1.白馬論
from 公孫竜子
1.白馬論
(1)現行の本文とその整理
1 「白馬非馬」,可乎?
2 曰:可。
3 曰:何哉?
4 曰:馬者,所以命形也;白者,所以命色也。命色者非命形也。故曰:「白馬非馬」。
5 曰:有白馬,不可謂無馬也。不可謂無馬者,非馬也?有白馬為有馬,白之,非馬何也?
6 曰:求馬,黃、黑馬皆可致;求白馬,黃、黑馬不可致。使白馬乃馬也,是所求一也。所求一者,白(馬)不異馬也;所求不異,如黃、黑馬有可有不可,何也?可與不可,其相非明。故黃、黑馬一也,而可以應有馬,而不可以應有白馬。是白馬之非馬,審矣!
7 曰:以馬之有色為非馬,天下非有無色之馬也。天下無馬可乎?
8 曰:馬固有色,故有白馬。使馬無色,有馬如已耳,安取白馬?故白者非馬也。白馬者,馬與白也;馬與白馬也,故曰:白馬非馬也。
9 曰:馬未與白為馬,白未與馬為白。合馬與白,復名白馬。是相與以不相與為名,未可。故曰:白馬非馬未可。
10 曰:以「有白馬為有馬」,謂有白馬為有黃馬,可乎?
11 曰:未可。
12 曰:以有馬為異有黃馬,是異黃馬於馬也;異黃馬於馬,是以黃馬為非馬。以黃馬為非馬,而以白馬為有馬,此飛者入池而棺槨異處,此天下之悖言亂辭也。
13 曰:有白馬,不可謂無馬者,離白之謂也。不離者有白馬不可謂有馬也。故所以為有馬者,獨以馬為有馬耳,非有白馬為有馬。故其為有馬也,不可以謂馬馬也。
14 曰:白者不定所白,忘之而可也。白馬者,言白定所白也。定所白者,非白也。馬者,無去取于色,故黃、黑皆所以應。白馬者,有去取于色,黃、黑馬皆所以色去,故唯白馬獨可以應耳。無去者非有去也;故曰:「白馬非馬」。
(2)本来の本文とその思想
1 「白馬非馬」,可乎?
問者:白馬は馬でないと言っていいか
2 曰:可。
答者:それでよい
3 曰:何哉?有白馬,不可謂無馬也。為白馬之,非馬何也?
問者:白馬があるならば、一般に馬がないということができない。それにもかかわらず、白馬を馬でないとするのは、一体どういうわけか?
4 曰:以有白馬為有馬,謂有馬為有黄馬,可乎?
答者:君の言うように、白馬があるからと言って馬があるとするならば、それでは、馬があるからと言って、それは、黄馬があるとなして、よいか
5 曰:未可。
問者:それはよくない。
6 曰:以有馬為異有黃馬,是異黃馬於馬也;以黃馬為非馬,而以白馬為馬,此飛者入池,而棺槨異處;馬者,無取於色。白馬者,有取於色;故曰:「白馬非馬」。
答者:今、君は馬があるのは黄馬があるのとは違うとするが、それは、黄馬を馬と違うとするものである。黄馬を馬でないとしながら、他方白馬を馬であるとするのは、まさに空を飛ぶ鳥が池で泳ぎ、内棺を外に、外棺を内に置くように、全く矛盾している。一体、馬というものは色に固執しないものであり、白馬というものは色に固執しているものである。それゆえ、色に固執している点において、白馬は馬でない、というのである。
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7 曰:以馬之有色為非馬,天下非有無色之馬也。天下無馬,可乎?
問者:君は馬に色がないと言うが、実際の馬には色があるのに、それは馬でないとしたら、天下に色のない馬はないから、天下に馬はないということになるが、それでよいか
8 曰:馬固有色,故有白馬。有白馬,不可謂無馬者,離白之謂也。故曰:「白馬非馬」。
答者:馬は元来色があるものである。だから白馬もあるわけである。白馬があって、馬がないと言うことができないのは、仮にその馬の白を無視して言うのである。白馬は馬であるが、なお無視できない白を持っている。馬とこの無視できない白とによって、それは馬と違うのである。それゆえ、白馬は馬でないと言うのである。
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9 曰:馬未與白為馬,白未與馬為白。合馬與白,名白馬。是相與以不相與為名,未可。
問者:馬は本来白と関係して馬となるものでもなく、白もまた本来馬と関係して白となるものでもない。馬も白もそれぞれ独自的に存在するものである。それにもかかわらず、馬と白とを合わせて、白馬と名づけるのは、それは本来相互に関係のないものを関係させて名づけるのであるから、それはいけない。
10 曰:白者不定所白,忘之而可也。白馬者,言白定所白也。定所白者,非白也。不離者,有白馬,不可謂有馬也。
答者:一体、白というものは、白くするところが定まっているものではない。しかし、それは重要なことではないから忘れてよい。現実に白馬が存在しているということを重要視しなければいけない。ここに白馬があると言う以上は、既に白といって、白くするところが既に定まっているのである。この既に定着した白というものは、まだ白くするところの定まらない白とは違うものである。現実において知るように、定着した白は既に離れられないものとしてあるから、白馬がある時、それは馬があると言うことができないのである。
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11 曰:求馬,黃、黑馬皆可致;求白馬,黃、黑馬不可致。如黃、黑馬有可有不可,何也?所求異。是白馬之非馬,審矣!
曰く、馬を求むれば、黄・黒皆致す可し。白馬を求むれば、黄・黒馬は致す可からず。黄・黒馬も如き可有り不可有るは、何ぞや。求むる所異なればなり。是れ白馬の馬に非ざること審かなり。