確約認定と処分
2024-11-03
確約認定を「処分」と呼ぶことについては、次のような様々な変遷・文脈がある。
独占禁止法の確約制度は、平成28年改正で導入され、平成30年12月30日から施行されている。
これを受けて、次のものにも同様の制度が導入されている。
景品表示法(令和5年改正:令和6年10月1日から施行)
スマホ法(令和6年制定)
日本の独占禁止法における制度導入より前から、EUにおいては欧州委員会の確約認定に対する第三者による取消請求事件などもあったので、私(白石)は、処分に該当するのは当然であるという観点から、体系書などに書いていた(『独占禁止法 第3版』(平成28年)617頁)。
下記拙稿の複数の引用文献の題名に現れる「Alrosa」事件。この拙稿は、日本の状況を外国に紹介するものであったので、自分からAlrosa事件を引用して紹介することは、していない。
なお、現在に至るまで、日本の公正取引委員会の確約認定に対して第三者が取消請求をしたという情報には、接していない。
公正取引委員会においては、違反被疑事業者に協力してもらう必要があるために一定の配慮をする、という面がある。
そのうち、当初から現在に至るまで一貫しているものとして、公表文に「なお、本認定は、……独占禁止法の規定に違反することを認定したものではない。」と書く、という点がある。
定かではないが、そのような観点から、少なくとも制度導入当初は、処分であるとは言わない、という雰囲気が、あったかもしれない。(時間の関係で、あまり調べていない。)
個人ベースでは、処分ではない、と述べる公正取引委員会職員もいた。かなり最近の時期にも、特定の管理職が、他の官庁の会議で、「処分ではありません。」と述べるのに接したことがある。
少なくとも、平成28年段階で、白石と同様に明瞭に「処分」と言っていた者は、あまりいなかったと記憶する。(控えめな表現)
全件を確認するには、例えば、独禁法メモで「確約」という文字列を検索するなど。 公正取引委員会が、命令はしない中で、強い対応をしていることを示そうとしてそのように強調している、という見方は、あり得る。少なくとも、そうでなければなぜ令和3年から「処分」と言うようになったのか(上記)、ということは、問われるであろう。(行政法的には、処分に該当すれば、抗告訴訟の対象となるので、公正取引委員会にとって不利ではないかと考えられる。それでもなお、「処分」と言っているのであるから、という見方。)
他方で、「処分」ということは、公正取引委員会の公表文に書いてあることを受けて、マスメディアがそのように伝えるようにしているだけだ(場合によっては公正取引委員会に忖度して)、という見方も、不可能ではない。すなわち、公正取引委員会は令和3年から事実(「処分」に該当するという事実)を公表文に書いてあるだけであり、あとはマスメディアが強調しているだけ、という見方である。
このような複数の見方は、どちらが正しいというものでもなく、常に、両方が相まって、現実が構成されている、と見るのが、よいのではないかと考えられる。
なお、当局にとって有利(?)な見解を、白石のみが唱え、当初は当局は(何らかの理由で)無視または否定していたが、のちにいつの間にか白石と同様のことを言うようになる、ということは、間々ある。他の例として、景品表示法の不実証広告手続による措置命令を取消訴訟で争われた場合の取扱いがある(白石忠志「景品表示法の構造と要点 第10回」NBL1061号(平成27年)64〜65頁……遅くとも平成21年にはそのように書いていたことの紹介)。