脳の性分化、性差の研究について
https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2018/007704/002/0310-0318.pdf
著 : 有阪治
脳の性分化の現われである心の性としてのジェンダー
性分化疾患 (DSD) への対応を考えるうえで重要
ジェンダー学においては、ジェンダーはセックス (生物学的性差) に対して社会的・文化的性差の意味で使われる
ジェンダーアイデンティティの起源やその形成をめぐって、生物学・医学とジェンダー学の立場で違いがある
生物学・医学の分野では,誕生前に遺伝子やホルモンの影響から脳の性分化が進んで、出生時には男か女になるという指向性をすでに有していると考えられている
ジョン・マネーが 1960 年代に提唱した理論 : ジェンダーアイデンティティは出生時には確立されておらず、社会的性が選択されて養育されることで形成される
ブレンダ症例によりこの理論は揺るがされた → 出生時には男女どちらかに分化している可能性が高いと考えられるように
脳は、男性ホルモンであるアンドロゲンの作用を受けると考えられている
出生前の雌モルモットにアンドロゲンを作用させることで、行動が雄性化するという 60 年前の報告
ヒト以外の哺乳動物では、出産を挟んだ周生期の一定の臨界期に、精巣から分泌されるアンドロゲンであるテストステロンが脳に作用することで、生殖機能や行動を支配する性中枢が雄性化することが明らかに
脳の基本型は雌
ヒトも胎児精巣から分泌されるテストステロンにより脳が男性化すると考えられている
生物学的性とジェンダーアイデンティティ (性自認) の不一致による性同一性障害 (Gender Identity Disorder : GID) あるいは自己の性別に違和感を感じる性別違和 (Gender Dysphoria : GD) は、胎生期の脳の性分化の過程で生じた何らかの過誤が原因であると考えられる
2013 年に米国精神医学会は、GID (性同一性障害) を疾患や障害としての語義を薄めるために GD (性別違和) に変更した
アンドロゲンによる脳の性分化
脳にはステロイド受容体が多数存在
アンドロゲンなどの性ステロイドの脳への作用機序は 2 種類
神経組織に対する不可逆な形成
神経系に対する可逆的な活性化
アンドロゲンは脳の発生過程における神経回路の形成を制御、修飾している
結果、動物では視床下部にある性中枢の分界条床核の大きさに雌雄差が認められる (性的 2 型核とも言われる)
ヒトにおいて、男性から女性に転換した性同一性障害例において、この神経核が一般男性や同性愛男性よりも女性に近い体積だったという報告がある
脳がアンドロゲンによって男性化することは、アンドロゲン受容体を欠損している完全型アンドロゲン不応症例からも裏付けられる
性自認が完全に女性
性的指向が男性に向いている異性愛
先天性副腎皮質過形成症 (CAH) の女児の例
胎児期に性ホルモン環境が変わり、脳がアンドロゲンに暴露される
性同一性の形成には脳の性分化が基盤にある
出生後のホルモン環境や社会的・文化的な要因も影響すると考えられる
思春期前小児の数パーセントは、正常な発達過程である性同一性や性的役割に対する探求の一環として一時的に異性になりたいと望むことがある → ジェンダーバリアンス
思春期になるとその頻度が減少し成人期まで続くことは少ない
思春期に分泌が増加する性腺ステロイドであるアンドロゲンやエストロゲンが身体的な二次性徴の誘導以外に、脳に直接作用して性自認の安定や確立に関与している可能性がある
実際、性早熟症では性自認の確立が早いとされる
ジェンダーバリアンスの小児の一部は、思春期の開始に伴う自分の望まない体の変化とともに性違和感がさらに強化される → そのままトランスジェンダー (ゲイまたはレズビアン) の成人になる場合もある
アンドロゲンとは独立して性染色体の影響を受けている脳機能が存在する可能性も指摘されている
性自認の形成には、出生後の因子の影響もあると考えられる
脳を男女に二分できるかどうかの問題を含めて、解明されるべき課題は残っている