シャープレイ値に基づく資産評価モデル
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m0t0k1ch1.icon 現代ポートフォリオ理論におけるポートフォリオ組成の基本的な考え方を把握する
m0t0k1ch1.icon 組成可能なすべてのポートフォリオの最大効用から構築された特性関数形ゲームに対するシャープレイ値を用いて資産評価を行うモデルについて、その考え方を把握する
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1 はじめに
現代ポートフォリオ理論は、いくつかの資産をある比率で組み合わせたポートフォリオのうち、投資家にとって最適なものを決定するための理論である。その最適化を視覚的に把握する方法として、横軸にリスク、縦軸にリター ンをとった平面上に、資産およびポートフォリオを点として表し、組成可能なポートフォリオ全体の集合である投資機会集合を描いて分析を行う。現代ポートフォリオ理論を発展させたモデルとして資本資産評価モデル (CAPM) がある。
m0t0k1ch1.icon キーワード:「資本資産評価モデル(CAPM)」
協力ゲーム理論における特性関数形ゲームは、複数の意思決定主体が協力することで追加的な利得を得られるような状況において、協力により得られた全体利得をどう配分すべきかを考察する理論である。最もよく知られた配分方法の一つがシャープレイ値である。シャープレイ値は、協力に加わる主体の全順列が等確率で起こると仮定したときの、全体利得への各主体の限界貢献度の期待値として定義される。
m0t0k1ch1.icon キーワード:「協力ゲーム理論」「特性関数形ゲーム」「シャープレイ値」
本研究では、ポートフォリオに組み込まれたリスク資産の「あるべき」リターンを、シャープレイ値に基づき求める以下のような新たな枠組みを提案する:(1) リスク資産の集合、無リスク資産および効用関数を与える。(2) リスク資産の集合の任意の部分集合について、その要素と無リスク資産から組成可能なすべてのポートフォリオを考 える。(3) 上記ポートフォリオのうち、与えられた効用関数を最大にするものを求める。(4) 上記の最大効用を特性関数値とする、リスク資産の集合上の特性関数形ゲームを構築する。(5) 上記の特性関数形ゲームに対するシャープレイ値を各リスク資産の評価値とする。
m0t0k1ch1.icon ポートフォリオ組成におけるリスク資産評価にシャープレイ値の考え方を適用する
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2 モデル
2.1 現代ポートフォリオ理論および CAPM
現代ポートフォリオ理論では、資産への投資の成果や資産の価格付けは、すべて下式の収益率で測る。
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また、通常、資産の将来の収益率は正規分布に従うと仮定し、その平均と標準偏差には過去のデータから求めた値を用いる。資産の収益率の平均$ \muをその資産のリターンと呼び、標準偏差$ \sigmaをリスクと呼ぶ。これにより、各資産は、リターンとリスクの 2 つの実数値の組により特徴付けられることとなる。リスクがゼロである資産を無リスク資産と呼び。リスクがゼロより大きい資産をリスク資産と呼ぶ。
m0t0k1ch1.icon キーワード:「リターン」「リスク」「無リスク資産」「リスク資産」
m0t0k1ch1.icon 無リスク資産の具体例は 無リスク資産 を参照 m0t0k1ch1.icon どんな資産にも$ \muと$ \sigmaが定義できる
m0t0k1ch1.icon 「収益率は正規分布に従うと仮定」っていうのは、グラフにすると以下のような感じ
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現代ポートフォリオ理論では、最適な投資を求める課程を視覚的にわかりやすくする方法として、横軸にリスク$ \sigma、縦軸にリターン$ \muをとった平面に点、曲線、領域等を描いて考える。この平面を、本論文では便宜的にリスクリターン平面と呼ぶことにする。1 つの資産はリスクリターン平面上の 1 点と同一視できる。
m0t0k1ch1.icon キーワード:「リスクリターン平面」
ポートフォリオとは、投資比率も含めた資産の組合せのことである。例えば、資産$ Aを 0.5、資産$ Bを 0.3、資産$ Cを 0.2 の比率で組み合わせた投資が 1 つのポートフォリオとなる。
m0t0k1ch1.icon キーワード:「ポートフォリオ」
例えば、3 つのリスク資産$ A(\sigma_A, \mu_A), B(\sigma_B, \mu_B), C(\sigma_C, \mu_C)を、それぞれ$ w_A, w_B, w_Cの比率$ (w_A + w_B + w_C = 1)で組み合わせたポートフォリオ$ Pのリターン$ \mu_Pおよびリスク$ \sigma_Pは、
$ \mu_P = w_A \mu_A + w_B \mu_B + w_C \mu_C
$ \sigma_P = \sqrt{w_A^2 \sigma_A^2 + w_B^2 \sigma_B^2 + w_C^2 \sigma_C^2 + 2(w_A w_B \rho_{AB} \sigma_A \sigma_B + w_A w_C \rho_{AC} \sigma_A \sigma_C + w_B w_C \rho_{BC} \sigma_B \sigma_C)}
となる。ただし、$ \rho_{AB}, \rho_{AC}, \rho_{BC}はそれぞれ、$ Aと$ B、$ Aと$ C、$ Bと$ Cの相関係数である。ポートフォリオもリターンとリスクの 2 つの実数値の組で特徴付けられるので、リスクリターン平面上の点と同一視できる。
m0t0k1ch1.icon 資産の組み合わせであるポートフォリオもリスクリターン平面上の点として表現できる
3 資産$ A, B, Cへの投資比率$ w_A, w_B, w_Cを連続的に変化させたときの、上式により求まる点$ P (\sigma_P, \mu_P)の軌跡、すなわち 3 資産$ A, B, Cから組成可能なポートフォリオ$ P全体の集合を投資機会集合と呼ぶ。投資機会集合をリスクリターン 平面に示すと図 1 の左図のようになる。ただし、$ A, B, Cはいずれも空売り不可$ (w_A \geq 0, w_B \geq 0, w_C \geq 0)とし、 図 1 では作図の都合上、投資比率を 0.01 刻みで変化させた 5,151 通りの点を描いた。
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m0t0k1ch1.icon キーワード:「投資機会集合」
現代ポートフォリオ理論では、通常、投資家はリスク回避的であると仮定する。すなわち、リターンに関してはできるだけ大きい資産を好み、リスクに関してはできるだけ小さい資産を好むものとする。その結果、投資機会集合上のある点について、リスクがその点以下かつリターンがその点以上であるほかの点が投資機会集合上に存在する場合、その点は投資の候補から外れることになる。この考え方に基づき、投資機会集合から投資候補外となる点を除いた残りの部分集合を効率的フロンティアと呼ぶ。図 1 の左図の場合においては、効率的フロンティアは、投資機会集合の「左上」の境界となる。
m0t0k1ch1.icon キーワード:「効率的フロンティア」
m0t0k1ch1.icon 投資家は低リスク高リターン($ \sigmaが小さく$ \muが大きい)ポートフォリオを好むと仮定
m0t0k1ch1.icon すなわち、点が左上にあるほど好ましい
投資可能な資産として無リスク資産$ Fが存在する場合の効率的フロンティア は図 1 の右図のように、リスク資産$ A, B, Cのみによる投資機会集合へ無リスク資産$ Fから引いた接線となる。ただし、無リスク資産$ Fのみ無制限に空売りができると仮定している。この接点$ Tを接点ポートフォリオと呼ぶ。
m0t0k1ch1.icon 無リスク資産$ Fもポートフォリオに入れてよい場合の話
m0t0k1ch1.icon キーワード:「接点ポートフォリオ」
各投資家が効率的フロンティアから具体的にどのポートフォリオを選択するかの基準を明確にするために、現代ポートフォリオ理論では、リスクとリターンに関する効用関数$ U(\sigma, \mu)を導入する。リスク回避的な投資家の効用関数のうち最も単純なものは、$ U(\sigma, \mu) = \mu - k \sigma^2の形式である。$ kはリスク回避度と呼ばれる投資家ごとに定まる 正の定数である。投資家は効用の値を最大にするポートフォリオを選択する。効用の値が等しい点を結んだ曲線を無差別曲線と呼ぶ。$ U(\sigma, \mu) = \mu - k \sigma^2の形式の効用関数に対応する無差別曲線は図 1 の右図のような放物線となる。無差別曲線と効率的フロンティアとの接点$ Pで効用が最大となるので、この接点$ Pが最終的に投資家が選択する最適ポートフォリオである。
m0t0k1ch1.icon キーワード:「効用関数」「無差別曲線」「最適ポートフォリオ」
期待の同質性や完全市場といった、いくつかの理想的な仮定をおけば、市場が均衡に至ると、全投資家が共通の効率的フロンティアを描き、需要されるリスク資産の配分は接点ポートフォリオのみとなる。その結果、接点ポートフォリオは市場の全銘柄を時価総額比率で組み入れたポートフォリオとなる。そのため接点ポートフォリオは市場ポートフォリオとも呼ばれる。CAPM によれば、各資産、例えば資産$ Aの均衡リターン$ \mu_Aは、無リスク資産$ Fのリターンを$ \mu_F、市場ポートフォリオ$ Tのリターンを$ \mu_Tとすると、下式により求められる。
$ \mu_A = \mu_F + (\mu_T - \mu_F) \beta_A ~~~~~(ただし$ \beta_A = \frac{\rho_{AT} \sigma_A}{\sigma_T})
m0t0k1ch1.icon キーワード:「市場ポートフォリオ」
m0t0k1ch1.icon うん、最後の式はよくわからない
2.2 特性関数形ゲームおよびシャープレイ値
$ N = \{1, 2, \ldots, n\}を主体の集合とする。$ Nの部分集合を提携と呼ぶ。簡単のため、提携$ \{i_1, i_2, \ldots, i_m\}を単に$ i_1 i_2 \cdots i_mと書く。例えば、$ \{1, 2, 3\}を$ 123と表す。$ 2^Nを$ Nのべき集合、$ \bold{R}を実数全体の集合とする。関数$ v : 2^N \rightarrow \bold{R}を特性関数と呼ぶ。このとき、組$ (N, v)を特性関数形ゲームと呼ぶ。提携$ Sに対する特性関数値$ v(S)は、提携$ S内のメンバーが協調することにより得られる提携$ Sの利得と解釈される。
m0t0k1ch1.icon 非常にわかりやすい定義だと思う
例 2.1 $ N = \{1, 2, 3\}とし、$ v : 2^N \rightarrow \bold{R}を、$ v(\emptyset) = 0, ~ v(1) = 2, ~ v(2) = 4, ~ v(3) = 6, ~ v(12) = 10,$ v(13) = 12, ~ v(23) = 16, ~ v(123) = 20を満たす特性関数とすると、組$ (N, v)は特性関数形ゲームとなる。
通常、特性関数形ゲームは、例 2.1 のように優加法的、すなわち「任意の$ S, T \subset Nについて、$ S \cap T = \emptysetならば$ v(S) + v(T) \leq v(S \cup T)」が成り立つと仮定するので、2 つの交わらない提携は、合併して大きくなった方が別々のときよりも合計利得が等しいか大きくなる。したがって、次第に大きな提携が形成されていき、最終的には全体提携が形成されると考えられる。全体提携により得られた利得を各主体にどう配分するかが主な考察の対象である。最もよく知られた配分方法の 1 つがシャープレイ値である。シャープレイ値は、主体$ iに、下式により定まる値$ \phi_iを配分する:
$ \phi_i = \sum_{S \subset N, ~ i \notin S}{\frac{|S|!(|N| - |S| - 1)!}{|N|!}}\lbrack v(S \cup \{i\}) - v(S) \rbrack
例 2.2 例 2.1 の特性関数形ゲーム$ (N, v)に対する各主体のシャープレイ値は、$ \phi_1 = 4, ~ \phi_2 = 7, ~ \phi_3 = 9となる。
table:coalitions
1 2 3
123 2 8 10
132 2 8 10
213 6 4 10
231 4 4 12
312 6 8 6
321 4 10 6
シャープレイ値
$ \phi_1 = (2 + 2 + 6 + 4 + 6 + 4) / 6 = 4
$ \phi_2 = (8 + 8 + 4 + 4 + 8 + 10) / 6 = 7
$ \phi_3 = (10 + 10 + 10 + 12 + 6 + 6) / 6 = 9
m0t0k1ch1.icon 本文に記載されている値と一致 🆗
特性関数形ゲームにおける主体の集合と提携は、数学的には単なる有限集合およびその部分集合であるので、意思決定者の集合という解釈だけではなく、資産の集合としての解釈も可能である。後者に基づけば、配分は、資産の組合せに何らかの実数値が割り当てられている状況における各資産の価値を表すという解釈が可能になる。シャープレイ値は、効率性、対称性、ナルプレイヤーに関する性質、加法性の 4 つの公理を満たす唯一の配分方法であることが知られている。その意味でシャープレイ値は望ましい性質を満たす確立された配分方法といえ、協力ゲーム理論の配分をポートフォリオ中の資産評価に応用するという新たな枠組みに用いることとした。
m0t0k1ch1.icon シャープレイ値の性質がそのまま活きるのか(必然性があるのか)イマイチわからないけど、配分方法として優秀なので実験的に応用してみよう!ってことなのかな
m0t0k1ch1.icon 4 つの公理については シャープレイ値 を参照 ---.icon
3 シャープレイ値に基づく資産評価モデル
はじめに資産の集合および投資家の効用関数が与えられる。現実への応用を行う際には、資産の集合については、 例えば株式投資信託に組み込まれた銘柄の集合を指定する方法が考えられるが、本論文においては、以下のような簡単な数値例を与える。すなわち、3 つのリスク資産$ A(\sigma_A = 2, \mu_A = 1), ~ B(\sigma_B = 2.5, \mu_B = 2), ~ C(\sigma_C = 3, \mu_C = 3)および無リスク資産$ F(\sigma = 0, \mu = 0.31)である。リスク資産の任意の組の相関係数はゼロとする:$ \rho_{AB} = \rho_{AC} = \rho_{BC} = 0。また、効用関数については、応用の際には、投資家のリスク選好を実験または聞き取り調査等により把握し、適当な効用関数または無差別曲線を設定する方法が考えられるが、本論文においては、$ U(\sigma, \mu) = \mu - 0.5 \sigma^2という簡単な関数形を与えることにする。以下本論文では、上記の 4 資産および効用関数を新たな枠組みの説明に用いる。
リスク資産の集合$ \{A, B, C\}に関する特性関数形ゲームを構築する。各部分集合に対する特性関数値は、その部分集合に属するリスク資産および無リスク資産を用いて組成可能なポートフォリオの効用の最大値とする。効用の最大値は Microsoft 社の表計算ソフトウェア Excel を用いて、以下のような手順で計算した。例えば部分集合$ ABCについては、3 資産への投資比率を 0.01 刻みで変化させた 5,151 通りのポートフォリオを求め、各点と無リスク資産$ Fを結んだ直線の傾きを最大にする点を、近似的に接点ポートフォリオ$ Tと見なした。求められた傾きの最大値を$ aとすると、$ \mu = a \sigma + \mu _Fを満たす$ Fと$ Tを結ぶ効率的フロンティア上の点$ (\sigma, \mu)のうち、効用関数$ U(\sigma, \mu) = \mu - k \sigma^2を最大にする点$ Pは、$ (\frac{a}{2k}, \mu_F + \frac{a^2}{2k})と求まり、そのときの効用の最大値は$ U_{max} = \mu_F + \frac{a^2}{4k}である。
m0t0k1ch1.icon 特性関数値:部分集合に属する資産を用いて組成可能なポートフォリオの効用の最大値
m0t0k1ch1.icon ここで言及されているのは、図 2 の一番右下のグラフの話
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図 2 は、各部分集合$ \emptyset, A, B, C, AB, AC, BC, ABCについて、上記の最大効用を求める過程における投資機会集合、接点ポートフォリオ$ T、最適ポートフォリオ$ Pをリスクリターン平面に描いたものである。なお、効率的フロンティアに接する無差別曲線は、その$ \mu軸切片が効用の最大値$ U_{max}に一致するので、視覚的にわかりやすくするために描いた。効用の最大値を求める過程には無差別曲線は用いていない。
m0t0k1ch1.icon 効率的フロンティアに接する無差別曲線の$ \mu軸切片が$ U_{max}に一致するのか
上記の結果、特性関数形ゲーム$ (\{A, B, C\}, v)が以下のように構築された:$ v(\emptyset) = 0.310, ~ v(A) = 0.370,$ v(B) = 0.538, ~ v(C) = 0.712, ~ v(AB) = 0.598, ~ v(AC) = 0.772, ~ v(BC) = 0.940, ~ v(ABC) = 1.000。シャープレイ値を計算すると、$ \phi_A = 0.060, \phi_B = 0.228, \phi_C = 0.402となる。CAPM との比較については、大会当日に報告する。
m0t0k1ch1.icon あら、比較考察はお預け
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4 まとめと今後の課題
本論文では、シャープレイ値に基づきポートフォリオに組み入れられた資産を評価する新たなモデルを提案した。与えられたリスク資産の集合と効用関数について、リスク資産の各部分集合に、その資産と無リスク資産を用いて組成可能なポートフォリオの効用の最大値を割り当てる特性関数形ゲームを構築し、そのゲームに対するシャープレイ値を各資産の評価値とする枠組みである。
今後の研究課題としては、株式投資信託などの現実のポートフォリオ中の資産評価を行うことや、シャープレイ値を資産評価に用いることの意味づけを行うことがあげられる。後者について、資産がポートフォリオに加わる全順列を等しく扱うシャープレイ値の考え方は、現代ポートフォリオ理論では考慮しない投資タイミングに関する理論の構築につながる可能性がある。
m0t0k1ch1.icon 今までにない投資基準になるかもしれないというのはそうだが、意味づけは後回しらしい
m0t0k1ch1.icon 理論だけど実験ぽいスタンス?