ダンジョン飯のコンセンサスのシーンが素敵だった
だからみんな読んでみて!っていうのは簡単なのですがうまく伝えられないかと文字にすることを試みてみますterang.icon
なんせ言及したいシーンは、
アニメ13話
原作 30話
なもんで、けっこう中盤。
だから『ダンジョン飯』を知らない人に、どうやったらこのシーンの素敵さが伝わるか考えたくなりました。 この『ダンジョン飯』という物語は、モンスターの住まうダンジョンから資源を得て生活する人々を描いています。
トールマン種のライオス、
ライオスの妹ファリン、
鍵開け職の皮肉屋チルチャック、
魔法使い、
料理担当センシの
計5名パーティ視点で物語はだいたい展開していきます。
このパーティのリーダーはライオス。
物語は、ダンジョン奥で炎竜に食われたファリンを胃袋から救出するため、炎竜の住まうダンジョン奥へ、このパーティ一行が向かうところから始まります。
苦労の末、一旦ファリンを炎竜の胃袋から救出するも、
今度は「ダンジョンの主」なる存在が突如現れ、ファリンは彼に攫われてしまいます。
ファリンさん、炎竜に食われたのに続いて災難続き
ライオスはダンジョンの主から強烈な殴打を喰らって気絶中。
しかしどうしても妹ファリンを助けたい。
仲間の魔法使いはダンジョンの主を追い返すために強力な魔法を乱発し、魔力切れで動けません。
いまこの場で意識があるのはチルチャックとセンシだけでした。
倒れた仲間であるライオスと魔法使いを抱え、ダンジョンの主からようやく逃れたシーン。
このパーティ一行は、ダンジョンに住まうオークと以前縁があり、オークたちの助けもあって、
ファリンは攫われてしまったものの、
なんとかダンジョンの主の攻勢による危機は去りました。
気絶中のライオスは、起きたらば自分の妹ファリン救出のため、ダンジョン探索の続行を提案することは誰の目から見ても明白でした。
ダンジョンの主は通常現れない。自分たちのパーティ一行が危険な彼に目をつけられたこと。
装備一式や食料の入った荷物もダンジョンの主との戦いで失った。
何よりついさっき死にかけたこと。
意識のある(気絶していない)、2人の会話。
チルチャック「ふたりが目を覚ませば絶対にファリンを探したがる。なんとしても諦めさせないと。」
センシ「というと?」
チルチャック「なんでもいい。杖を燃やすとか。(...)ファリンが地上へ向かうのを見たとか」
杖というのは、ダンジョンの脅威であるモンスターにこのパーティで唯一対抗できる魔法使いの武器で、杖がないとパーティ戦力は大幅に低下します
センシ「ふたりを欺けと?」
チルチャックは、自分の人差し指をセンシに突きつけ捲し立てるように返答します。
「ああそうだよ! そうでもなきゃあのバカふたりは絶対諦めない。これ以上進めば俺たちは確実に殺される。壁の一部になりたいのか? 俺はごめんだね。あいつらに付き合って死ぬのはまっぴらだ。」
原作では、吹き出しに「…」とだけ表現されます。
チルチャックは、ライオスにファリン救出をやめさせたい。
そのために仲間を欺くという方略を採ろうと提案し、センシはその意見に対して同意も反論もせず保留します。 この2人の会話を聞いていたオークはチルチャックを軽蔑します。
オーク「腐った根性の匂いがうつりそうだ」
センシは気絶しているライオスと魔法使いの元に残り、
チルチャックとオークの2人は、周辺の地形に詳しいオークの案内で、
ダンジョンの主に襲われた地点に置いてきてしまった装備一式や食料の入った荷物を回収しに行きます。
道中、オークはチルチャックになにがあったのかを雑談的に尋ねてはチルチャックがぶっきらぼうに、炎竜やダンジョンの主との戦いで自分たちのパーティに起こったことを応えていきます。
たまたま助かったこと
本人も知らない魔法がなぜか発動してことなきを得たが一歩を間違えば死んでいたこと
あんなものは勇気でもなんでもない、バカな賭けだったと思っていること
チルチャック「——そう。どいつもこいつもアホでバカで大間抜けだ。無理をすれば報われると思い込んでる。そんな奴らまともに説得なんてできるか。」
オーク「だから騙すのか!? 他にもっといいやり方がある。」
チルチャック「嘘をつく程度で地上に帰れるなら上等だね。俺は臆病だし自分の命がいっちばん大事だからな!」
激昂するチルチャックにオークは「ではなくて」と前置いて、
仲間を「素直に死なせたくないと言えばいいのに」と。
チルチャックは返答に詰まります。
そんな会話を交わしながらも荷物を無事に回収し
元の場所に戻ってきたチルチャックとオークの2人。
ライオスは目覚めており、ボロボロの体のまま、やはりファリンを助けに行こうとするところをセンシが体を張って止めているところでした。
チルチャックは打ち明けました。
まずライオスに寄り添う言葉をかけます。「今のお前の心中は察するに余りある」
「だがこれ以上の探索は今の俺たちには無理だ。必ず誰か死ぬ」
「ここは耐えて地上に戻ってくれ。頼むライオス……!」
「俺はお前たちを失いたくない!」正直な気持ちを真正面から伝えながら涙が溢れてくるチルチャック。 ライオスへのチルチャックの必至の説得を
側で聞いていたのはセンシとオーク。
センシはこう言います。
「……実を言うと調味料などの一部食材もあとわずかでな。ファリンにはちゃんと旨い物を食わせてやりたい。街へ戻り物資を補充するべきだ」
終始無表情。調味料の残りがあと僅かであることは、方便かもしれないし真実かもしれない。読者にはわかりません。 黙り込むライオス。
一呼吸おいてオークが口を開きます。
「もしお前たちが準備を整え再び戻ってきたなら、我々もできる限りの協力はしよう」
ライオスは葛藤の表情を見せるも、ファリンを助けには向かわず一度引き返す決断をしました。 https://gyazo.com/3661c23c73020b5856d5ec0f5ccde630
チルチャックは上記のコマの通り、子どものような風貌をしています。背も低い。
なぜなら彼は「ハーフフット」という種族だから。
年齢は29歳で、娘が3人いて地上で帰りを待っています。
無類の酒好き。酔うとときどき管を巻いたりします。
一見、表情や記号だけを見ると、子どもが駄々を捏ねているように見えがち。
実際、劇中の別シーンでは、センシから子ども扱いをされチルチャックは頻繁に憤慨しています
なおセンシ以外のパーティメンバーからは、ちゃんとした大人として扱われています
チルチャックはパーティメンバーの中で最もダンジョンの脅威や仕組みに詳しく、ゆえに発言はいつも現実的で合理的。
オークは、「勇敢に戦うこと」「仲間を見捨てないこと」「倒した獣の肉で、食卓を仲間と囲むこと」に価値をおそらく置いています。
荷物を取りに行く道中、チルチャックから上記のようなシーンのことを聞くと表情が和らぎ、そうでないコメントを聞くときは表情が険しくなります。
こういう信念をもっていたから、当初仲間を欺こうとしたチルチャックを軽蔑しました。 https://gyazo.com/3f959d717f11fce2abba2ca6137595b2
荷物回収の依頼を断るオーク
https://gyazo.com/9a7f498777873155c4b434969d1013d3
仲間を悪くいうチルチャックに冷めた表情のオーク
https://gyazo.com/54d040988dda388c9e60bcd933e9675a
だんだんとチルチャックの仲間思いな面を察したのか、このあたりでは呆れたような表情
https://gyazo.com/fee3ee264df0c98217118ac2b733df6b
センシはずっと表情からは真意や心情の変化がわかりません
https://gyazo.com/b81c22c0788cb8468d794f12644f75f8
オークと荷物を取りにいく前のチルチャックとの会話
https://gyazo.com/8df40d203259d6ab2738f55ec0008d88
ライオスへのチルチャックの説得後、意見を述べるセンシ
始めはいますぐファリンを助けに行きたくて頑なだったライオスも、
周囲の意見を聞いて自分の主張を鎮める点が偉大。
https://gyazo.com/411dfc3aa60119ad5d5f2c737c7893ea
起きてすぐのライオス
https://gyazo.com/5fe380139a32536a50c36c0b05b92220
チルチャックの説得
(再掲)https://gyazo.com/3661c23c73020b5856d5ec0f5ccde630
先のシーン
正直な意見を伝える。気持ちも伝える。
一方で同時に、相手の意見に耳を傾け、意見が変わった際はそのことを伝え、決定したことに従う。
意見が違うときはちゃんと対立するし、保留も選択肢にある。 蛇足だと思うけど
このシーンは他にも見どころが満載です。
ライオスの剣に入り込んでいるチルチャックよりもっと臆病なモンスターがいたり
チルチャックがファリン救出に同行する経緯を振り返ったり 魔法使い(マルシルという)には別途目的があったり
こことは他のシーンも、また気が向いたら言葉にしてみようterang.icon
例えば
チェンジリングで別の種族に一時的に変わるのも示唆的だし、
ナマリやタンスさんも、人として尊重されるつつ、パーティ一行には同行しない複数性がちゃんとあったり 黒猫と人が混じったイヅツミは、食べたくないものは食べない、嫌なことはしたくない、けど食べなくてはいけないときやらなくてはいけないときを、他者の理由を聞きながら反芻していく。イヅツミ自身の意見は変わらないかもしれないが、他者との共生を学んでいく。なんてことがあったり
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引用したコマはすべて©️九井諒子/KADOKAWAです