体験格差
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『体験格差』今井悠介・著 講談社
◆目次◆
はじめに
第一部 体験格差の実態
第二部 それぞれの体験格差
第三部 体験格差に抗う
おわりに
参考文献
本日ご紹介する一冊は、子どもの社会情動的スキルに影響を与えるとされる、「体験」の格差に着目した注目の論考。著者は、日本初の「体験格差」の全国調査を実施した、公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの代表理事、今井悠介さんです。 貧しくなった現在の日本では、体験は贅沢品とみなされていますが、じつは体験こそが、貧しさを克服する必需品。本書では、その体験が、いかに低所得家庭で減ってしまっているのか、それがいかに連鎖するものなのか、衝撃のデータを提示しています。有効回答数2097件のウェブ調査によるものですが、「放課後の体験」も「休日の体験」もゼロの「体験ゼロ」の子どもたちは、全体のおよそ15%。そして親が「体験ゼロ」の場合は、子どもも「体験ゼロ」になる割合が5割を超える(50.4%)のに対し、親が何らかの体験をしていた場合は子どもの「体験ゼロ」が1割強(13.4%)にとどまることがわかったというのです。
本書によると、世帯年収300万円未満の家庭では、子どもの「体験ゼロ」の割合はほぼ3割(29.9%)。
その体験の中でも、「水泳」や「科学・プログラミング」「音楽」など、費用がかさむものの格差が大きい。恐ろしいのは、自然豊かな地方の方が自然体験の機会が多いかと思いきやそうではなく、結局は親のお金と時間の余裕に左右されるというのです。
体験によって育まれる社会情動的スキルは、忍耐力や自尊心、社交性などを含んでおり、本書のレポートを見ていると、昨今の子どもの問題のほとんどは、体験の少なさによるものなのではないかとさえ思えてきます。
引用
何かを一度もやったことがなければ、それが好きか嫌いかもわからない。何かを一度も食べたことがなければ、それが好きか嫌いかもわからない。どこかに一度も行ったことがなければ、その場所が好きか嫌いかもわからない
「放課後の体験」も「休日の体験」もゼロ。あるいは有料であろうが無料であろうがゼロ。こうした「体験ゼロ」の子どもたちは、調査の結果、全体のおよそ15%を占めることがわかった
概ね毎月の費用がかかる「放課後」の体験(クラブや習い事など)のほうが、1回ごとに費用がかかる「休日」の体験(キャンプなど)よりも、年間での支出額がかなり大きくなっている
「民間事業者」の次に費用が高くなっているのが、家族や友人との様々な場所へのお出かけや旅行などが含まれる「プライベート」だ。家庭ごとの経済力の差が出やすい領域だと言えるだろう
体験させてあげられなかった理由(世帯年収300万円未満の家庭)
・保護者の経済的理由 56.3%
・保護者の時間的理由 51.5%(送迎・付き添いなど)
・近くにない 26.6%
・保護者の精神的・体力的理由 20.7%
「科学・プログラミング」は参加率の水準自体は高くないが、世帯年収での格差が強く出ている。世帯年収600万円以上の家庭で4.2%、300万円未満の家庭で1.2%と、3.5倍も違う
回答者の居住地を「都市部」(=三大都市圏)と「地方」に分けたところ、自然体験への参加率に関する大きな違いは見られなかった。やや直感に反するように思われるかもしれないが、「地方」の子どものほうが「都市部」の子どもよりも自然体験の機会を多く得ているわけではないようだ
指摘したいのが、「体験」の有無による、子どもたちが社会情動的スキルを伸ばす機会への影響だ。認知能力(スキル)との対比で非認知能力(スキル)とも呼ばれる社会情動的スキルは、例えば忍耐力、自尊心、社交性などを含み、池迫浩子氏と宮本晃司氏によるOECDのワーキングペーパーでは次のように定義されている。
(a)一貫した思考・感情・行動のパターンに発現し、(b)学校教育またはインフォーマルな学習によって発達させることができ、(c)個人の一生を通じて社会・経済的成果に重要な影響を与えるような個人の能力
社会情動的スキルへの影響に加えて、様々な「体験」の有無を含めた子どもたちを取り巻く環境は、かれら自身の将来に対する意欲や価値観のあり方をもいつの間にか規定していく可能性がある