愚管抄_【はじめに】
愚管抄_【はじめに】
年にそへ日にそへては、物の道理をのみ思つヾけて、老のねざめをもなぐさめつヽ、いとヾ、年もかたぶきまかるまヽに、世中もひさしくみて侍れば、昔よりうつりまかる道理(道理⑤道理が変化する道理)もあはれにおぼえて、神の御代はしらず、人代となりて神武天皇の御後、百王ときこゆる、すでにのこりすくなく、八十四代にも成にけるなかに、保元の乱いできてのちのことも、また世継がものがたりと申ものもかきつぎたる人なし。少々ありとかやうけたまはれども、いまだえみ侍らず。それはみなたヾよき事をのみしるさんとて侍れば、保元以後のことはみな乱世にて侍れば、わろき事にてのみあらんずるをはばかりて、人も申をかぬにやとをろかに覚て、
ひとすぢに世のうつりかはりおとろへくだることはり、ひとすぢを申さばやとおもひて思ひつヾくれば、まことにいはれてのみ覚ゆるを、かくは人のおもはで、道理にそむく心のみありて、いとヾ世もみだれをだしからぬことにてのみ侍れば、これを思つヾくる心をもやすめんと思てかきつけ侍也。
皇代年代記あればひきあわせつヽみてふかく心うべきなり。