「ゲーム理論とその応用」-議会における政党の影響力の分析を中心として-
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m0t0k1ch1.icon 協力型ゲーム理論と非協力型ゲーム理論の概要を把握する
m0t0k1ch1.icon シャープレイ・シュービック指数による政党の影響力分析について、ゲーム理論による分析の 1 事例として把握する
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1 はじめに
本日は大きく2つのテーマを考えております.1つは、タイトルにもありますように、議会における政党の影響力ということです.議会において議案を通そうと思えば、過半数の賛成が必要になりますので、たとえば現在の参議院のように過半数を占める政党がない場合には、他政党の協力が必要になってきます.そのような過半数を占める協力関係を築くという点からみて、政党の議席数とその影響力にはどのような関係があるであろうか.そういう話を、数学的に割り切ってお話しさせていただきたいと思っております.それに加えて、協力ゲーム理論とはどのようなものなのか、についても前半にお話しさせていただきます.
実はゲーム理論には、協力ゲーム理論と非協力ゲーム理論という2つの理論があるのですが、協力ゲーム理論のなかにパワー指数と呼ばれる影響力を測る指数がございます.いくつかございますが、今日はそのうち代表的なシャープレイ・シュービック指数についてお話します.
2つ目は連立政権についてです.1993年以降日本でも連立政権が形成されていますが、連立政権の安定性を数学的にシャープレイ・シュービック指数を使って分析したらどうなるだろうか.もし各政党が連立政権内での自党の影響力を大きくするように行動したらどのような連立政権が形成されるだろうか.このような話をさせていただきます.後半は、非協力ゲーム理論を使った分析になりますので、非協力ゲーム理論とはどのようなものか、についても触れさせていただきます.
m0t0k1ch1.icon キーワード:「協力ゲーム理論」「非協力ゲーム理論」「シャープレイ・シュービック指数」
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2 1996年10月の衆議院における各政党の影響力
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表1をご覧下さい.これは、1996年10月の衆議院議員選挙直後の各政党の議席数です.小選挙区制が施行されて最初の選挙で、総議員数500ですから、過半数は251です.話を簡単にするために、賛成票が251票あれば議案が通る、そういう前提で以下話を進めます.
以上のことから、議席数では民主党は新進党の3分の1ですけれども、過半数を占める協力関係をつくって議案を通すという立場から見れば、この2つの党は全く同じ立場にあることがわかります.どちらの党も、自民党が賛成すれば議案を通せますが、自民党が反対した場合、新進党、民主党、共産党、社民党、4党すべての協力が必要で、さらに、さきがけ、民改連、無所属から少なくとも2票の賛成票を取らないと議案を通すことができない、そういう状況にあることがわかります.
実はそれは民主党に限らず、共産党についても同様で、さらには、15議席しかない社民党についても全く同じです.社民党の場合も、自民党が賛成してくれれば議案を通せますが、それ以外のときは、新進党、民主党、共産党すべての賛成と、さきがけ・民改連・無所属から2票の賛成票が必要になります.議席数では社民党は新進党の10分の1よりも少ないのですが、他政党の協力を得て過半数を超える協力関係を築くというところから見ると、実は新進党と社民党とは全く同じ立場にあることがわかります.
m0t0k1ch1.icon 議席数に大きな差があったとしても、過半数を占める協力関係をつくって議案を通すということを考えた場合、新進党・民主党・共産党・社民党は同じ立場
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3 シャープレイ・シュービック指数
A、B、Cの3党からなる議会を考えます.多数決によって議案の可否を決定するのですが、2つの状況を考えます.まず、(1)は、A、B、Cが1議席ずつ持っていて、2票以上賛成があれば議案が可決される状況です.(2)は、Aは50議席持っている、Bは49議席、Cは1議席、全部で100、その過半数である51票以上の賛成があれば議案が可決される状況です.それぞれの状況において、A、B、C各政党のSS指数を求めてみましょう.
SS指数では、何か議案があるときに、それを通すことに熱心な政党から順に1党ずつ加わってグループをつくっていくことを考えます.そして、ある政党が加わったときにはじめて議案を通せるようになるとき、その政党が影響力をもつと考えます.たとえば、先ほどの衆議院の場合ですと、自民党は239票ですからそれだけでは議案を通せない.そこに社民党が加わると、社民党は15票持っていますから254票になり、その段階で議案を通せるようになります.このときに、社民党が影響力を持っているとSS指数では考えます.この社民党ような政党をピヴォットと呼びます.
m0t0k1ch1.icon SS 指数を求めるときに着目するのは「各可決パターンにおいて、どの政党が ピヴォット か?」
m0t0k1ch1.icon 上記の (1) と (2) について可決パターンを羅列し、A・B・C の SS 指数を求めると以下のようになる
(1) の場合
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議席数(2 票で可決)
A:1
B:1
C:1
可決パターンと ピヴォット(() 内は賛成票の合計数)
A(1) ← B(2) ← C
A(1) ← C(2) ← B
B(1) ← A(2) ← C
B(1) ← C(2) ← A
C(1) ← A(2) ← B
C(1) ← B(2) ← A
SS 指数
A:2/6
B:2/6
C:2/6
(2) の場合
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議席数(51 票で可決)
A:50
B:49
C:1
可決パターンと ピヴォット(() 内は賛成票の合計数)
A(50) ← B(99) ← C
A(50) ← C(51) ← B
B(49) ← A(99) ← C
B(49) ← C(50) ← A(100)
C(1) ← A(51) ← B
C(1) ← B(50) ← A(100)
SS 指数
A:4/6
B:1/6
C:1/6
Aは50票、Bは49票で、持っている票数だけ見ますと1票しか違いません.さらに、Cは1票ですから、A、Bに比べ非常に少ない.ただ、過半数を占める協力関係をつくるという観点から見ると、Bの立場は非常に弱くなっています.議席数は大きいけれども、1票しか持っていないC政党と何ら変わるところがありません.先ほどの衆議院の例における新進党と社民党の関係と同じようなことが起こっています.過半数を占めるグループをつくるという立場からみると、単に議席数だけからはわからないところが見えてくるということがこれでおわかりいただけたと思います.
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4 衆議院および東京都議会における各政党のシャープレイ・シュービック指数
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問題は公明党と民主党です.議席数だけ見れば、公明党は25から24、民主党も13から12と、それぞれ1議席ずつ減らしています.ところが、この2つの政党のSS指数を見ますと、公明党は0.182から0.160に減っていますが、民主党は逆に0.116から0.160に伸びています.議席だけ見れば、どちらも1議席ずつ減らしている.ところが、SS指数を見ると、公明党は議席を減らしたのと同じように指数も減っているのに、民主党は逆に増えています.
改選前は、過半数は58で、自民党は38票持っていますから、その時点で自民党と組んで過半数を超えられる政党は公明党しかありませんでした.公明党は25票もっていますから、合わせて63票です.共産党にしろ、民主党にしろ、13票ですから、自民党と組んでも票数は51にしかならず、過半数の58票に達しません.したがって、公明党は共産党や民主党に比べて立場が強かったわけです.それがSS指数にも反映されて、公明党0.182、それに対して共産、民主は0.116となっています.
改選後は、公明党も民主党も1議席ずつ減らしています.変わったことは、自民党が38から54に議席を増やしたことです.自民党は議席を54に増やしたとしても、まだ単独では過半数を超えられません.ところが、これによって、共産党、公明党、民主党の3党の中で一番議席数の少ない民主党と組んでも過半数を超えられるようになってしまいました.民主党は12票しかありませんけれども、自民党と組めば54票に12票を足して66票になり、過半数の64票を超えます.もちろん共産党、公明党もそうです.
したがって、共産党、公明党、民主党は、先ほどの衆議院のときと同じように、過半数を超えるグループをつくるという意味では同じ立場にあります.SS指数はそれを反映して、この3党はすべて0.160、0.160、0.160になっています.
この都議会議員選挙というのは、自民党・共産党が勝利して、公明党・民主党は伸び悩んだと総括された選挙ですけれども、単に議席数だけではなくてSS指数を計算してみると、全く違うところが見えてきます.つまり、政党の影響力というのは、単にその政党の議席数だけではなくて、他の政党の議席数がどのように動いているか、相対的な動きを見ないと本当のところはわからないのではないかということが、このSS指数による分析からおわかりになると思います.
m0t0k1ch1.icon SS 指数を導入することで、単純な議席数では見えてこない影響力が見えてくる
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5 協力ゲーム理論
簡単に言えば、意思決定者、ゲーム理論ではプレイヤーと呼びますが、がそれぞれ独自に、しかも他のプレイヤーがどのように意思決定するかを考慮しながら意思決定をするとき、どのように意思決定したらよいか、プレイヤーの合理的な意思決定とは何か、という問題を扱うのが非協力ゲーム理論です.それに対して、プレイヤーがグループ、ゲーム理論ではグループのことを提携と呼びますが、を組む事を前提とし、グループの間の交渉ないしはグループをつくることを前提としたプレイヤー間の交渉を扱うのが協力ゲーム理論、というように考えていただければいいと思います.ですから、先ほどの政党がどのような協力関係をつくるかというのは、もちろんそこで話し合いをしてやっているわけですから、協力ゲーム理論で扱う問題になります.
特に協力ゲーム理論の場合には、複数のプレイヤーがどのように協力関係を結ぶかが問題になります.プレイヤーが2人だけだったら、協力するかするかしないかだけです.このようなゲームを、2人協力ゲームと呼んだり交渉ゲームと呼んだりします.ところが、プレイヤーが3人以上になった場合には、協力関係は複雑になってきます.3人全員が協力する場合もありますし、2人が協力して、あと1人に敵対する場合も起こってきます.一体どのような協力関係が結ばれるのか.さらに、協力しますと当然何らかの便益が生まれてきますが、それをどのように分け合うか、ないしは分け合うべきか.そういう問題が協力ゲーム理論の扱う問題です.
m0t0k1ch1.icon 協力ゲーム理論と言っても、全プレイヤーが協力するわけではない
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6 協力ゲームの適用例-費用分担問題
いま、3つの自治体A市、B市、C市があり、水源から水道管を引くことを検討しているとします.それぞれ独自に水道管を引いたとしますと、A市は2億円、B市は1億7000万円、C市は2億円かかると見積もられていたとします.
m0t0k1ch1.icon 記載されている条件を 特性関数 で表すと以下のようになる
特性関数(数字の単位は 1,000 万円)
$ v(A, B, C) = 20
$ v(A, B) = 6
$ v(A, C) = 0
$ v(B, C) = 8
m0t0k1ch1.icon 各市が協力関係を結んだ場合、どの程度の 利得 が得られるかを表している
m0t0k1ch1.icon 例えば、A と B が協力関係を結んだ場合は 6,000 万円の利得が得られる(費用が削減できる)ということ
協力ゲーム理論では、このような状況を特性関数形ゲームないしは提携形ゲームと呼ばれる方法で表現しています.特性関数というのは何かというと、上の例で言いますと、AとBが協力すればどれだけの便益があるか、AとCが協力すればどれだけの便益があるか、ABC全員が協力すればどれだけの便益があるか.便益というのをゲーム理論では利得と呼んでいますので、これから利得という言葉を使わせていただきますけれども、プレイヤーの提携それぞれに対して、その提携に属するプレイヤーたちが協力したときに得られる利得を与える関数です.一般にvで表現されます.
協力ゲーム理論には大きく2つの目的があります.1つは、どのような協力関係が結ばれるだろうか.もう1つは、協力することによって獲得した利得を協力関係を結んだメンバーの間でどのように分け合うかということです.残念ながら、前者のどのような提携が形成されるかという問題については、最近になってようやく研究が行われるようになってきた段階です.これまでの協力ゲーム理論ないしは特性関数形ゲーム理論では、全員提携の形成を前提として理論が発展し、分析の中心はもっぱら後者の利得分配のほうに向けられてきました.つまり、プレイヤーの全員、これをNで表しますが、それが協力したときに得られる利得v(N)を交渉を通して各プレイヤーはどのように分け合うだろうか、ないしは分け合うべきだろうかという問題です.たとえば、プレイヤー間の交渉を考えるとどうなるだろうか、分配における公平性を保つためにどうしたらよいだろうか、各ゲームの状況におけるプレイヤーの貢献度を反映してv(N)を分けるにはどうしたらよいだろうか、そういう問題が特性関数形ゲーム理論のこれまでの分析の中心になってきました.
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7 シャープレイ値
考え方はSS指数でお話しした通りで、1人ずつ加わって全員提携をつくっていく、その全員提携のつくり方がすべて同じ確率で起こるときの貢献度の期待値、これをシャープレイ値と呼びます.
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m0t0k1ch1.icon 与えられた条件から シャープレイ値 を計算すると以下のようになる
シャープレイ値
$ \phi_{A}(v) = (6 + 12 + 12) / 6 = 5
$ \phi_{B}(v) = (6 + 20 + 20 + 8) / 6 = 9
$ \phi_{C}(v) = (14 + 14 + 8) / 6 = 6
つまり、A、B、Cが協力したときの費用軽減分v(A,B,C)=20(千万円)を、A、B、Cにそれぞれ5000万円、9000万円、6000万円ずつ分けなさい、というのがシャープレイ値の与えるところです.
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8 連立政権の形成と修正シャープレイ・シュービック指数
前半にお話しした2番目の(2)の例を思い出してください.A党、B党、C党の3党がそれぞれ50議席、49議席、1議席持っていて、議案を通すために51票必要だという状況です.いま、A党とC党が連立政権を形成したとします.このとき、各党の影響力をどのように考えたらよいでしょうか.
議席数(51 票で可決)
A:50
B:49
C:1
連立政権を形成するということは、A党、C党が1つのブロックを形成して行動すると考えられます.そうすると、政党が1党ずつ加わって協力関係をつくっていくという状況で、たとえばAが最初に議案を通したい、そこに次にBが加わってきて、最後にCが加わるというような状況は考えられないでしょう.また、C党が議案を通したいときに、次にB党が加わって、次にA党が加わるような状況も考えられない.したがって、この2つの状況、つまり「A←B←C」と「C←B←A」というのは除外して考えていいでしょう.
m0t0k1ch1.icon A と C が連立政権を形成したとして、修正 SS 指数 を計算すると以下のようになる
可決パターンとピヴォット(() 内は賛成票の合計数)
A(50) ← C(51) ← B
B(49) ← A(99) ← C
B(49) ← C(50) ← A(100)
C(1) ← A(51) ← B
修正 SS 指数
A:3/4
B:0
C:1/4
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9 細川(非自民)連立政権
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修正SS指数を使って、1993年の非自民各党による細川政権を分析してみましょう.実はこの政権が形成される直前まで、もう1つの可能性として、自民党と日本新党、新党さきがけ、この3党で連立政権を組む可能性がありました.もう一方が、社会党、社民連、民社党、公明党、新生党に、日本新党、新党さきがけが入った細川非自民連立政権です.お気づきのように、日本新党、新党さきがけが両方に含まれていて、これがキーになっています.
m0t0k1ch1.icon パターン 1:自民党・日本新党・新党さきがけの 3 党連立政権
m0t0k1ch1.icon パターン 2:自民党・共産党以外による非自民連立政権
m0t0k1ch1.icon 双方のパターンで修正 SS 指数を計算したということ
日本新党と新党さきがけのどちらの党も非自民連立政権に入ったほうが指数は大きくなっていることがおわかりになると思います.この数字を見る限り、連立政権内での修正SS指数で計った影響力を大きくするという立場から言うと、自民党と組む動機はないと言えます.
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10 非協力ゲーム理論と戦略形ゲーム
非協力ゲーム理論というのは、各プレイヤーが独自に意思決定するときにどうすればいいか、ないしは合理的な意思決定って何だろうか、そういう問題を扱う理論です.
一般に非協力ゲームの表現形式は2つあります.1つは、ここでお話しする戦略形ゲームという表現の仕方です.もう1つ、展開形ゲームという表現の仕方があります.ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、意思決定が時間の動きに連れて行われていく状況を記述するには、展開形ゲームは非常に優れた表現になっています.ただ、時間の動きにつれて記述していきますから、複雑な表現になります.きょうは時間の都合もあり、戦略形ゲームのほうだけお話しすることにいたします.
戦略形ゲームというのは、一般に(N、 {Si}i=1、…、n、 {fi}i=1、…、n)で表されます.Nはプレイヤーの全体です.S1からSnはプレイヤー1からnの戦略の全体です.fiはプレイヤーiの利得関数です.各プレイヤーがそれぞれに戦略をとったときに結果が決まりますが、各結果に対してプレイヤーiが得る利得を与える関数です.
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11 囚人のジレンマ型ゲーム
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囚人のジレンマ型ゲームを上の戦略形ゲームで表現するとどうなるかを説明しましょう.プレイヤーは1と2です.プレイヤー1の戦略は協力と裏切り、プレイヤー2の戦略も協力と裏切りです.利得関数については、f1(協力、協力)=4というのは、1が協力、2が協力をとったときの1の利得は4ということを表します.f1(協力、裏切り)=1は、1が協力、2が裏切りをとったときの1の利得は1ということを表します.以下同様で、f2(裏切り、裏切り)=2は、1が裏切り、2が裏切りをとったときの2の利得は2ということを表します.プレイヤーが2人の場合には利得行列による表現で十分なのですが、もっと人数が多くなった場合には、このような利得関数による表現が必要になってきます.
いま、囚人のジレンマ型のゲームにおいて、プレイヤー1の立場で考えてみましょう.プレイヤー2が協力、裏切りのどちらをとってくるかがわからない.もし2が協力をとってきた場合には、1は協力すれば4、裏切れば5得られます.ということは、1ができるだけ利得を大きくしようとすれば、裏切りをとったほうがいい.2がもし裏切りをとってきた場合は、1は協力をとれば1、裏切りをとれば2得られますから、相手2が裏切りをとってきたときにも1はやはり裏切りをとったほうがいい.囚人のジレンマ型ゲームでは、2が協力、裏切りのどちらをとってきたとしても、1は裏切りをとったほうがいいという状況になっています.このことを、ゲーム理論では「1の戦略『裏切り』は『協力』を支配する、ないしは優位である」という言い方をします.
両プレイヤーの合理的な行動の結果2人の利得はともに2という状態になるのですが、もし2人が「協力」をとれば、2人ともに利得は4というよりよい状態になります.つまり、2人のプレイヤーそれぞれの合理的な意思決定の結果、2人にとってどちらもよりよくなる状態があるにもかかわらず、それを達成できずに、より悪い状態に陥ってしまう.これが、囚人のジレンマ型ゲームの「ジレンマ」です.
m0t0k1ch1.icon 相手のとる戦略がどちらの場合でも「裏切り」を選択する方が利得が大きい
相手が「協力」の場合
自分が「協力」を選択したときの利得:4
自分が「裏切り」を選択したときの利得:5
相手が「裏切り」の場合
自分が「協力」を選択したときの利得:1
自分が「裏切り」を選択したときの利得:2
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12 男女のジレンマ
m0t0k1ch1.icon ナッシュ均衡 の話
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どういうストーリーかというと、男の子と女の子が、「明日の夜、どこかへ行こうよ」と相談している.男の子は、サッカーを見に行きたい.女の子はコンサートへ行きたい.結局話し合いがつかなくて、「明日の夕方連絡を取り合って、サッカーに行くかコンサートに行くか決めようよ」といって別れたとします.ところが、当日になって急に連絡がとれなくなった.さてどうしようか.そういう状況を考えてもらえばいいと思います.
この状況ですと、残念ながら、さっきの支配ないしは戦略の優位性という考え方は使えません.
相手のとる戦略によって、こちらがとるべき戦略が変わってきてしまいますので、先ほどの支配の概念はここでは使えないわけです.
m0t0k1ch1.icon 囚人のジレンマとは異なり、相手のとる戦略によって自分の利得が大きくなる戦略が変わる
ではどうしたらいいだろうか.ここで出てくるのがナッシュ均衡という考え方です.ナッシュ均衡とは、相手がとっている戦略のもとで自分の利得を最大にするような戦略をお互いが取り合っている状況です.ないしは、もっと簡単に言ってしまえば、どのプレイヤーも自分だけ戦略を変えてもよくならない状態、これをナッシュ均衡と言います.
この例で言うと、1がサッカーに行って、2がサッカーに行く状態というのは、2がサッカーを変えない限り、1はサッカーからコンサートに変えると利得は下がってしまいます.同じように、1がサッカーをとっている状態ですと、2はサッカーからコンサートに変えると利得は1から0に落ちてしまいます.だから、お互いサッカーという戦略をとるという状態というのは、どちらも自分だけ戦略を変えても利得はよくならない状態です.ですから、(サッカー、サッカー)、1がサッカーをとって、2がサッカーをとる、というのはナッシュ均衡になります.このゲームではもう1つ(コンサート、コンサート)というナッシュ均衡があります.
ナッシュ均衡
サッカー・サッカーの場合
1 だけがコンサートに変えたときの 1 の利得:2 → 0
2 だけがコンサートに変えたときの 2 の利得:1 → 0
コンサート・コンサートの場合
1 だけがサッカーに変えたときの 1 の利得:1 → 0
2 だけがサッカーに変えたときの 2 の利得:2 → 0
先ほどの囚人のジレンマ型ゲームにおいて、両プレイヤーともに裏切りをとるのが合理的な意思決定であることをお話ししましたが、実はこの1、2がともに裏切りをとっている状態というのはこのゲームのナッシュ均衡になっています.実際、どちらのプレイヤーも自分だけ協力に変えると利得は2から1に下がってしまいます.
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13 連立政権形成の戦略形ゲームによる分析
各政党は、提携構造の中での自党の修正SS指数を利得とし、これをできるだけ大きくするよう行動するものとします.
たとえばいま、1、2、3という3つの政党しかない状況を考えますと、1の戦略として考えられるのは、どことも提携を組まないで、自分だけでやっていきますよというのが(1)です.(1、2)というのは2と組みたい、(1、3)というのは3と組みたい、(1、2、3)というのは全部でやりましょう、そういう戦略です.2も同様で、(2)は自分だけでやります、(1、2)は1と組みたい、(2、3)は3と組みたい、(1、2、3)は全員で組みましょうという戦略です.3についても同様です.たとえば1が自分でやりますよということを選択して、2も自分でやる、3も自分でやるということを選択したら、結果は3党がばらばらにやっていくしかありません.もし1は2と組む、2は1と組む、3は1と組む、という戦略をとったとします.このときには、(1、2)というグループができて、3は1党のみでやっていく、そういう結果になります.
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14 細川(非自民)連立政権の安定性
最後に、細川政権形成時の議席数のデータをもとに、この戦略形ゲームを用いて、どのような連立政権が形成されるかを分析した結果について簡単に触れます.利得は修正SS指数で与え、プレイヤーのグループによる逸脱も許すナッシュ均衡を少し強めた概念を用いて分析しますと、細川政権を形成したあの非自民連立政権のみが均衡において実現されるという、非常にシャープな結果が出てきます.
m0t0k1ch1.icon 実際に計算してみたいな