愚管抄_無能な関白近衛殿
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愚管抄_無能な関白近衛殿
世はさればいかに落居なんずるぞと、日本国のなれる様今はかうにこそとて、摂籙臣こそ如此はさたすることを、山よりくだらせ給ふまヽに、近衛殿摂籙もとのごとしと被仰にけり。一定平氏にぐして落べき人のとまりたればにや。又いかなるやうかありけん。されど近衛殿はかやうの事申さたすべき人にもあらず。すこしもをぼつかなき事は右大臣に問つヽこそをはしければ、たヾ名ばかりの事にて、庄園文書まヽ母の我よりも弟なりしが手よりゑたる由にて、清盛にかくしなされたる人にてあるが、猶かくてあら(は)るヽ。いかにもいかにも人は心ゑぬことにてありしをば皆心ゑられたり。かう程にみだれん世は事もいはれたる事はあるまじき時節なるべし。大方摂籙臣はじまりて後これ程に不中用なる器量の人はいまだなし。かくてこの世はうせぬる也。