IRが関わる学生調査の考え方
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現在の大学では入学から卒業までの個々の学生の変容を定期的に測定するため、各種アンケートが全学的に実施されるようになっています。それどころか入学前から卒業10年後までを把握すべきだという意見もあります。実際、私立大学等改革総合支援事業(タイプ1)では平成30年度から卒業時調査とともに卒業後調査(卒業生調査)の実施の有無も設問に含まれるようになりました。IR部署単独か担当部署と共同とは問わず、IRが関わるべき学生アンケートは整理すると以下のようになるでしょう。(こんなにやるのか!?という感じですよね。)
<IRが関わる全学アンケート調査>
https://gyazo.com/fa4a107364e1649514ad5e0d698753de
学生調査は伝統的に学生生活実態調査が行われてきたのですが、質保証の観点から近年では学修行動調査の重要性が高まっています。大学によっては2つの調査を別々に実施しているところもありますが、全学生に共通に調査するという点では同じなので、学生生活と学修行動把握の両方の内容を混ぜた調査を実施している大学も多いことでしょう。結果として学生調査は表の調査の中でも飛び抜けて設問数が多いため、学生の回答負担のことを考えて1年次と3年次のみに実施する大学もあります。
ここで重要なのは、各部署が別々に調査を実施するのでは把握できない個々の学生の成長(学修成果)を定量的かつ経時的に把握することがIR部署の目的であるということです。そのためにはすべての調査において回答者が識別できるようになっていなければなりません。それを集計することで学科や学部といった学位プログラムごとの質保証が可能となるのです。
従来の学術研究を目的とした社会調査法的な考えでは、回答者の個人名を聞くことは重要ではなく、記名調査は回答の中立性やプライバシー保護の観点からも避けるべきだと考えられてきました。しかし、IRの目的からすればすべての調査において個人識別番号(学籍番号など)を入手し、紐付けられるようにしておくことが極めて重要なのです。個人識別番号を持つことで、成績などの学内で保持している他のデータとのクロス分析ができるようになります。多くの大学で導入しているLMSにはログイン情報を加えたかたちでアンケートを実施できるでしょうし、Google フォームやMicrosoft Formsでも大学として契約していればログイン済み回答者のメールアドレスを簡単に取得できます。
ただし以上のことを可能とするためには、2つのポイントがあります。1つには「IRデータを研究に使う前に-確認すべきポイント-」のコラムにあるように、調査実施や取得したデータの取り扱いを定めたルールや規程を整備しておくことです。学生には入学時に、ルールに従ったデータ利活用についての包括同意書を提出してもらう必要があります。それだけでなく各種アンケートの実施要領や前文において、調査の目的やデータの利用についてしっかりと説明をしておくことが大事です。 もう1つのポイントは、回答を学生の自由に任せないということです。学内のWEB掲示板に調査フォームのURLを載せて何月何日までにご回答くださいとした場合、その調査に回答するのは極言すれば真面目な学生だけでしょう。真面目な学生だけが回答した結果をもって、大学の方針を定めたり、学位プログラムの質が保証されているとして良いのでしょうか?したがって、こうしたIRが関わる学生調査ではほぼ全ての学生が集まるガイダンス時に実施したり、必修授業内で実施することが極めて重要なのです。学部数の多い大学ではなかなか難しいのですが、これをどこまで可能とするのがIR部署の調整力の見せ所かもしれません。😅
このようにIRが関わる学生調査はこれまで行われてきたものと幾分様相が異なります。各大学が掲げる目標達成のためのツールとして実施前の準備、実施方法をある程度固定化することが重要となります。学生調査そのものについての意識を変えることが求められているのかもしれません。
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