三菱自動車工業・日産自動車
平成30年12月21日 裁決(日産に対する課徴金納付命令)
平成30年10月31日 行政不服審査会答申(日産に対する課徴金納付命令)
平成29年7月21日 撤回・再命令(三菱に対する6月の課徴金納付命令)
平成29年6月27日 消費者委員会本会議での説明
平成29年6月14日 課徴金納付命令(返金措置分)
平成29年1月27日 措置命令・課徴金納付命令・返金措置計画認定公表
以下について概観し検討する拙稿を執筆済み。
平成30年12月21日 裁決
ニュースリリース(平成30年12月26日公表)
裁決書(3分割(たぶん重いため))
https://gyazo.com/f5b7b65efc28d424ac4121f67f97457b
平成30年10月31日 日産自動車に対する課徴金納付命令に係る行政不服審査会答申
結論
日産自動車に対する課徴金納付命令は取り消されるべき
委員
市村陽典、小幡純子、中山ひとみ
理由の骨格
優良誤認表示に該当しない(傍論)
公表版答申12〜17頁
「知らないことにつき相当の注意を怠った」とはいえない
公表版答申17〜31頁
優良誤認表示に該当しない(傍論)
公表版答申16〜17頁
「
カ 以上によれば、本件表示は、上記イのとおり省エネ法80条1号イ等による義務【定義13頁】の履行として行われたものであり、また、その表示の内容は自動車公正競争規約にも沿っているものと認められる。当初審査値の測定に瑕疵があり、後日改めて当初測定値よりも低い値が諸元表に燃費値として記載されることになったとしても、本件表示の時点において適法な行為であったものを、遡って本件表示自体が法令に違反したものであったとか、自動車公正競争規約にのっとっていなかったものと評価することは相当でない。
ところで、景品表示法5条1号は、「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、」とした上、「不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」と規定している。
この点について、上記の前者の要件を満たすときには、通常は、後者の要件が満たされることが多いということができるけれども、前者の要件が満たされれば当然に後者の要件を満たすという解釈は、後者の文言が設けられた趣旨をないがしろにするものであること、実際上、法令に義務付けられたとおりの内容を表示した場合であっても、客観的には実際の商品等よりも著しく優良であると示した結果となることは起こり得ることであり、その場合、法を遵守した者の行為を不当と評価することは相当でなく、特に現在の景品表示法においては、事業者が5条の規定に違反する行為(同条3号に該当する表示に係るものを除く。)を行った場合には、8条1項の規定により、同項各号のいずれかに該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないと認められるとき、又はその額が150万円未満であるときを除き、課徴金の納付を課されるという責任が発生するとされていることからしても、妥当なものとは解されない。
したがって、省エネ法80条1号イ等による義務の履行として行われた本件表示をもって審査請求人が景品表示法5条1号にいう不当に顧客を誘引したものと認めることは困難である。
もっとも、本件においては、この点については審査請求人も特に争っていないので、上記の点はひとまず措いて、本件表示が同号に違反する行為であるとした場合に、本件においては同法8条の主観的要件を具備しているか否かの検討を行うこととする。
」
shiraishi.icon以上の点は傍論ではあるが、課徴金制度の存在を指摘し「不当に顧客を誘引し」の要件を厳しくみる考え方は、示唆に富む。
「知らないことにつき相当の注意を怠った」とはいえない
特段の事由がある場合に限る、という判断
公表版答申17〜18頁
「
ア 課徴金納付命令は「当該事業者が当該課徴金対象行為をした期間を通じて当該課徴金対象行為に係る表示が次の各号のいずれかに該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められるとき、又はその額が150万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。」(景品表示法8条1項ただし書)とされていることから、課徴金納付命令を発するためには、「本件表示が実際のものよりも著しく優良であることを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないと認められる」場合には当たらないとの要件を満たすことが必要であり、この点の立証責任は処分庁側にある。
そして、上記の事業者が「相当の注意を怠った者でないと認められる」か否かは、表示の対象となる商品又は役務の内容、表示の方法・内容、事業者の業態(メーカー、卸売業者、小売業者等)、商慣行、当該事業者が供給する商品又は役務の最終需要者の属性などから、個別具体的に判断されるべきであり、一般的には、取引先から提供される書類等で当該表示の根拠を確認するなど、表示をする際に必要とされる通常の商慣行にのっとった注意を行っていれば足りるものと解されている。
カタログに表示する値は、その時点で有効な諸元表の値を記載すべきことが法令上も自動車公正競争規約上も義務付けられており、現に本件表示はこれに従っているのであるから、特段の事由がない限り、これに従っていれば相当の注意を尽くしたものと評価すべきである。また、省エネ法80条1号イ等の法令や自動車公正競争規約において、燃料消費率の表示に使用できるデータとして「国土交通省審査値」を用いることとしている趣旨は、これが公的な機関によって認められた値であって、製造者又は販売者が自ら測定したものなどよりも、客観性・公平性の面で優れており、信頼し得るものであるという認識が前提となっているものというべきであるから、上記のように解することは、実質的にみても妥当である(ちなみに、処分庁においても、平成28年4月にP社から排ガス・燃費試験に係る不正行為の国土交通省への報告を受けて機構において実施され、公表された別表3のとおりの確認試験の測定結果を前提として、本件課徴金納付命令を行っているものである。)。
」
特段の事由の有無に関する判断の冒頭
公表版答申18〜19頁
「
イ そこで、上記のような前提に立って、本件において、当時の諸元表に記載された当初審査値を用いて本件表示を行うことは、商品の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対して実際のものよりも著しく優良であると示すことになる、ということを知らないことが、審査請求人が相当の注意を怠ったためであると認められるような特段の事由があるかを検討することとする。
この点について、処分庁は、審査請求人のE部総括グループ主管のQが平成27年12月22日以降、①P社が現行車の認証時に採用した走行抵抗が中央値よりも20%程度も乖離した異常な下方値を用いていたこと、②認証時に採用した走行抵抗を説明する資料として、指定速度以外にも多くのプロットが打たれた極めて不自然なプロット図(本件プロット図)を提示されていたこと、③審査請求人のポリシーに反する下方値選択の手法を用いていたこと等の事実を認識した時点において、認証時の走行抵抗について重大な疑義を持ってしかるべき状態が生じていたにもかかわらず、これに気付かずに、走行抵抗の基礎データの確認という必要な義務を履行しなかったことから、審査請求人は本件表示をした期間を通じて本件表示が景品表示法8条1項1号に該当することを知らないことにつき相当の注意を怠った者でないと認められないと判断して、本件課徴金納付命令を行ったものである。
」
「審査請求人においては、次期型車の燃費動力性能の検討及び目標性能の実現を担う現場責任者に、E部に所属する主管の地位にあったQが就き、」(公表版答申23頁)
「
(ウ)しかし、審査請求人が優良誤認表示であることを知らなかったことについて相当の注意を怠ったかを判断するに当たり、次期型車の燃費動力性能の検討等を担う現場責任者であるQをその具体的な主体と捉えて判断することが相当か否かの点はひとまず措いても、上記(イ)の①ないし③等の事実を認識した時点において、Qが認証時の走行抵抗について重大な疑義を持ってしかるべき状態が生じていたとは認め難い。
その理由は、以下のとおりである。
」
(ウ)(公表版答申26〜29頁)
理解できなかった旨
(エ)(公表版答申29〜31頁)
仮に確認を求めても知り得たと認めるのは困難である旨
平成29年7月21日 三菱自動車工業に対する課徴金納付命令(平成29年6月14日)を撤回・再命令
ニュースリリース+課徴金納付命令書
ニュースリリース3頁
「(注)三菱自動車工業に対しては、平成29年6月14日に453万円の支払いを命じる課徴金納付命令(納期限:平成30年1月15日)を行ったが、その後、同社からの指摘を踏まえ、同社が実施した返金措置の一部について、認定実施予定返金措置計画への適合性を改めて評価した結果、適合して実施されたと認めることとした。このため、平成29年7月21日、原処分を撤回するとともに、上記368万円の支払いを命じる新たな課徴金納付命令を行ったもの。」
違いの詳細
各課徴金納付命令書3頁
https://gyazo.com/d19f66dc162388f8f3294ce606b65d55
https://gyazo.com/a349e5904aa76ffd028a73642da79f8d
各課徴金納付命令書6頁の「別表2」
https://gyazo.com/d5f70ba1f8ffad992f99352a01a7ba54
https://gyazo.com/5adbf3dcfd41778b7f14fe75951e6bechttps://gyazo.com/5f286f18bd59fe0cce00d0900d462259
「当該返金措置は、それぞれ、認定実施予定返金措置計画に適合して実施されたと認められる。」(各課徴金納付命令書3頁)とされても、その一部について適合して実施されたと認められていない場合があることがわかる。
平成29年6月27日 消費者委員会本会議での説明
平成29年6月14日 課徴金納付命令(返金措置分)
ニュースリリース+課徴金納付命令書
三菱自動車工業に対する命令について撤回・再命令後のファイル
三菱自・軽自動車
(普通自動車等は1月27日に課徴金納付命令)
1件の課徴金納付命令書で8件の課徴金納付命令をまとめて行う形。
軽自動車8商品(「本件8商品」)
返金措置計画の認定のあった8商品と一致
主観的要件を満たす旨の認定
改ざん等
管理監督を十分に行っていない
自主申告による減額をした
普通自動車等(下記)では認められなかったのとは対照的
こちらでは減額を認めたので、結論しか書いていない
返金額を減額した
日産
1件の課徴金納付命令書で6件の課徴金納付命令をまとめて行う形。
軽自動車6商品(「本件6商品」)
返金措置計画の認定があったのは20商品
14商品は、返金措置によって1万円未満となったか(11条3項前段)、他の理由(主観的要素?)で課徴金納付命令対象でなくなった、と考えられる。
14商品について、消費者庁のニュースリリース等には説明がないように見える。
主観的要件を満たす旨の認定
「本件6商品の各商品の燃費性能の根拠となる情報を十分に確認することなく前記1の課徴金対象行為をしていた」
https://gyazo.com/43a185067fb057b6ce9616740a7a388d
shiraishi.icon気付いたあと速やかにやめなかったために主観的要件を満たすとしたわけではない。
自主申告による減額をした
減額を認めたので、結論しか書いていない
返金額を減額した
shiraishi.icon一般的論点
返金措置による減額で課徴金額が1万円未満となった場合(11条3項前段)、名宛人は争い得るか。
11条3項後段の通知は受けるが。
本件では、6商品について課徴金納付命令があったので、そこでは問題にならないが、他の14商品については、かりに1万円未満となったために課徴金納付命令がなかったのであれば、一応、問題になり得る。
課徴金納付命令の要件を満たさないために課徴金納付命令がされなかった場合には、また別論となる。
報道
時事
「日産自動車の話 三菱自動車の不正が原因であり、消費者庁の判断は誠に遺憾。必要な措置を検討する。」
日経
「日産は「不正をもっと早く知り得たのではないかという消費者庁の見解は不当。必要な対抗措置を講じる」とした。」
「当初予定されていた課徴金額は三菱自が1132万円、日産が3618万円だったが、それぞれ453万円、317万円に減額された。」
shiraishi.icon日産に関する日経の報道にいう「当初予定されていた課徴金額」は、6商品の課徴金額(317万円)に6商品の返金額(3301万円)を加えたもの。他の14商品についても課徴金納付命令書案があったはずであるが、ここでは触れられていないものと思われる。
NHK
「日産自動車はNHKの取材に対して「今回の件は三菱自動車の燃費不正が原因であり、課徴金の納付命令は納得できない。必要な対抗措置を検討していきたい」と話しています。」
平成29年1月27日 措置命令・課徴金納付命令・返金措置計画認定公表
消費者庁PDF
以下のものが入っている
ニュースリリース
三菱自・軽自動車・措置命令書
三菱自・普通自動車等・措置命令書
三菱自・普通自動車等・課徴金納付命令書
日産・軽自動車・措置命令書
認定返金措置計画
三菱自・軽自動車
平成28年8月25日~平成29年4月7日
日産・軽自動車
平成28年12月26日~平成29年4月25日
平成29年4月24日現在の消費者庁ウェブページ
https://gyazo.com/721c7b20148e7a5a73af77b2ffc7b81d
三菱自動車工業・燃費不正問題に関する調査報告書
簡単な概要
三菱自・軽自動車
38商品に措置命令がされた(措置命令書は1件)。
8商品に認定返金措置計画があるので課徴金納付命令の事前手続に入っている。
他の30商品は、例えば次の可能性がある
課徴金納付命令の要件を満たさなかった(裾切り額等)
返金措置計画を提出しなかった
返金措置計画が認定されなかった
(平成29年6月14日記) 課徴金納付命令書によれば、課徴金対象となった8商品は認定返金措置計画のあった8商品と一致しているので、返金措置計画の提出がなかったり返金措置計画が認定されなかった商品はなかったと考えられる。
三菱自・普通自動車等
29商品に措置命令がされた(措置命令書は1件)。
26商品に課徴金納付命令がされた(課徴金納付命令書は1件)。
これらに認定返金措置計画がないのは、次の可能性がある
返金措置計画を提出しなかった
返金措置計画が認定されなかった
他の3商品の可能性は、三菱自・軽自動車の30商品と同様。
日産・軽自動車
27商品に措置命令がされた(措置命令書は1本)。
20商品に認定返金措置計画があるので課徴金納付命令の事前手続に入っている。
他の7商品の可能性は、三菱自・軽自動車の30商品と同様。
(平成29年6月14日記) 課徴金納付命令書によれば、課徴金対象となった6商品は認定返金措置計画のあった20商品に全て含まれるので、返金措置計画の提出がなかったり返金措置計画が認定されなかった商品はなかったと考えられる。
「各」「それぞれ」
例:三菱自・普通自動車等・措置命令書「法令の適用」
「三菱自動車工業は、自己の供給する本件29商品の各商品の取引に関し、それぞれ、本件29商品の各商品の内容について、…表示をしていたものであり、これらの表示は、それぞれ、景品表示法第5条第1号に該当するものであって、かかる行為は、それぞれ、同条の規定に違反するものである。」
29個の違反行為が認定されているということになる。
例:三菱自・普通自動車等・課徴金納付命令書「課徴金対象行為」
「三菱自動車工業は、自己の供給する本件26商品の各商品の取引に関し、それぞれ、本件26商品の各商品の内容について、…表示をしていたものであり、これらの表示は、それぞれ、景品表示法第5条第1号に該当するものであって、かかる行為は、それぞれ、同条の規定に違反するものである。」
26個の課徴金対象行為が認定されているということになる。
これによる帰結
課徴金対象期間が別々に認定されることになる
裾切り額を別々に見ていくことになる
など
日産の立場
三菱自が製造した軽自動車を販売する立場
三菱自に燃費について問い合わせをしたようである(調査報告書2頁)
教科書的説明では、措置命令は免れない
課徴金納付命令との関係では、主観的要素を満たさないとして要件不充足となる可能性があるが、本件では消費者庁は満たすとしたものと考えられる。
日産・軽自動車について認定返金措置計画があるので、消費者庁は課徴金納付命令のための事前通知をしている。15条1項各号の内容による課徴金納付命令書案を通知しているはず。
→上記課徴金納付命令
三菱自・普通自動車等になぜ認定返金措置計画がないか
三菱自・日産の返金措置計画は、個人事業者が専ら業務用に用いる場合なども想定。
これらが課徴金対象売上額に入っているのか、認定返金措置計画に入っているのか、は不明。
それらに入っているか否かと、現に会社が返金するか否かとは、別問題
景表法は一般消費者に対する取引を対象としているので、個人事業者が専ら業務用に用いる商品の取引は適用対象外となると考えるのが素直。
三菱自・普通自動車等の課徴金納付命令書
課徴金対象期間
課徴金納付命令書2頁
課徴金対象行為をした期間は8月30日まで(課徴金納付命令書5−6頁)
「CHAMONIX」は8月5日まで(課徴金納付命令書6頁)
課徴金対象行為をやめた日後は取引をしていない
「CHAMONIX」は8月12日まで取引
誤認解消措置をとった日は9月11日
「CHAMONIX」以外は課徴金対象行為をやめた日後に取引をしていないので、論理的には、この認定は不要であるが、「CHAMONIX」との関係では8月12日以後であることの認定が必要。
自主申告が採用されなかった旨
課徴金納付命令書2−3頁
主観的要素
課徴金納付命令書2頁
手続の流れ
本件では、次の3つが同日
措置命令
認定返金措置計画のない商品に係る課徴金納付命令
認定返金措置計画の公表(認定がいつであるかは不明)
かねてからの消費者庁関係者の解説とは異なっている。この第1号が例外か。