンは誤った判断はしたが、意図的に嘘をついたわけではない。供給網の混乱やロシアのウクライナ侵攻によるインフレを予測できず、「喜びの夏」発言もその時点では本気でそう思っていた。
トランプの「物価半減」約束は、ハリスに負けそうなときに票を稼ぐための悪質な虚偽宣伝。そもそも計画など存在しなかった。
追い打ちに、トランプはバイデン期のインフレが「5%だった」と嘘をつき、自分が下げたかのように偽っている(実際は着任時すでに低水準だった)。
今やアメリカ人の過半数がバイデン時代の経済のほうが今より良かったと思っている。
結論
今の経済的怒りの正体は「選挙で嘘をついて勝ち、就任後に実際に経済を悪化させた大統領への激怒」だ。
トランプの他分野での嘘とその実害がこれからも明らかになるにつれ、アメリカ人の怒りはさらに高まるだろう——というのがクルーグマンの見立て。