愚管抄_鎌倉節の腕前
愚管抄_鎌倉節の腕前
ひでひらが子に母太郎・父太郎とて子二人ありけり。やすひらは母太郎也。それにつたへて父太郎は別の所をこしゑてありける。父太郎は武者がらゆヽしくて、いくさの日もぬけ出てあはれ物やと見へけるに、こなたよりあれを打とらんと心をかけたりけるにも、庄司次郎重忠こそ分入てやがて落合てくびとりて参たりけれ。すべて庄司次郎を頼朝は一番にはうたせうたせしてありけり。ゆヽしき武者なり。終にいかなる納涼をしけるにも、かたへの者ちかく膝をくみて居る事ゑせでやみける者とぞきこゆる。
頼朝は鎌倉を打出けるより、片時もとり弓せさせず。弓を身にはなつ事なかりければ、郎従どもヽなのめならずをぢあいけり。手のきヽざま狩などしけるには、大鹿にはせならびて角をとりて手どりにもとりけり。太郎頼家は又昔今ふつになき程の手きヽにてありけり。のくもりなくきこゑき。
(以上、愚管抄巻第五了)