聞きたい音だけ作る
https://bijutsutecho.com/magazine/series/s67/26593
『async』でしたかったことは、まずは自分の聴きたい音だけを集めるということでした。あまり家から出ないので、雨の音が鳴っていると嬉しくて、毎回録音してしまいます。今回の制作はそういうところから始まって、ただ「もの」が発しているだけの音を拾いたいと思った。コンタクトマイクでいろいろな音を聴いて、楽器以前の「もの」自体をこすったり叩いたり、という感じでした。そういう意味では、鉄板を買ってきて、自分で切り刻んで音を出してみようとか考えたのですが、実際には怠け者なので、重たいからやらなかったんです(笑)。そこで銅鑼やシンバルを買ってきてこすったりしていました。
そうやって音を収集し、S(サウンド)やN(ノイズ)──かつて両者は対立項だったけど、いまは一緒になっちゃったと言ってもよいと思いますが──を聴いていると、Mが、ミュージックが足りないということに気がついたのです。自分が聴きたい音には、やはりMが必要だという欲求が出てきたんですね。なんらかのMが入ってないとダメだということを自覚して、Mの要素を盛り込むことを始めました
響きも「もの」の音だと思って、《Merry Christmas, Mr.Lawrence》(1983)みたいな曲でも、ゆっくりとモヤーンと反響させて弾いたら心地良くて、それでゆっくりと弾き始めました。ロンドンのコンサートで作曲家の藤倉大くんが聴きにきて、「なんであんなに遅く弾くんですか?」って怒られちゃいました(笑)。「いまはそういう気分なんだよ」って言ったのですが、ピアノを弾くということでもそうなるわけで、響きを聴こうと思ったら、演奏は遅くならざるを得ないんですよね。チェリビダッケの指揮は、次の小節にいかないような、止まっちゃってるようなね、音楽が落っこっちゃいそうな、進んでいかない感じですが、僕は大好きですよ。響きを聴こうと思ったらどうしてもそうなっちゃう。
#最高のスクラッパーを目指して