RA雇用について
RA (research assistant)とは
外部資金を多く持っている研究室のトップ(PI, principal investigator)は,学生にしばしばRA (research assistant)をオファーすることがある.RA雇用された学生は金銭的に教員から補助を受けることが出来るが,その場合は文字通り雇用者/被雇用者の関係になる.この場合はPIからの業務指示があり,それに対応することで給与を貰うことになる.
学生にとって一見RAは奨学金のように見える場合もあるが,RAは奨学金ではない(2022/8/15時点では科研費FAQのQ4466に明記;本ページ末尾のメモを参照).あくまで教員が自分の研究を補助してもらうために学生を雇用するのが趣旨である.よって教育目的で雇用することはなく,名目はあくまで研究に関するアルバイトだと思った方が良い.アルバイトの内容を,学生の研究内容と完全に一致するように運用した場合は,学生は実質的に非常に助かるだろう.その場合は,実質的には学生にとってはただの『奨学金』のように感じられると思われる.実際,その様に運用する方がお互いにとって幸せになれると思う(少なくとも,私はある程度はそうなるように運用したい).但し,これはPIの方針に依存する.ラボ運営の業務補助を依頼されることもあると思う(例えば,研究遂行上必要な計算機の管理やそれにまつわる用務など).
RAは誰に/どの程度の期間オファーされるか?
誰にRAのオファーを出すのかはPIが決めるため,全員にオファーされる保証はない.もちろん教員は平等に教育を行う職業義務があるが,教育目的でのRA支出は会計的に不適切であることを忘れてはいけない.つまり,RA雇用のオファーを,研究室構成員の全員に平等にオファーする義理は全くない.もちろん,同程度の能力/信頼関係がある学生たちにはあまり差をつけず,平等な条件でのオファーを出すように心掛けるのが適切だと金澤は思っているが,教育上の配慮とRAのための人選を混同することはむしろ不適切だと思う.あくまで外部資金プロジェクトを遂行する上での効率を考えて,人選を進めることが適切だと思う.
理不尽に雇用条件に差をつけることは労働倫理(もしくは労働法)上許されないと金澤は思う.学生であろうと立派な労働者であり,労働倫理/労働法を順守して学生に条件のオファー/業務上の指示を,PIは出すべきである.ただし,大前提としてそもそも研究室間(更に言えば大学間)でのRA受給状況は全く異なっており,RAのオファー状況は「平等」ではない.RAはあくまで大学で行う教育活動の一環として行われるのではなく,PIとの個別の雇用関係にすぎない.よって,「学生が全員平等に同額を受給すべき」と言うような,過度に平等性に配慮した理論は成立しない.
またRAの財源を教員が常に確保できる保証もないため,一度オファーを貰った学生も,将来に渡って安定的に受給できる保証はない.受給できるのは外部資金のプロジェクトが続いている間だけである.もちろん,優秀なPIは財源の確保に全力を尽くすため,学生目線では表面上は安定的に受給できているように見えるラボはあるかもしれないが,それはあくまで制度上の保証ではなく,そのPI教員の不断の努力によって保たれているだけである(もちろんそういうラボは沢山ある).
RAの相場
RAに関しては相場は特にないと思われる.ただし,私のイメージとしては
学部生:数万~8万円/月
修士学生:5~10万円/月
博士学生:5~20万円/月
を想像している.但しここで出した数字は,金澤が外部資金を潤沢に持っている年度に限れば,どの程度をオファーできるかを書いたものである.よって,「一般的にRAで受給すべき金額の相場」ではない.また,金澤に関しても外部資金が少ない年度は上の例から外れたオファーをする場合は当然あり得る.
給与上限に関する相場はあると思われる.例えば学部生を短期雇用する場合は,時給を考えると月10万円は超えないのではないかと思う.博士学生に関しては,学振DC1/DC2が提示する20万円が目安となっているため,この額を超えることはあまりないと思う(これを超えた額をオファーするには,会議を通す際に相当特殊な理由の説明が必要になる気がする).修士は学部生と博士課程の中間の技能レベルであるため,恐らく月5~10万円くらいが相場になりやすいのではないだろうか?(※).
ただし,下限に関しては相場は一切なく,教員次第だと思われる.実際,下限は当該年度における外部資金の過多に影響することが容易に想像できる.例えば,外部資金が少ない年はたとえ優秀な学生がいても,そもそもRA雇用をオファーできないであろう.
※ここは研究室によって全然違うので,20万円程度を修士課程から支給されている研究室もあるかもしれない.少なくとも金澤が京大修士課程の時,東大理物では下の学年ではリーディング大学院案件で修士1年後期から月20万円程度受給できたと聞いた.当時の京大理物にはそういう制度がなかったので,かなりうらやましく見ていた記憶がある.(※金澤は学部を東大理物,修士/博士は京大理物で過ごしている). RAが欲しい場合どうするか?
もしRAが欲しい場合は,教員に相談する事.RAに関しては教員ごとに全くポリシーが異なるので,直接聞くしかないと思う.一般論として,RAが欲しい場合は「RAを与えるのに相応しい学生」であることをアピールする必要があると思われる.RA雇用は学生の当然の権利ではないので,教員の研究に貢献できるスキルを持っていることを客観的に説明できることが望ましい.
教員へのアピール方法の例
例えば,アピール方法としては次のようなものがあるのではないかと思う:
学部生の場合は成績表などを見せることは説得力を増すかもしれない.学部時代の成績と大学院での研究成功率は同値ではないが,一定以上の相関はある(少なくとも,勉強のスキルが低いと,研究で選べるテーマの幅が狭まるため,RAとして貢献できるテーマも狭まるであろう).
もしくは,卒研で何でもいいから論文を執筆する事であろう.「論文を執筆した」という事実には,学部生の成績表の良し悪しなどよりも大きい評価を与えるのが普通だと思う.よって,卒研を成功させて論文執筆に漕ぎ着けることができれば,教員がRA支出に賛同してくれる可能性は高くなると思う.
多くの教員は博士進学する学生を欲しているため,そういったことも強いアピールポイントになり得るだろう.実際,ある程度以上壮大なプロジェクトに関しては,プロジェクト終了までに3~5年程度は見込むべきであろう.となると,博士課程に進学を視野に入れた学生に任せた方が,プロジェクトは安定的に発展することが期待できる.そもそも会計的には,特定のプロジェクトを進めるためだけにRAを雇用するのが適切だと看做されているので,博士進学を視野に入れた学生に対して優先的にRA雇用をオファーすることは効率的/妥当な判断だと思う.
また,研究上で必要なサーバー管理/ドキュメント執筆といった研究室雑務に貢献できる場合は,それだけでもRAをオファーする理由となる.
ただし,RAについては教員によって運用が異なるため,教員と直接相談するのが良いと思う.世の中は広いので,ほぼ全学生をRAとして採用する研究室も,もしかしたらあるかもしれないし,金澤の想定する運用とは全く違うこともありえる.
参考:RAの運用は分野で大きく異なる
RAの実態は分野間でも差異がある.自然科学系のラボでは,普通は教員の研究テーマと学生の研究テーマは一致している(cf. #ラボの研究費について )ため,RAの仕事をすれば自然と学生自身の研究が進むことが多い.この場合は,学生にとってはただの奨学金の様に感じられるかもしれない.もちろん,研究室の用務(計算機管理)等の様に,「ただのバイト」の色が強い場合もあるが,計算機管理すら学生の研究と全く関係がないわけではない.つまり「学生自身の研究と全く関係ない仕事」はあまりないと思う. 一方で,分野によっては教員と学生の研究テーマを一致させず,そもそも共著関係にすらならないのが普通の分野もあるらしい.例えば経済学系の同僚によれば,経済学ではRAはあくまで学生にアルバイトをお願いするだけで,一切共著関係になる可能性がない仕事を振ること(例えばデータ収集に関する単純作業の手伝いなど.オーサーシップが発生しないことを事前に明記する場合もある)はよくあるらしい.この場合は,RAは単なる金銭面での補助が目的であり,いくらRA業務を遂行しても学生の研究は進展しないかもしれない.
# もし金澤の理解が間違って居れば教えてください.ただ,経済学でPhDを取った同僚と頻繁に雑談している間に聞いた内容なので,全く的を外しているということはないと信じたい...
金澤は学際分野の研究者であるため,他分野の慣習を覗き見る機会が多少他の研究者よりあるつもりだが,『大学は分野を跨げば別の国』だと本当に感じている.あまり他分野の慣習を正確に理解することは出来ないと感じるため,私の情報も大学のほんの一部の話だと思って頂いた方が良い.
参考:科研費FAQからの引用, 2022/08/15時点
【Q4456】大学院生をリサーチアシスタント(RA)として雇用し、科研費の研究補助業務に従事させることは可能でしょうか?
【A】 科研費の研究課題に必要な実験補助や研究資料の収集等に従事させるために、大学院生を研究協力者(リサーチアシスタント)として雇用し、給与や謝金を支給することは可能です。各研究機関において、適切な給与水準を定め、雇用に必要な手続を行ってください。なお、この場合、研究協力者としての「業務への対価」として認められるものであって、大学院生への奨学金のようなものは認められません。