著 : 瀬地山角
キーワード : 東アジア、家父長制
発行年 : 1996 年
内容メモ
1 章 家父長制とは何か
著 : 瀬地山角
キーワード : 東アジア、家父長制
発行年 : 1996 年
内容メモ
1 章 家父長制とは何か
公式の理論では資本主義の後にくるものとされるが、実際にはそうではない
少なくとも、現実の社会主義社会はすべて資本主義の代わりに産業化を推進した
参考文献
東アジアの家父長制 ― ジェンダーの比較社会学
関連 : 産業化
資本主義における主婦 (家庭の主婦) の誕生と変遷
重要なことは、主婦がひとつの生活様式を反映しているということ
つまり、主婦の誕生と変遷の歴史は、生活様式の変容の歴史
主婦には 2 種類の類型 (主婦は 2 回誕生したと言える)
原点 : 原生的労働関係
台湾における産業化
1949 年から 1951、1952 年ごろまでは、国民党 (台湾) の渡台とその失政に伴う経済混乱の時期
1950 年代前半には経済建設がはじまる
1950 年代は、植民地下の企業を接収した公共部門によってリードされた輸入代替工業化の時期
失業率が高く、国内市場はすぐに飽和 → 方針転換を迫られる
韓国における産業化
分断当時、電力や地下資源の豊富な工業地帯は主に北朝鮮に分布 → 農業以外に特筆すべき産業がなく、経済的に危機的
1952 年の朝鮮動乱以降の混乱の時期は、主にアメリカの援助で乗り切る
1962 年から輸出指向の第一次五ヵ年計画が開始
漢江の奇跡と呼ばれる高成長
日本の女性労働力率
戦後減り続けた
1955 年に 56.7 % だったのが、1975 年には 45.7 %
女性労働力率の高い農業セクターが産業化の過程で解体してきたために現れた現象
1975 年が底で、その後は緩やかに回復
かつて家族は、再生産の拠点というだけでなく、生産の単位であり、教育や娯楽の場でもあった
産業化の過程で、そうした機能が外部に移っていった
生産は工場へ、教育は学校へ、娯楽は娯楽施設へ
生活の維持ならびにパーソナリティにまつわる機能のみを司るように
これは家族社会学の常識
アメリカはヴィクトリア期の女性規範・家庭規範の影響下にあって、かつ、黒人や移民の労働力が豊富だったため、イギリスと異なり既婚女子の労働力率はそもそも低かった
ここでの記述は、アメリカの記述であると同時に、近代主婦から現代主婦に至る欧米の基本的なパターンでもある
産業化の展開
19 世紀の産業化は消費財生産よりも基幹産業に重点
20 世紀のアメリカは、世界に先駆けて大衆消費社会へ
家庭の主婦の下位分類
再生産労働だけで一日が飽和しないだけの時間的余裕を持つようになった主婦
多くの場合、再生産領域だけでなく、生産領域にまで進出した兼業主婦
現代主婦を成り立たせる要因として家父長制と産業化があることは近代主婦と同様だが、どちらの要因も近代のそれとは微妙に異なる
産業化
家庭の主婦の下位分類
産業化と近代的家父長制によってうまれた
夫婦愛と母性愛という 2 つの力に支えられて、家庭という領域を自分の活動領域と考え、再生産労働という新たに生じた作業に専念する
現代主婦との違いは、再生産労働を負担することで一日が飽和していたこと
参考文献
東アジアのジェンダーの比較社会学
東アジアの国々を、産業化のパターンと家父長制の型の 2 つの軸で区分して比較することで見えてくるものがある
産業化のパターン : 資本主義 or 社会主義
家父長制の型 : 朝鮮半島型 or 中国型
儒教文化圏といっても、儒教だけで多くを説明できるのは東アジアの中で朝鮮半島だけ
en : Marxist feminism
フェミニズムの派閥のひとつ
社会主義婦人解放論とラディカル・フェミニズムを統合しようとした
資本主義 (資本制) や私有財産において女性がいかに抑圧されているのかを研究し説明することを目的とした
マルクス主義をフェミニズムで修正したフェミニズムとされる
分析対象を資本主義下の市場における諸関係に限定 → 資本主義社会における女性差別の根源を私有財産の所有に基づく階級関係に求めようとした
これはマルクス主義の説明なのか、マルクス主義フェミニズムの説明なのか??
関連
マルクス主義フェミニズム
社会主義婦人解放論
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2023.pdf
資料置き場 : https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/index.html
I. 資本主義のバージョンアップに向けて
2022 年 6 月に閣議決定された 「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」 を改訂するもの
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023 改訂版」 で語られる、新しい資本主義を実現する上での考え方
1. 分配の目詰まりを解消し、さらなる成長を実現
資本主義は、市場メカニズムをエンジンとして経済成長を生み出す
成長の果実が適切に分配され、次の成長への投資にまわらなければ成長は生まれない (分配はコストではなく投資)
日本においては、成長の果実が適切に分配されない目詰まりが存在
慶應義塾大学商学部教授
再分配政策の政治経済学が専門
こども未来戦略会議の有識者構成員のひとり
会議における発言は 「こども未来戦略会議、5回の発言 | kenjoh (note)」 にまとめられている
第 5 回こども未来戦略会議 (2023-06-01)
社会主義型の社会は、女性の労働力化を強く推し進める
資本主義型と最も異なる点
社会主義に共通する特徴
だが、その様態は社会主義のなかで一様ではない
参考文献
社会主義における主婦 (家庭の主婦) の誕生と変遷
ソ連、東欧の崩壊で社会主義社会の数は大幅に減ったが、東アジアにおいては中国や北朝鮮があり、東アジアにおいて社会主義は依然として重大な要素
社会主義社会においては、女性の就労は常に奨励され、資本制下のように大量減少としての主婦の誕生はなかった
イスラム社会主義のような特殊な例は除く
社会主義社会の経済は多くの場合生産性が低く、自動化なども遅れている
社会主義における家父長制
一般に、女性の社会進出が、資本主義型の国々と比べて進んでいる
単に職場進出に留まらない
社会的にも政治的にも
強力な政府の宣伝で、役割の配分だけでなく、権力の配分に関してもかなり平等化が進んでいる
「男 = 生産労働 / 女 = 再生産労働」 という分担システムを崩すには? (家父長制の乗り越え)
論理的に 2 つの方向性
1. 男性を労働力再生産の領域に参入させる
2. 女性を生産労働の領域に参入させる
社会政策的な方向性
100 万円を超えると配偶者控除がなくなって、逆に負担が増えるために、労働供給が抑制される、というもの?
参考文献
東アジアの家父長制 ― ジェンダーの比較社会学
1987 年に導入された
いわゆる 100 万円の壁問題の解決を目的とする
参考文献
東アジアの家父長制 ― ジェンダーの比較社会学
1961 年の税制改革で導入された
自営業者は妻の労働に対する報酬として所得を分割して低い税金を納められることと関連し、給与所得者が相対的に不利になることも意識されている
参考文献
東アジアの家父長制 ― ジェンダーの比較社会学
育児を典型とする労働力再生産のシステム
類型
専業主婦が担う専業主婦型
台湾のような親族ネットワーク型
安いメイドを雇う家事使用人型
中華人民共和国 (中国) の社会主義化
中国も、ソ連や北朝鮮と同じく、社会主義社会建設の初期段階で、伝統的家父長制の基盤たる既存の家族を壊し、新しい理念を打ち立てようとする方向性が強く打ち出された時期があった
中国においては、男性は政権、族権、神権の 3 つの権力の支配を受けていて、女性はさらに男性の支配たる夫権の支配が加わる
家父長制の束縛から解き放つことは、族権と夫権からの解放に繋がる重要な課題
中華人民共和国 (中国) の脱社会主義化
中国の社会主義化のあと
大躍進から文化大革命にかけての毛沢東による左傾路線は、混乱と経済的疲弊を招いた
毛沢東の死とともに終わる
社会主義化の時代に伏流していた家父長制が復活して、人々の生活を規定するという流れ
中華人民共和国において、1980 年代後半に展開された論争
1989 年初頭まで盛り上がりを見せるが、同年の天安門事件を契機に、外部に議論が出ないようになる
経済改革が進むにつれて、効率重視の観点から女性労働者への圧力が強まっていく
その中で行われた、「女性は家に帰れ」 という主張
「女性も働くべき」 という考えは、左傾の誤りとして批判された
1980 年代前半に中華人民共和国で行われた論争
夫婦 2 人が働いてともに疲れてともに業績をあげられないよりは、ひとりだけが働いて業績をあげた方が効率的だ (だから女性が仕事を辞めるべきだ)、とする主張をめぐって賛否が戦わされた
当時の中国における家事は、モノを買うにも行列で時間がかかるし、肉がパックに入れられているわけではなく鶏をさばくなどもする必要があり、大変だった
参考文献
東アジアの家父長制 ― ジェンダーの比較社会学
読み : とうしょうへい
中華人民共和国 (中国) の政治家
毛沢東時代 (文革まで) の集団化、女性の労働力化を基調とする流れを大きく転換させた
参考文献
東アジアの家父長制 ― ジェンダーの比較社会学
ジュディス・ステイシーが中国の分析を通して用いた用語
参考文献
東アジアの家父長制 ― ジェンダーの比較社会学
北朝鮮の金日成化
1950 年代までは、朝鮮労働党における金日成の占める位置は絶対ではなかった
朝鮮戦争の失敗も、総指揮官たる金日成の立場を危うくしうるものだった
金日成は、朴憲永ら南朝鮮労働党系の失策として粛清に成功
1956 年以降、首領制が形成され始める
北朝鮮の脱社会主義化
北朝鮮の社会主義化の流れは社会主義社会に共通するものだったが、その後の展開は朝鮮半島の社会の文化的特殊性が色濃くにじむ
脱社会主義化と言っても、社会主義型の中央集権的な経済体制をかたくなに維持した
ペレストロイカのソ連や改革開放の中国とは異なる
脱社会主義化というよりは、北朝鮮の金日成化とでも言うべきもの
北朝鮮の社会主義化
1948 年の建国以前に、北朝鮮臨時人民委員会 (委員長 : 金日成) の政策として男女平等政策
日本帝国主義支配下の封建的慣行の是正、家父長制に対する社会主義化のひとつの挑戦
親族組織の解体
親族組織は家父長制の基盤であり、金日成を父とするひとつの家族国家を作るには邪魔
日本における近代主婦の誕生
次の要因により、日本では大正期に近代主婦が誕生
所得の増大 : ひとりの収入だけで暮らせるような階層の誕生
新しい規範の成立 : 生産労働と再生産労働との性に基づく役割分担を是とする規範
就業人口の約半数をしめる広大な農村が残されていたため、近代主婦の拡がりは都市に限定されたもの
労働力の型
イギリスはエンクロージャーによる挙家離村型の労働者の群れを前提とした
帰る場所がないため、失業などによって都市にスラムが形成されやすい → 労働問題が社会問題になりやすい
工場法などの社会政策を促す
原生的労働関係から近代的労使関係への移行が内発的に促進される傾向
日本の現代主婦と家父長制 (現代日本型の家父長制)
戦後日本社会での現代主婦の誕生と変遷
日本の高度成長期
現代主婦をめぐっては、次のように分けられる
前期 : 1950 年代後半から 1960 年代前半
台湾における家父長制
約 30 万人の先住民の他は、大多数は 17 世紀以降に大陸から移住した漢民族によって構成される
1949 年以降、国民党 (台湾) 渡台にともなって移住したものを外省人、それ以前の漢民族移住者を本省人という
溝は埋められつつあるが、二・二八事件のような血で血を洗う対立で作られた溝は完全に埋められたわけではない
大多数を占める本省人は福建や広東の中国南方系
台湾における人の区別のひとつ
国民党 (台湾) の渡台とともに台湾に移住してきた人たち
主として公務員などのホワイトカラーや、軍人などから形成される
参考文献
東アジアの家父長制 ― ジェンダーの比較社会学
台湾では 1970 年前後に一部で近代主婦が誕生
1970 年代後半、家電製品の普及と家族規模の縮小で、現代主婦の誕生が可能な段階に
台湾型家父長制では女性の戸外労働に許容的
台湾の現代主婦は大量に労働市場に参画
背景
1895 年から 50 年の間、日本の植民地であった
参考文献
東アジアの家父長制 ― ジェンダーの比較社会学
韓国における家父長制
伝統的な儒教規範の非常に強い影響下 → 朝鮮半島における儒教
明らかな性に基づく権力の不平等配分
男子のみが相続する、など
役割の配分においても独特の規範