【新滴集】
第4歌集 99首
新滴集の特徴
#目次
1.仏法・教義
(Buddhism / Doctrine)
一音に 万響含む 雫かな 音なく滴る その音を観よ
みほとけの 見守る我れか みほとけを 見守る我れか たまゆらを聴く
水鏡前在解脱門 一顰凍人肝邦邦 一笑震宇宙殷殷 寧為菩薩不為鬼
微笑めば仏となりぬ しかめれば 鬼神となりて肝を喰らわん
百千の川も海へと注がれん 百面相も菩薩への道
言の葉で肝を凍らす夜叉よりも かんばせ溶かす菩薩でありたい
与えらる苦しみよりも 作り出す 苦しみに泣く 修羅の道かな
僧静磨墨 筆先宿仏 紙面現法 荘厳世界
一滴慈言含万感 無形愛語入耳柔 不見誠情我両眼 風中微響薫心胆
毒言千万如戈戟 賢者一忍如干盾 黙慧観透憤殺語 春風難撼定中禅
仏母とはほとけの御母 源(みなもと)ぞ 菩薩も修羅も やすやすと 産む
地獄とは この世の後の ことならず 貪り瞋り 今も身を焼く
2.修行・実践
(Practice / Discipline)
みほとけと 二人三脚 この旅路 山あり谷あり いのちつきても
みほとけに 借りた草履は 慈悲忍辱 大事に履いて 歩いて行かん
草鞋者旅路之友 則将歩履悲与忍 宿至舟留心謝法 行行回眸智光明
与えては 守り忍びて 精進し 静かに禅定 智慧ぞ開かん (六波羅蜜。檀戒忍進禅慧)
一粒の涙の星を震わせて 菩薩の種の 花ぞ開かん
泣き笑い とらわれぬなら菩薩道 とらわるるなら修羅の道かな
背に負うた 菩薩の種は重けれど 植え植え歩き 花の道成す
一粒の 菩薩の種を植えければ 涙も雨ぞ 花の開かん
果てもなき 修羅の道をば あゆみしも かえりみすれば 花咲きにけり
毒舌もそよかぜならん忍耐と 沈黙により本性を見ば
松柏青而砂浜白 夏日開傘護身心 到地収蓋望彼方 松柏青而砂浜白
降りそそぐ みめぐみ胸に あたためて 同行二人 長夜(ぢょうや)の旅路
三歩超三界 一脚跨花嵐 観空即合掌 遊歩大空位
長夜暗澹衆生昏 眼目已慣冥闇快 莫畏燦然真一路 一歩勇進破迷昏
暗闇のこの道筋に慣るるとも 光眩しき道を恐るな
慈悲喜捨の 種袋かな わが口は 言の葉繁り 智慧の実ぞなる
みほとけの種を携えみ国から 来たりし浮世は客間なりけり
散り敷いた花も嵐も踏み越えて 何処へ行かん浄土か穢土か
浄土かと思いて進みしこの道は 螺旋を描き何処へも行く
誇らしく背負うた重荷と行く道か 下ろしてみれば足取りかろし
方便は鋭き刃ぞ心置け 彼を切り裂き身をも切り裂く
みめぐみは 降りしきるかな 燦燦と 五智の芽吹きて 花ぞ開かん
苦と共に人の世歩む我れなれば まことの道をあるべきようわ
この道はいずくに続くと煩わで 浄土も穢土も 今このときぞ
ただ今が無上の歩み あと一歩 あると思うな悟りの階
ひとつしかあらぬいのちを投げ捨てて 浮かぶ瀬こそあれ 仏道修行
何故に生くるものとは知らねども それゆえ進む悟りへの道
我が道はほとけと共に歩む道 御手に引かれて長夜をば行く
火の山も氷の谷も越え行かん ただ一筋の道を信じて
進みしと思えど戻る道かもと 戻れば遠し 暮れ惑う我れ
咲き匂う花こそ愛でよ明日ありと 朧気にして今を過ぐすな
3.信仰・信心
(Faith / Devotion)
みそなわす このまなざしは 加持なりと 地球(ほし)を見つめて われ供養せん
すなおさは ほとけの愛ずる 宝かな やさしくなでて 常に育まん
暖かな 誰もが抱く 灯ひとつ 向かい風の中 守りつつ行く
咲きて散りこぼれて飛んで芽吹き茂る 我れは法の子汝(なれ)も法の子
言わずとも知れたことよと甘ゆるな 和顔と愛語の灯を守らん
願わくは やさしさ溢れて智慧光り こころ楽しき世界であれよ
ゆうぐれは 少し寂しき 心地する 入日に向かいて 南無阿弥陀仏
4.無常・生死
(Impermanence / Life & Death)
遠からず向かわん旅路のその日まで 悔いなく行きん力の限り
生まるれば死にゆくものと知りながら なお生まれ死ぬ無明のいのち
死してなお 朽ちぬ命はあるものか 貧女の一灯 消えぬとぞ知る
我が身とは 起きて半畳 寝て一畳 死して一壺 三寸の牌
大股に歩む月日を追いかけて 過ぎゆくものは我が身なりけり
長かれと思う命は夏の夜か 花の散るより早く散りなん
刹那ゆえ輝く命を知りもせで 明日(あした)明後日(あさて)を憂う愚かさ
明日こそ この次とこそ思おえど おぼつかなきは命なりけり
咲き匂う花こそ愛でよ明日ありと 頼めぬ春の風に散るかも
君みずや 今日もさやけし 月の影 見あぐる人の 老いし面影
5.自然・風景
(Nature / Scenery)
蝉時雨 燃ゆるいのちの あつさかな
つきかげは いとさやかなり まちかけて こいしとおもう こころのわざかな
風運ぶ 草の匂いか 蝉の声 過ぎゆく時に 佇みにけり
6.情愛・人間関係
(Love & Relationships)
澄まし顔の羅漢にあらで悲喜顰笑 塵に在りては君に寄り添う
愛ゆえに やさしさ芽生え 胸いたみ 憎しみ増して まなじり裂けぬ
汗ばんだうなじに感じた熱視線 ゆかしなつかし 君のいた夏
ひび割れた心に撒(ま)いた一掬(すく)い やがて咲かせん 匂い立つ夢
不待待玉人 不看看花顔 心疼説氷言 安知我流汗
叶うなら今一度もあらばとて かいなく沈む無明の長夜
7.覚悟・布施・捨身
(Resolve / Giving / Selflessness)
我れまさに 花を咲かせん 言の葉の 方便力を もっての故に
我が身焼く 炎は熱く 燃ゆれども 智火とぞ知れば 涼しかりけり
8.比喩・諷刺・諧謔・引用
(Metaphor / Satire / Playfulness/ Allusion)
立ち昇る 香の音色を聞く耳に 囁く声は 神か悪魔か
幾億劫積んだ福智を灰となす まこと怒りは わりなきぞかし(大智度論28)
莫吐毒薬花 莫言逆耳話 恨血埋土碧 毒詞化珠華
楽詩如習凧 初走捉微風 慣至十丈空 吟雲遊与友
言種出生従悲心 柔芽青青由慈眼 紅白蕾綻則花笑 播撒言種潤十方
指燃やし身を燃やしては心燃やし 我は供養す さとりの日まで(梵網経_第16軽戒)
清らかな水で洗わん わが両手 濁れる水なら 足を洗わん(漁父辞より)
牌を手に戯れし日は過ぎ去りて 牌に刻みし名のみ残れり
咲く花は変わらぬ花に見ゆとても 花みる人は移ろいにけり(劉希夷「代悲白頭翁」)
日の暮れて遠き道のり行くときも こころの灯火守りて進まん(史記_伍子胥列伝)
9.日常・生活
(Everyday Life)
山川の流れに抗うことなくも 流れ見すまし あるべきようわ
香る書の 穂先に仏の在(ま)しまして み法を説きて 瓔珞つむがん
10.精神・悟り・心象
(Mind / Enlightenment / Imagery)
唱うれば 我れなく彼なく 仏なく 衆生もなければ 法界もなし
我れと見た 鏡の中の影法師 右手を挙ぐれば 左手を挙ぐ
寝転んで 胸に手を当て 聴く音は 宇宙の廻る 妙なる響き
我が腕は 世界を抱く み腕なり 大地を踏むは カーリーのダンス
いつとなく仏と我れの見つめ合う 大千熱く宇宙(そら)ぞ震える
億万のほとけ在(ま)します我が身かな 知らず抱けり いのちの行幸(みゆき)
身は曼荼 血脈流る あらはしゃのう 聲は真言 骨は舎利とぞ
血潮には極微(ごくみ)の明王在(ま)しまして 五体を廻り宇宙(そら)を震わす
五尺の身は仏の在(ま)します大曼荼 菩薩は笑い 明王は瞋る
心の臓は 蓮(はちす)の蕾(つぼみ) ほころびて 九尊在(ま)します法界宮なり
両の眼は日月なりや 身は世界 血潮は大河 三世を流る
夕聞沈調芳 坤浮蜷月淡 静照我心裏 合掌不知覚
満つるとも欠けゆくすがたも陰(かげ)なりとも 月ぞ恋しき わがこころかな
今ここに尽きなんとする炎かな 最後の一耀ほとけの計らい
行く道と思えど帰る道なれば 安きみ胸に抱かるるかな
願わくば 天女となりて 天くだれ み法のみ歌 高らかに舞わん