令和6年司法試験第1問の解答例(課徴金のみ)
あくまで、解答の「例」です。
もちろん、間違いがあり得ます。気が付いたら、修正していきます。
推敲すべき点に気付いた場合も、推敲していきます。
この段落のようにグレー網掛けになっている段落は、(厳密な法適用においては確認が必要だが)通常は書かなくてもよいだろうと考えられる段落です。
これに倣い、「注」もグレー網掛けとしています。
問題文・出題趣旨などは、例えば、↓で入手してください。
↓ 最後の、「設問」のみ ↓
https://gyazo.com/79ce40a2da737e8de4c0407b1cd27207
課徴金について、きちんと書くのは、これだけ大変です。(以下略)……ということを伝えるために、ここに書きました。
時間制限なく、必要な資料を参照しながら書いたものです。そうでない状況で書く場合は、下記のうち、その骨子を書けたならば、十分であると考えられます。
Cosense(旧名Scrapbox)は、行頭の1字下げをできない仕様なので、行頭の1字下げをしていませんが、段落の冒頭で、見出し番号がない場合は、行頭の1字下げをしたほうがよいと思います。
━━以下が解答例━━
第○ 課徴金
1 7条の2
(1)7条の2第1項柱書き
Y社は、事業者であり、対価に係る不当な取引制限をしたので、「事業者が……したときは」を満たす。
(2)7条の2第1項1号
ア 本件で、「当該違反行為……に係る一定の取引分野」とは、55団体に指名競争入札の方法で供給する甲製品である。
イ 「当該商品又は役務」は、本件取決めのもとでY社が関与した個別調整に基づいて具体的競争制限効果が発生した商品役務を指す。少なくとも、Y社に売上額があったとされる本件の「180件」は、「当該商品又は役務」に該当する。
ウ 本件では、Y社の特定非違反供給子会社等が本件に関係した旨の記載はない。
エ 「実行期間」(2条の2第13項)については、次のとおりである。
「実行としての事業活動を行つた日」について。本件では、令和3年4月頃に本件取決めがされて違反が成立しているが、「それ以降」、本件取決めに基づいて甲製品が供給されているので、「行つた日」も、違反の成立と同時である。
立入検査の日は、令和6年6月28日であり、令和3年4月頃はその「10年前の日前」ではないから、「行つた日」が、実行期間の始期となる。
「実行としての事業活動がなくなる日」について。令和6年6月28日に立入検査が行われ、Y社は行為を取りやめている。したがって、Y社にとっての「なくなる日」は令和6年6月28日である。
注)公取委実務では、「なくなる日」(いわゆる実行期間の終期)は、違反行為の取りやめの日の前日とされています(必要なら、審決等データベースで任意の課徴金納付命令書を確認してください。)。そうであるとすると、「なくなる日」は令和6年6月27日となるはずです。しかし、そうすると、その日までの売上額が不明となって、解答不能となるので、「なくなる日」は令和6年6月28日であることにしておきます。
以上により、実行期間は、令和3年4月頃から令和6年6月28日までである。
オ 以上により、令和3年4月頃から令和6年6月28日までの180件に係る売上額10億円が、7条の2第1項1号の額となる。
注)厳密には、入札談合事件では通常は(独禁法施行令4条1項の引渡基準ではなく)独禁法施行令4条2項の契約基準がとられることを述べた上でなければ、上記のようなことは言えないのですが、そこまで求める問題ではないでしょう。
(3) 本件には、7条の2第1項2号〜4号の額は、存在しない。
(4) 本件では、Y社は、卸売業を営んでおり、かつ、7条の2第2項2号に該当する者ではない、とされている。したがって、7条の2第2項の要件を満たさない。
(5) 以上により、7条の2第1項柱書きの「合算額」は、10億円の10%である1億円である。
2 7条の3
(1) 本件では、Y社が過去に7条の3第1項にいう「納付命令等」を受けた旨の記載はないので、同項については考えない。したがって、同条3項についても考えない。
(2) 7条の3第2項については、次のとおりである。
ア Y社は、同項2号に該当すると考えられる。理由は、次のとおりである。
本件取決めの(4)によれば、Y社は、「他の事業者に対し、[本件の違反行為]に係る商品又は役務に係る」、「対価」を「指定した者」であると言える。
注)「取引の相手方」でも書けますが、複雑になるので、「対価」のほうで書きました。
Y社が上記のような行為をしたことは、X1社〜X9社とY社による本件取決めによるものであり、「他の事業者の求めに応じて」に該当する。
そのような行為は、令和3年4月頃から令和6年6月28日まで行われたので、「継続的に」に該当する。
イ 念のため、同項3号ロに鑑みて述べるなら、本件取決めは、その(5)などを見ると、Y社の行為がなければ機能しない内容であるから、仮に本件で、「他の事業者の求めに応じて」を満たさないために同項2号を満たさないとしても、Y社は同項3号柱書きの「当該違反行為を容易にすべき重要なものをした者」に該当するので、結論は同じとなる(同項3号ロ)。
ウ 以上により、本件でY社は7条の3第2項の要件を満たすので、Y社の課徴金額は、7条の2第1項柱書きの「合算額」の1.5倍である1億5000万円となる。これは、7条の2第1項ただし書の裾切り額である100万円を下回らない。
3 結論
Y社には課徴金が課され、課徴金額は1億5000万円である。
━━解答例は以上━━
参考
「出題趣旨」では、7条の3第2項2号でなく、同項3号ロに言及していますが、2号を使って書き、念のために3号ロにも言及する、という形としました。
2号で行けるのではないかと考えられる。
活性炭本町化学工業事件でも、2号を使っている。
(もちろん、私が何かに気付いていない可能性は、あると思います。)