パル判決書
【試読】パル判決書
*****
第一部 予備的法律問題
(A)裁判所の構成
(B)裁判所の管轄権外の事項
(C)本件に適用されるべき法
(D)裁判所条例~これは戦争犯罪を定義しているか
(E)定義~これは裁判所を拘束するか
(F)戦勝国~法律を制定しうるか
(G)戦勝国の主権に関する理論
(H)侵略戦争~犯罪であるか
(1)1914年までの国際法において不法または犯罪であったか
(2)1914年からパリ条約成立の1928年までにおいて不法または犯罪であったか
(3)パリ条約以後、不法または犯罪であったか
(4)パリ条約によって犯罪とされたか
(5)パリ条約のために犯罪とされたか
(6)その他の理由によって犯罪されたか
(I)個人責任
(1)ケルゼンの見解
(2)グリュックの見解
(3)ライト卿の見解
(4)トレイニンの見解
(5)国際生活における刑事責任の導入
パル判決書#1
1_0
パル判決書#2
1_AB
※(A)裁判所の構成
(B)裁判所の管轄権外の事項
パル判決書#3
1_CD
※
(C)本件に適用されるべき法
(D)裁判所条例~これは戦争犯罪を定義しているか
パル判決書#4
1_EF
※
(E)定義~これは裁判所を拘束するか
(F)戦勝国~法律を制定しうるか
パル判決書#5
1_G(1)
※(G)戦勝国の主権に関する理論
パル判決書#6
1_G(2)
※(G)戦勝国の主権に関する理論
パル判決書#7
1_H1~3
※
(H)侵略戦争~犯罪であるか
(1)1914年までの国際法において不法または犯罪であったか
(2)1914年からパリ条約成立の1928年までにおいて不法または犯罪であったか
(3)パリ条約以後、不法または犯罪であったか
パル判決書#8
1_H4(1)
※
(H)侵略戦争~犯罪であるか
(4)パリ条約によって犯罪とされたか
パル判決書#9
1_H4(2)
(H)侵略戦争~犯罪であるか
(4)パリ条約によって犯罪とされたか
パル判決書#10
1_H4(3)~5(1)
(H)侵略戦争~犯罪であるか
(4)パリ条約によって犯罪とされたか
(5)パリ条約のために犯罪とされたか
パル判決書#11
1_H5(2)~H6イ(1)
※
(5)侵略戦争~パリ条約のために犯罪とされたか
(6)侵略戦争~その他の理由によって犯罪とされたか
(イ)慣習法の発達によって
パル判決書#12
1_H6イ(2)~ロ(1)
※
(6)侵略戦争~その他の理由によって犯罪とされたか
(イ)慣習法の発達によって
(ロ)国際法は進歩する制度であるから
パル判決書#13
1_H6ロ(2)~
(6)侵略戦争~その他の理由によって犯罪とされたか
(ロ)国際法は進歩する制度であるから
パル判決書#14
1_H6ハ~ニ
※
(6)侵略戦争~その他の理由によって犯罪とされたか
(ハ)裁判所の創造的裁量によって
(二)自然法によって
パル判決書#15
1_I
※
(I)個人責任
パル判決書#16
1_I_1~
(I)個人責任
(1)ケルゼンの見解
(2)グリュックの見解(続く)
パル判決書#17
1_I_2
(I)個人責任
(2)グリュックの見解(続き)
パル判決書#18
1_I_3
(I)個人責任
(3)ライト卿の見解
パル判決書#19
1_I_4
(I)個人責任
(4)トレイニンの見解
パル判決書#20
1_I_4~
第一部 予備的法律問題
(I)個人責任
(4)トレイニンの見解
(5)国際生活における刑事責任の導入(途中まで)
パル判決書#21
1_I_5
第一部 予備的法律問題
(I)個人責任
(5)国際生活における刑事責任の導入(続き)
第二部 「侵略戦争」とはなにか
(A)定義の必要
(B)各時代に提案された各種の定義
(C)右の諸定義の承認に対する諸困難
(D)定義の基礎
(E)自衛
(F)自衛を決定する要因
(G)考慮を要すると思われる事項
(1)中国における共産主義
(2)中国のボイコット
(3)中立問題
(4)経済制裁
(5)強制的手段の合法性
(6)条約その他に違反せる戦争
(7)背信的戦争
パル判決書#22
2_AB
第二部 侵略戦争とは何か
(A)定義の必要
(B)各時代に提案された各種の定義(途中まで)
パル判決書#23
2_BC
第二部 侵略戦争とは何か
(B)各時代に提案された各種の定義(つづき)
(C)右の諸定義の承認に対する諸困難
パル判決書#24
2_D
第二部 侵略戦争とは何か
(D)定義の基礎
パル判決書#25
2_EFG_1~2
第二部 侵略戦争とは何か
(E)自衛
(F)自衛を決定する要因
(G)考慮を要すると思われる事項
(1)中国における共産主義
(2)中国のボイコット
パル判決書#26
2_G_3~5
(G)考慮を要すると思われる事項
(3)中立問題
(4)経済制裁
(5)強制的手段の合法性
パル判決書#27
2_G_6
第二部 「侵略戦争」とはなにか
(G)考慮を要すると思われる事項
(6)条約その他に違反せる戦争(つづく)
パル判決書#28
2_G_6~7
第二部 「侵略戦争」とはなにか
(G)考慮を要すると思われる事項
(6)条約その他に違反せる戦争(つづき)
(7)背信的戦争
パル判決書#29
4(1)
第四部 全面的共同謀議
結論
パル判決書#30
4(2)
第四部 全面的共同謀議
結論
パル判決書#31
4(3)
第四部 全面的共同謀議
結論
パル判決書#32
4(4)~
第四部 全面的共同謀議
結論
第五部 裁判所の管轄権の範囲
パル判決書#33
5~
第五部 裁判所の管轄権の範囲
第六部 厳密なる意味における戦争犯罪
1.殺人及び共同謀議の訴因(訴因第37~第53)
パル判決書#34
6_1(2)
第六部 厳密なる意味における戦争犯罪
1.殺人及び共同謀議の訴因(訴因第37~第53)
パル判決書#35
6_1(3)
第六部 厳密なる意味における戦争犯罪
1.殺人及び共同謀議の訴因(訴因第37~第53)
パル判決書#36
6_2(1)
第六部 厳密なる意味における戦争犯罪
2.日本占領下の諸地域の一般人に関する訴因(訴因第54~第55)
訴因(wiki)
最終的訴因
当初55項目の訴因があげられたが、「日本、イタリア、ドイツの3国による世界支配の共同謀議」「タイ王国への侵略戦争」の2つについては証拠不十分のため、残りの43項目については他の訴因に含まれるとされ除外され、1948年(昭和23年)夏には、最終的には以下の10項目の訴因にまとめられた。
訴因1 - 1928年から1945年に於ける侵略戦争に対する共通の計画謀議
訴因27 - 満州事変以後の対中華民国への不当な戦争
訴因29 - 米国に対する侵略戦争
訴因31 - 英国に対する侵略戦争
訴因32 - オランダに対する侵略戦争
訴因33 - 北部仏印進駐以後における仏国侵略戦争
訴因35 - ソ連に対する張鼓峰事件の遂行
訴因36 - ソ連及びモンゴルに対するノモンハン事件の遂行
訴因54 - 1941年12月7日~1945年9月2日の間における違反行為の遂行命令・援護・許可による戦争法規違反
訴因55 - 1941年12月7日~1945年9月2日の間における捕虜及び一般人に対する条約遵守の責任無視による戦争法規違反
訴因について
第六部 厳密なる意味における戦争犯罪
殺人及び共同謀議の訴因
日本占領下の諸地域の一般人に関する訴因
(1)アンボン諸島
(2)アンダマンおよびニコバール諸島
(3)ボルネオ
(4)ビルマおよびシャム
(5)セレベスおよび隣接諸島
(6)香港を除く中国
(7)台湾
(8)仏領インドシナ
(9)海南島
(10)香港
(11)日本
(12)ジャワ
(13)ニューブリテン
(14)ニューギニア
(15)シンガポールおよびマレー
(16)ソロモン群島、ギルバートおよびエリス諸島、ナウルおよびオーシャン諸島
(17)スマトラ
(18)チモールおよび小スンダ列島
(19)ウェーク島、クエゼリン島および父島
(20)フィリピン群島
俘虜に関する訴因
パル判決書#37
6_2(2)
第四部(p.500)
いずれの国も、戦争準備をしている間は、自国が侵略を目的として戦争準備をしているとは決して思わないであろうし、…認めようとはしないであろう。…各国ともに自国のために、またその好むところの友邦のために、自衛をこのような広い意味に解するであろうし、同時にその一方において、それに対抗している相手方が下した同じように広い定義を、もっともなものとして認めることは絶対にないであろう。…一国家の取った手段が自衛行為であったかどうかは別として…自衛のために取った行動であると主張されたものがはたして合法的な行動であったかどうかという点についての最後の決定をなすことは…自衛権の問題が含まれているかどうかを決めるのは、敗者が戦争に訴えたのは自衛の為であったかどうかを決めるのと同様に勝者の権利となる。…それは敗者の防御的性質を理解することの絶対に出来ない相手方の手中に帰することとなる。…それはなんら有益な目的に役立たないばかりでなく、国際制度に一つの危険な原則を持ち込むことになり、国際生活における平和的関係を一層阻害することになるであろう。
パル判決書#38
6_2(3)
パル判決書#39
6_2(4)
パル判決書#40
6_2(5)
p.591(ドイツ皇帝ウイルヘルムⅡ)「予は断腸の思いである。…老若男女を問わず殺戮し、一本の木でも、一見の家でも立っていることを許してはならない。…かような暴虐をもってすれば、戦争は二カ月で終焉するであろう。ところが、もし予が人道を考慮することを容認すれば、戦争はいく年間も長引くであろう。したがって予は、自らの嫌悪の念をも押し切って、前者の方法を選ぶことを余儀なくされた」…我々の考察の下にある太平洋戦争においては、もし前述のドイツ皇帝の書簡に示されていることに近いものがあるとするならば、それは連合国によってなされた原子爆弾使用の決定である。
(※こーぼー注:連合国はヴェルサイユ条約第227条で「国際道義と条約に対する最高の罪を犯した」として前皇帝としてのヴィルヘルム2世の訴追を決めた。この手続きは成文法の違反ではない新しい法概念に基づくものであり、後の「平和に対する罪」の萌芽的前例となった。)
パル判決書#41
6_2(6)
p.610
かような観点から全証拠を再調査して、本官は次のような結論に至った。すなわち閣僚が、どのような方法によっても、カヨな犯行を命令、認可または許可したと推断する権利を我々に与えない。さらにかような犯罪は、政府の政策に准じて行われたという検察側の諸説を本官は容認することができない。
※南京のあと、広東や長沙での戦争犯罪についてのあたりです。
パル判決書#42
6_2(7)~3(1)
p.624
俘虜の虐待が各種の方法で行われたことを立証する証拠は圧倒的である。この証拠を詳細に論ずることは、何の役にも立たないであろう。これらの残虐行為の実行者は今ここにはいない。かれらのうち存命中で逮捕された者は、連合軍によって適当に処分されている。
現在我々の目前には、これと異なった一組の人々がいる。かれらは戦争中、日本の国務を執っていた者であり、戦争を通じて行われたあの残忍なる残虐行為は、そのような残酷な方法で戦争を行うに際し、彼らの発意で日本が採用したところの政策の結果にほかならないという理由で、右残虐行為の責任を問われんとしている者なのである。
第六部 厳密なる意味における戦争犯罪
殺人および共同謀議の訴因
日本占領下の諸地域の一般人に関する訴因
俘虜に関する訴因
パル判決書#43
6_3(2)
p.632
(東条英機)「日本人の俘虜に対する観念は、欧米人のそれと異なっております。なお衣食住その他風俗習慣を著しく異にする関係と今次戦役においては、各種民族を含む広大なる地域に多数の俘虜を得たることと、各種の物資不足とにあいまちまして、ジュネーブ条約をそのまま適用することは我が国としては不可能でありました。…日本においては古来俘虜となるということを大なる恥辱と考え戦闘員は俘虜となるよりは、寧ろ死を選べと教えられてきたのであります。これがためジュネーブ条約を批准することは俘虜となることを奨励する如き誤解を生じ、上記の伝統と矛盾するところがあると考えられました。」
今次大戦中には、予想外の大多数の軍隊が降伏した。…マレーにおいて十万のイギリス軍が、三万四千の日本軍に降伏した…西洋諸国の軍隊は、…全く賞賛の見込みがないと分かると、敵軍に降伏する。それでも自らは名誉の軍人と考え…しかし、日本人にとっては「名誉は死ぬまで戦うということに結び付けられているのである」
※北ビルマ作戦
俘虜数:戦死者数=142:17166=1:120
西洋諸国の軍隊においては、1:4程度
パル判決書#44
6_3(3)
p.640
起こった事件に対して大きな影響を及ぼした二個の最も適切な要素に注意を払ってみたい。その一つは降伏に関する日本と西洋との間における見方の根本的相違、すなわち降伏の「恥辱」あるいは「名誉」に関してである。他の一つは、日本が太平洋戦争中直面せねばならなかった投降者の圧倒的な数であった。後者はほとんど…予期されなかったものである。
p.645
日本兵の心構えがどのようなものであろうと、また彼らの俘虜に対する行動が彼らの目から見てどんなに正当であったにしても、彼らは彼らの犯した残忍な行為に対して応えなければならないのである。かつまた本官がすでに指摘したように、その大部分のものはその生命を以ってすでに応えたのである。
※自ら俘虜となって生き恥をさらしている人から「人権」主張されても、そりゃ理解できないよな…。「働かざる者食うべからず」なので、使役もするだろうし。だって、「お客さん」じゃないんだから。
パル判決書#45
6_3(4)
第六部 厳密なる意味における戦争犯罪
殺人および共同謀議の訴因
日本占領下の諸地域の一般人に関する訴因
俘虜に関する訴因
パル判決書#46
6_3(5)
※御稜威(みいつ:御厳)=天皇陛下のご威光
p.672(バタ-ン死の行進)
いずれにしても、本館は、この出来事が少しでも正当化しうるものであるとは考えない。同時に、本館は、これに対してどのようにして現在の被告のうちの誰かに責任を負わすことができるか、理解することができない。これは残虐行為の孤立した一事例である。その責任者は、その生命をもって、償いをさせられたのである。本官は現在の被告のうちのだれも、この事件に関係をもたせることはできない。
第六部 厳密なる意味における戦争犯罪
殺人および共同謀議の訴因
日本占領下の諸地域の一般人に関する訴因
俘虜に関する訴因
パル判決書#47
6_3(6)
(泰緬鉄道・諜報行為・航空機搭乗員など)
p.675
「俘虜たる将校及び准士官の労務に関しては、…禁じられあるところなるも、一人と雖も無為徒食を許さざるわが国現下の実情と俘虜の健康保持などとに鑑み、…自発的に労務に使しめたき中央の方針なるにつき…」
p.690
連合軍航空機搭乗員に対する取り扱いは、日本に対する非難のうち、最も重大なものの一つである。…搭乗員たちは、この規則に基づき…死刑を宣告された。…この規則は、一般市民または非軍事的の目標に対する爆撃、射撃その他の攻撃については死刑を規定したものであった。
※こーぼー注:飛行機乗りが機を降りて俘虜となった場合は、わりかし丁重に扱われるべきだったらしい、世界基準では。でも日本人は、民間人を攻撃するなんて「人道を見師資たる暴虐非道なる行為」だと思って重罰を適用したみたいですね。
パル判決書#48
6_3(7)
(事後法・航空機搭乗員の裁判・原子爆弾など)
p.702
われわれが忘れてならないことは、空戦の真の惨禍は、幾人かの航空搭乗員が捕えられ、惨殺される可能性にあるのではなく、無差別的な爆弾の投下や投射物の発射によって起こる大きな破壊にあるのである。人類の良心が反感、憤怒の情を抱くのは、無残な爆撃手に与えられる処罰に対してではなく、寧ろその爆撃の残忍な方式に対してである。
p.705
証拠の大多数は信ずべきいかなる保証もなく、法廷外において作成された信頼性の不明な人々の供述書である。
パル判決書#49
6_3(8)
(航空機搭乗員について)
パル判決書#50
6_3(9)~7(1)
p.718
空襲の激化…東京、名古屋、大阪、神戸などにたいする無差別焼夷弾爆撃の為多数の人命と私有財産を焼毀せられ、国民の憤怒とくに搭乗員に対する反感ますます盛んなりと感じありたり。
…非人道的無差別爆撃を行いし者もあるべく、これらは速やかに軍律に照らし厳重処分するを至当とすべし。
…8月にはいると米軍の広島市および長崎市に対する原子爆弾攻撃相次いで実行せられ両都市民衆の大部罹災し、しかも山上誠に言語に尽くしがたきものあるに至るや、一般の敵愾心は再び極度に激化せられたるものの如し。
p.723
裁判を行わずに処刑した事件は、実際は日本から遠く離れた諸戦闘地域で起こった偶発事件であった。…いずれにしても、当時の日本における情勢に鑑みて、本官はこれらの遺憾な処刑を阻止することを怠ることについて、被告が、刑事的責任を有するものとは認めないのである。失敗はつねに過失を意味するものではない。
第6部 厳密なる意味における戦争犯罪
第7部 勧告
パル判決書#51【了】
7(2)
p.733
本件の被告の場合は、ナポレオンやヒットラーのいずれの場合と如何なる点でも同一視することはできない。日本の憲法は完全に機能を発揮していた。元首、軍人および文官はすべての社会のいつもと変わらず、また常態を逸しないで、相互関係を維持していたのである。…輿論は非常に活発であった。…今次行われた戦争はまさに日本という国の戦いであった。これらの人々は何ら権力を簒奪したものではなく、確かに彼らは連合軍と戦っていた日本軍の一部として、国際的に承認された日本国の機構を運営していたにすぎなかったのである。
p.739
戦勝国は、戦敗国に対して、憐憫から復讐まで、どんなものでも施しうる。しかし、戦勝国が戦敗国に与えることのできない一つのものは、正義である…
p.745
おそらく敗戦国の指導者だけが責任があったのではないという可能性を、本裁判所は、全然無視してはならない。
第7部 勧告
第2部 「侵略戦争」とは何か
(C)右の諸定義の承認に対する諸困難
p.488
ソビエト連邦に関する限り、かりに自衛ということは、ある条件のもとに、戦争を開始することを容認するものであると解釈しても、同国の対日宣戦当時の事態が、防衛の考慮から必要となった戦争であるとして、これを正当化するような事態であったとは言えないであろう。既に敗北した日本に対する戦争の中に「方法を選ぶことも、また熟考の時間をも許さないような緊急かつ圧倒的な自衛の必要」を読み取ることは、おそらく困難であろう。
p.492
諸権威によって提案された判定の標準によれば、ソビエト連邦は日本に対する侵略戦争を開始したという罪を犯したという結果になるであろう。
(D)定義の基礎
p.493
いうまでもなく、我々は現在ある種の戦争は国際法上の犯罪であるという仮定のもとに、議論を進めているのである。
(G)考慮を要すると思われる事項
(7)背信的戦争
p.531
真珠湾奇襲攻撃に関連して、…検察側は、この攻撃をもって背信的攻撃の特徴をもつものとし、かつ詐欺と欺瞞と不正実にみちみちた全計画の象徴であると主張している。
…東半球内におけるいわゆる西洋諸国の権益は、おおむねこれらの西洋人たちが、過去において軍事的暴力を変じて商業的利潤となすことに成功したことの上に築かれたものであると。勿論かような不公正は彼らの責任ではなく、この目的のために剣に訴えたかれらの父祖たちのしたことである。しかし「暴力を用いる者が、その暴力を真心から後悔しつつ、しかもそれと同時に、この暴力によって利益を得るということは永久にできない」と述べることは、おそらく正しいものと思う。
第四部 全面的共同謀議
(A)緒言
(B)第一段階~満州の支配の獲得
(C)第二段階~満州よりその他の中国の全部におよぶ支配および制覇の拡張
(D)第三段階~日本の国内的ならびに枢軸国との同盟による侵略戦争準備
(a)国民の心理的戦争準備
(1)人種的感情
(2)教育の軍国主義化
(b)政権獲得
(c)一般的戦争準備
(d)枢軸国との同盟
(E)ソビエト社会主義共和国連邦に対する侵略
(F)最終段階~侵略戦争の拡大による東亜の他の地域太平洋およびインド洋への共同謀議のいっそうの拡張
結論
パル判決書#52
4_D_a_1(1)
p.18
この東洋人排斥の感情は、第一次世界大戦後その力を殺がれること無しに存続し、…議論の重点は、…経済論から文化的、生物学的議論に移っていった。…白人国家はその排斥運動において、日本人を含む被排斥国民の国民的感受性に対して何らの考慮をも払わなかったのであって、これらの排斥法律が、人道に基いて組み立てられた理想的な人間相互間の関係を、助長しなかったことは否定できないであろう。
p.19
世界は彼らに対して、アフリカに行ってはならない、いずれの白人国家にも行ってはいけない。中国もダメ、シベリアにも入ってはいけないといった。しかも彼らの国は、土地はすべて耕しつくされており、しかも日々に人口の増加しつつある国家である。しかし、かれらはどこかへ行かなければならなかった。
第四部 全面的共同謀議
(D)第三段階~日本の国内的ならびに枢軸国との同盟による侵略戦争準備
(a)国民の心理的戦争準備
(1)人種的感情
(2)教育の軍国主義化
パル判決書#53
4_D_a_1(2)~4_D_a_2(1)
(軍事教練・治安維持法・愛国心・教育勅語とか)
第四部 全面的共同謀議
(D)第三段階~日本の国内的ならびに枢軸国との同盟による侵略戦争準備
(a)国民の心理的戦争準備
(1)人種的感情
(2)教育の軍国主義化
パル判決書#54
4_D_a_2(2)
破棄された戦時の教科書たち
『国体の本義』『臣民の道』
1.皇国臣民の道は、国体に淵源して、天壌無窮の皇運を扶翼するところにある。
3.a欧米文化の流入にともなって、日本人は個人主義、自由主義、功利主義、唯物主義などの影響を受け、ややもすれば古来の国風に悖るの弊を免れることが出来なかった。
b自我功利の思想を排して、皇国臣民としての道を高揚実践することが当面の急務である。
9.日本は政治的に、欧米の東洋侵略によって植民化された大東亜共栄圏内の諸地方を助けなければならない。
12.a日本の総力戦体制の目的は、皇運を扶翼するところによる。
13.b皇国臣民は、悠久な肇国の古えから永遠に皇運扶翼の大任を追うものである。
15.日本においては、「元来職業は、国家諸般のことを分担して天皇に奉仕するつとめである。」「職業の根本義は、営利を主眼としないで、生産そのものを重んじ、勤労そのものを尚ぶ」
パル判決書#55
4_D_a_2(3)
(書籍や新聞の検閲・隣組など)
第四部 全面的共同謀議
(D)第三段階~日本の国内的ならびに枢軸国との同盟による侵略戦争準備
(a)国民の心理的戦争準備
(1)人種的感情
(2)教育の軍国主義化
パル判決書#56
4_D_a_2(4)
(学校教練・出版物の検閲や弾圧)
p.55
若干の証人の表明した意見を除いては、青年の軍事教育の改革のためにとられた当時の日本官憲の処置に、侵略的準備を示すものはなんら証拠に存しないのである。
p.59
現在ここでは、…このような手段(=出版物の検閲や弾圧)の正当不当には関係がない。この制限を目的とした法律は濫用されたかもしれないし、害悪の急迫性戦時中の被告の言葉によって、いくらかでも増進されたという主張が、しばしば荒唐無稽なものであったということを今日示すことは可能であるかもしれない。これらの事柄は適用された手段の性格を変えるものでなく、…それが時折濫用されたことを示すだけである。…本官の述べるべきことは、単にこの証拠は必ずしも日本が侵略戦争を準備していた、あるいは日本政府の各部門の長官連が、侵略戦争を遂行するために共同謀議を行っていたとの推論に導くものではないということである。
パル判決書【補足】#1_パル博士の人となりと業績(1)
一又 正雄
パル判決書【補足】#2_パル博士の人となりと業績(2)
パル判決書【補足】#3_パル判決の背景~東京裁判の概要
一又 正雄
1_6_1
第一章 パル判決の背景~東京裁判の概要
6.東京裁判の判決と処刑
(1)判決と刑の言渡し
(2)別意見と反対意見
1.ウェッブ裁判長の別個意見
2.ヘラニラ判事
3.ローリング判事
(イ)法に関する考察
(ⅰ)管轄権
(ⅱ)平和に対する罪
(ⅲ)不作為の責任
(ロ)事実に関する考察
(ハ)各個人に対する判定
4.ベルナール判事
裁判所創設の合法性、
裁判所の管轄権、
実体法、
通例の戦争犯罪、
裁判所の手続に関する意見、
判定と刑
5.パル判事の反対判決書
(3)判決後
7.東京裁判の法理とその行方
パル判決書【補足】#4_パル判決の背景~東京裁判の概要
1_6_2
6.東京裁判の判決と処刑
(1)判決と刑の言渡し
(2)別意見と反対意見
(3)判決後
7.東京裁判の法理とその行方
パル判決書【補足】#5_パル判決の背景~東京裁判の概要
1_7(東京裁判の法理とその行方)
p.136
逆説的に言えば、…もし東京裁判が、立派な裁判官が主導権をもち、立派に運営され、無理のない判決が下されたならば、おそらく、これ以上、国際法の発達に寄与することはなかったろうし、その後の「原則の法典化」も円滑に進んだであろう。
…「占領軍」の裁判だったからやはり立派にはやれなかった、という我々の批判、彼らの反省は、どこが悪かったか、そのためにはどうしたらよいか、という施策に進まなければならない。
東京裁判の法理が結局うやむやになっているのは、ニュルンベルグ裁判とのアナロジーの無理、裁判の運営自体の欠陥、判定の過当などいろいろの原因があろうが、裁判をやったものが、自己反省からか自己嫌気からか、その法理の棚上げを行っていることも悪いが、裁判を受けた側の…というよりは裁判に何らかの関係がある者…とにかく、日本の国民が、ただ東京裁判を否とするのみでは、罪は同じくなる。
第二章 パル判決書の内容
1予備的法律問題
A裁判所の構成
B裁判所の管轄権外の事項
C本件に適用されるべき法
D裁判所条例
E定義
F戦勝国
G戦勝国の主権に関する理論
H侵略戦争
I個人責任
2侵略戦争とは何か
3証拠及び手続に関する規則
4全面的共同謀議
A緒言
B第一段階~満州の支配の獲得
C第二段階~満州よりその他の中国の全部におよぶ支配および制覇の拡張
D第三段階~日本の国内的ならびに枢軸国との同盟による侵略戦争準備
a国民の心理的戦争状態
(1)人種的感情
(2)教育の軍国主義化
b政権獲得
c一般的戦争準備
d枢軸国との同盟
Eソ連に対する侵略
F最終段階~侵略戦争の拡大による東亜の他の地域太平洋およびインド洋への共同謀議のいっそうの拡張
G日米交渉
H結論
5裁判所の管轄権の範囲
6厳密なる意味における戦争犯罪
(1)殺人および共同謀議の訴因
(2)日本占領下の諸地域の一般人に関する訴因
(3)俘虜に関する訴因
7勧告
パル判決書【補足】#6_パル判決書の内容
2_1~2_2
第二章 パル判決書の内容
1予備的法律問題
2侵略戦争とは何か
パル判決書【補足】#7_パル判決書の内容(2)
2_3~2_4_D_d
第二章 パル判決書の内容
3証拠及び手続に関する規則
4全面的共同謀議
A緒言
B第一段階~満州の支配の獲得
C第二段階~満州よりその他の中国の全部におよぶ支配および制覇の拡張
D第三段階~日本の国内的ならびに枢軸国との同盟による侵略戦争準備
a国民の心理的戦争状態
(1)人種的感情
(2)教育の軍国主義化
b政権獲得
c一般的戦争準備
d枢軸国との同盟
パル判決書【補足】#8_パル判決書の内容(3)
2_4_E~2_5
***
第二章 パル判決書の内容
4全面的共同謀議
A緒言
B第一段階~満州の支配の獲得
C第二段階~満州よりその他の中国の全部におよぶ支配および制覇の拡張
D第三段階~日本の国内的ならびに枢軸国との同盟による侵略戦争準備
a国民の心理的戦争状態
(1)人種的感情
(2)教育の軍国主義化
b政権獲得
c一般的戦争準備
d枢軸国との同盟
Eソ連に対する侵略
F最終段階~侵略戦争の拡大による東亜の他の地域太平洋およびインド洋への共同謀議のいっそうの拡張
G日米交渉
H結論
5裁判所の管轄権の範囲
パル判決書【補足】#9_パル判決書の内容(4)【了】
2_6_1~2_7
***
第二章 パル判決書の内容
6厳密なる意味における戦争犯罪
(1)殺人および共同謀議の訴因
(2)日本占領下の諸地域の一般人に関する訴因
(3)俘虜に関する訴因
7勧告
1_A
p.244
戦争というものは、合法的なものにせよ、非合法的なものにせよ、また侵略的なものにせよ、防禦的なものにせよ、やはり一般的に認められた戦争法規によって規律されるべき戦争であることに変わりはない。いかなる条約、いかなる協定も、絶対に「戦争法規」を廃止したことはない。…交戦国の行動に存するかような傾向を抑制するためには、強力な措置が必要なのである。
国家内における彼らの地位は、かれらのあらゆる行為を国際法上の意味における国家の行為となすものではない。
1_G
p.290
国際法の現状の下にあっては、一戦勝国、または戦勝国の集団は、戦争犯罪人を捌くための裁判所を設置する権限をもっているであろうが、いやしくも戦争犯罪人に関して新しい法律を制定し、公布する権限は持っていない。かような国家または国家群が、戦争犯罪人の裁判のために、裁判所条例の公布にとりかかる時には、国際法の権威のもとにおいてのみそうするのであって、主権の行使としてするのではない。戦敗国民または占領地にたいする関係においてさえ、戦勝国はそれに対する主権者ではない、と本官は信ずる。
1_H_4
p.326
国際生活において、自衛戦は禁止されていないばかりでなく、また各国とも、「自衛権がどんな行為を包含するか、またいつそれが行使されるかを、自ら判断する特権」を保持する…自衛権は関係国の主権下にある領土の防御だけに限られていなかったのである。
2_E(自衛)
p.499
ケロッグ氏は、自衛権は経済封鎖にまでおよぶことを説明している。この条約(=ケロッグ・ブリアン条約)は自国の領土、属領、貿易あるいは権益を防衛する米国の権利を侵害または剥奪するものではないと了解された。…「本条約の条項または条件によって、自衛権は少しも制限或いは侵害されるものではない…各国は全ての時期において、また条約の条項いかんにかかわらず、時刻を防衛する自由を有し、また各国は自衛権の内容と必要と範囲についての唯一の判定者である。」
2_G_3(中立問題)
p.510
(1)日中事変後においても、これら諸国は中立維持の義務を負っていたものであるか。
(2)交戦中の日本の行動に関する敵意のある批判…をも含むこれら諸国の態度ははたして中立国の権利内であって、かつ中立国の義務と相容れるものであったか。
(3)もしそうでなかったとすれば、かような国家に対する日本の行動はかような外国の態度から見て正当づけられ得るものであったか。
…一国家の放送の効力は、それだけでも交戦国にたいして、どんな軍団の壊滅にも勝る被害を加えうるものである。
…もし交戦国が、ある中立維持の義務を負う国家の放送ないし新聞による発言を、自己に対して甚だ不利益なものと感じた場合には、その交戦国は、かような発言の中止を要求するか、もしくはその国と戦う権利がある者と見ることができよう。
2_G_3(中立問題)
p.512
中立法は、一国の政府が適当と認めた場合、その参戦を妨げるものではない。「たんに中立法は、中立を仮装しながら戦争行為をなすことを禁止することによって、国際関係における公明と礼譲とを守ることを要求するにすぎない」。国際法の基本的原則によれば、もし一国が武力紛争の一方の当事国に対する武器、軍需品の積出しを禁止し、他の当事国に積出しを許容するとすれば、その国は必然的に、この紛争に軍事的干渉をする事になるのであり、宣戦の有無にかかわらず、戦争の当事国となるのである。
…かくして日華交戦中、米国があらゆる手段を尽くして中国を援助した事実は、日本がその後とった対米行動の性格を決定する上に重要な考慮の点となるのである。
…この点について、我々はいわゆる中立国による一交戦国に対するボイコットあるいは経済制裁の意義を考察しなければならないかもしれない。
2_G_4(経済制裁)
p.518
戦争を遂行している一国に対してボイコットをすることは、その紛争に直接介入することと同じである。…これは中立の法則ならびに国際法がいまなお非交戦列強に賦課する根本的義務を無視するものである。
したがって米国が日本に対してとった経済的措置ならびにABCD包囲陣の事実は、日本がこれらの諸国に対してとったその後の行動の性質を決定する問題に重大な意義を持つものである。
4_F(全面的共同謀議、日米交渉)
p.下350~
…終局的に起こった太平洋戦争については、日本は初めからなんらこれを機としていなかったことが明瞭に示されている。
その政策を定め、準備を整えるにあたって、日本はもとよりかような戦争が、万一にも起こる可能性のあるべきことを無視しえなかったのである。しかしながら、日本がこの終局における衝突をつねに回避しようとしていたことについては、明白な証拠が存する。
p.下374
…日本は三国同盟の変更あるいは、また中国からの撤兵に 関する意図についてなんら欺瞞的であるとか、あるいは偽善的なことを言ったことは一度もない。
p.376
交渉は決裂した。…日本側において、全てのことは誠意をもってなされたようであり、本官はそのいずれの所においても欺瞞の形跡を発見することができない。
もし交渉が、…準備の時間を稼ぐ目的だけに図られたとみなしうるならば、時間を稼いだのは日本ではなく、米国であ
ったと言わざるを得ない。
4_F(全面的共同謀議)
p.下441
すなわち「今次戦争について言えば、真珠湾攻撃の直前に米国国務省が日本政府に送ったものと同じような通牒を受取った場合、モナコ王国やルクセンブルグ大公国でさえも合衆国に対して戈をとって起ちあがったであろう」。
p.下448
1941年7月26日、合衆国は日本との一切の取引を政府の統制下におくために、日本人の在米資産を凍結した。これは経済戦の宣戦布告であり、確かに中立的な行動ではなかった。…
4_F(全面的共同謀議・侵略)
p.下460
…当時中国と交戦していた日本に対して、連合国が取ったような処置に出ることは、右紛争に直接参加するにも等しい行為であった。彼らの行動は中立の理論を無視し、また国際法が今なお非交戦国に課している根本的な義務を棄てて顧みないものである。…事の正不正を問わず、連合軍は…すでにこの紛争に参加していたのであること、そしてそれから後に日本が連合国に対してとった敵対手段は、どれも「侵略的」なものとはならないであろう。
…日本は、アメリカとの衝突は一切これを避けようと全力を尽くしたけれども、しだいに展開しきたった事態のために、万やむを得ずついにその運命の措置を取るに至ったということは証拠に照らして本官の確証するところである。
提出された証拠は、我々にこの日本による攻撃を指して、これは両国がまだ平和状態にあった時に行われた、突然の、予想されなかった背信的攻撃であると性格付ける権利を与えるものでない。
4_結論(全面的共同謀議・独裁)
下p.471
被告がどのようなことをしたにしても、それは純然たる愛国的動機から行ったのである。
東条一派は、検察側によってヒットラー一派と同一視されているが、…多くの悪事を行ったかもしれない。しかし日本の大衆に関する限り、東条一派はその大衆に対する行為によって、大衆を、思想の自由も言論の自由も与えない恐怖におびえた道具の地位に陥れることには成功しなかったのである。
…この期間における日本の輿論は、宣伝によって影響を受けたかもしれない。しかし…日本には独裁者はいなかった。特定の個人にせよ、個人からなる団体にせよ、いっさいの民主的抑制を超越して独裁者として出現したものは、かつてなかった。政府のなした決定には、一つとして独裁者または独裁的団体の決定であると呼び得るものはなかったのである。…かような決定に到達するに当たって、常に彼らがいかに彼らの理解する輿論と公衆の利益に敏感であったかは、証拠の明らかにする所である。
4_結論(全面的共同謀議・共同謀議罪)
下p.497
共同謀議は、根本的にメンタル・オフェンス(心的犯罪)である。
…共同謀議に関する法の原則の本質的要素は、したがって共同謀議によって抗争されている企図を予防することが望ましいということであり、また同時にそれが可能であるということである。
…有罪の決定と刑罰がたんに意思だけにもとづいてこれを行うことができるというところに、明らかに重大な危険がある。
…人間による法の主体となるのは行為である。思想や意思は、行為を伴わない限り法の支配を受けることはない。
5_裁判所の管轄権の範囲(戦争状態)
下p.513
戦争とは…国家の間における武力による抗争であり、互いに相手を圧倒することを目的とする。あらかじめ宣戦布告もしくは条件付最後通牒を発せずに敵対行為に出ることは禁ぜられている。しかし、戦争はそれにも拘らず、…予備手続を経ないで勃発することが有り得る。国家は、故意にあらかじめ宣戦の布告をしないで、開戦の命令を発するかもしれない。相互に恨みを持つ二国の軍隊が敵対行為に出る許可なしに、またそれぞれの政府がその後の敵対行為を停止せよという命令を出すこともなく、敵対行為に出る場合が有り得る。…宣戦を布告せずに敵対行為の開始命令を発し、もしくは敵対行為をやめるようにその軍隊に命令するのを怠った国家が、それによってはたして罪を犯すものであるか…その国は…罪を犯すものともいえるし、そうでないともいえる。しかしながら、いずれにしてもその国家は戦争をしているのである。もし相手国が一国の武力行使に対して武力をもって抵抗するならば、戦争は現に存在する。このように戦争とは一つの状態を言うのであり、この状態が日華間においては…継続し…まさに戦争の規模に達していた。
5_裁判所の管轄権の範囲
下p.516
中国もまた、日本が真珠湾攻撃によって米国と戦争状態に入るまでは、この敵対行為を「戦争」と名づけることを欲しなかった。…おそらく同国が公然と戦争状態に入ることを極力回避しようとしていたいわゆる中立諸国の援助を、必要としていたからであろう。
米国もまた同様に、これを戦争と名づけなかった…おそらく米国は、交戦国への武器や軍需品の積出しを自動的に禁止しているその中立法の禁止事項を逃れたいと思ったのであろう。いうまでもなく、米国は戦争状態を公然認めようとすれば認め得たのである。
…このように見れば、ポツダムにおける…中国及び米国のいずれも、終始一貫した態度をとったとしたならば、真珠湾攻撃の時より前に経過した一連の敵対行為に対しては「戦争」という名称を与えることは出来なかったはずである。
…したがって右の当事国が後になって「戦争」という語を用いた際には、それをもって右の諸国がそれまでそういう名称で呼びことを拒否してきたところの敵対行為を指したのではないと主張することは不合理ではないと思われる。
5_裁判所の管轄権の範囲(ポツダム宣言中の「戦争」)
下p.518
…連合国がカイロならびにポツダム宣言中に「戦争」という語を用いたのは、それによって1941年12月7日に開始された…戦争を指すものにすぎず、したがって、本裁判所の管轄権は右の戦争中の、またはこれに関連する行為に限られなければならない。
…一方において1937年7月7日に日華間に開始された敵対行為には、「戦争」という名称を与えないわけにはいかない…本官は寧ろこれらの宣言において用いられた「戦争」という語は、1937年7月7日の盧溝橋事件をもって開始された敵対行為をも含めたものであるとする見解を取りたいと思う。
6_厳密なる意味における戦争犯罪(戦争は不法か?)
下p.532
(オッペンハイム)
「…事前の宣戦布告もしくは条件付の最後通牒なしに敵対行為に訴えることが禁止されていることは疑いをいれない。しかしながら、戦争はこのような予備行為がなくても発生しうる…〔それを〕故意に命令する国家は、確かに国際法上の不法行為を犯すことになる。しかしながらかれらは戦争に従事しているのである。…これと同じような全ての場合に、戦争に関する全ての法規が適用されるべきである。んぜならば、戦争はたとえそれが不法に開始されたものであっても、なお戦争だからである」
6_厳密なる意味における戦争犯罪(真珠湾攻撃など)
下p.533
…外交交渉が行われていた間に戦争準備が進められていたことは疑いがなかろう。しかしこのような準備は双方によってなされていたのである。
…日本が攻撃しようとしていた事実の事前知識を、米国が持っていたことは、今や証拠によって十分に立証されているところである。…ゆえに結果として生じた戦争行為は、それが遂行されていた時には、交戦行為であるという性格を奪われたのではない。
6_厳密なる意味における戦争犯罪(原子爆弾)
下p.592
もし、非戦闘員の生命財産の無差別破壊というものが、いまだに戦争において違法であるならば、太平洋戦争においては、この原子爆弾使用の決定が、第一次世界大戦中におけるドイツ皇帝の指令及び第二次世界大戦中におけるナチス指導者たちの指令に近似した唯一のもので有ることを示すだけで、保な感の現在の目的のためには十分である。このようなものを現在の被告の所為には見出し得ないのである。
6_厳密なる意味における戦争犯罪(事後法)
下p.696
連合軍飛行士の処刑事件の起訴事実はつぎの二つに分類される。すなわち(1)裁判に基く処刑、(2)裁判を経ない処刑である。
裁判に基く処刑という項目においては、この裁判は「事後法」にもとづいておこなわれたものであり、かような「事後法」を作ること自体が、犯罪であったと主張されている。
本官は既に、戦争犯罪を犯したものとして俘虜を裁判し、処罰することに関して、交戦国がどのような範囲まで立法をなす権能を有するかという問題を考察し、そしてこの権利は戦勝国を含む如何なる交戦国にもないとしたのである。
もしも戦勝諸国が、また戦争犯罪人を裁判する目的で設けられた各種裁判所の…裁判官も同様に、俘虜の裁判のために「事後法」をつくることは、先勝諸国の自由であると主張し得るものとすれば、本官は連合国飛行士の裁判のために「事後法」を作った人々に、何らかの刑事責任を負わせることは不本意である。