愚管抄_QA
from 愚管抄
愚管抄_QA
問、されば今は力及ばず、かうて世に直(なを)るまじきか。
答、分(ぶん=随分)には易く直りなむ。
問、すでに世下り果てたり。人又無(な)かん也。跡もなくなりにたるにこそ。しかるに易く直りなんとはいかに。
答、「分には」とはさて申す也。一定易々と直るべき也。
問、その直らんずるやう如何。
答、人は失せたれど、君と摂籙臣と御心一つにて、このある人の中に悪ろけれども、さりとては、僧俗を掻い選(え)り選りして、良からん人を、ただ鳥羽・白河の頃の官の数に召し使ひて、そのほかをばふつと捨てらるべきなり。不中用(=不要)の者をまことしく捨て果てて目をだに見せられずは、目出度めでたとして直らんずる也。随分に直ると云ふはこれなり。昔の如くには人の無ければ、<それも中々>叶ふまじ。選り正したらんずる寸法の世こそは悪ろながら、よく直りたるこの世にてあらんずれ。
問、この官の多さ、人の多さをば、いかに捨てんとては捨てられんずるぞ。
答、捨つと云ふは、ふつと召し使はず。<さ>る者や世にあらんとも知ろしめさるまじき也。陽成院(=上皇として)世におはしまして、やうやうの悪事せさせ給ひしかど、物も言はで聞き入れざりしかば、寛平・延喜の世、目出度くてありき。解官停任(=罷免)にも及ぶまじ。ただ捨てられぬにて、「まことに捨てられたらん人には、なあひしらひそ(=相手にするな)」と、選り採られたらん人に、仰せふくめて、さて有るべきなり。
問、その捨てられ人あまり多くて、寄り合ひて謀反や起こして大事にやならんずらん。
答、武士をかくて持たせおはしましたるは、その料(れう)ぞかし。少しもさる気色(=謀反)いかでか聞こえざらん。聞こえん時二三人さらん者を遠流せられなば、つやつやさる心を起こす人もあるまじき也。
問、此義なりて侍り。いみじいみじ。但し誰かその人をば選りとらんずるぞ。
答、これこれ大事なれ。但しこれ選りて参らする人四五人は一定ありぬべし。その四五人寄り合ひて、選り取りて参らせたらんを、君だにも強々(つよつよ)と働(はたら=変更)かさで、ひしと用ゐさせ給はば、易々とこの世は直らんずるなり。
問、解官せじとはいかに。
答、選り出だされむ人の、八座・弁官・職事ばかりになる人候らん所こそ要(かなめ)なれば、それは解官せられなんず(=前の人は罷免されるだらう)。言(こと)も愚かや。そのほかはせめて無沙汰なれと也。僧俗官の数の定め程こそ大事なれど、鳥羽院最中の数、末代よりよきほど也。