4件法か?5件法か?6件法か?7件法か?それが問題だ
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前回のコラム「IRが関わる学生調査の考え方」で書いたように、いまIRが関わらなければならないアンケート調査はたくさんあります。しかしIR担当者の誰しもが学生時代に社会調査法などの講義を受けたわけでもなく、質問紙調査を自ら実施した経験があるわけでもなく、担当になってから調査票の設計を一から勉強しなければならないことも多いでしょう。そのようなときに『社会教育調査ハンドブック(第3版)』(国立教育政策研究所,2011)* や、『質問紙デザインの技法(第2版)』(鈴木淳子,2016)などの専門書は大変参考になります。 しかしながらこうした参考文献を読んでも、自大学用の調査票を設計する上で細かいことが分からないことがあります。そうした場合の典型例が、リッカート尺度の設問のときに回答の選択肢を何件法で作成すべきかということではないでしょうか? リッカート尺度の設問と選択肢とはアメリカの社会心理学者レンシス・リッカートが提唱したもので、回答者の意見、認識、行動を測定するために、ある極端な態度から反対の別な極端な態度までの4〜10個程度のポイントから1つを選んでもらうものです。たとえばどれくらい満足しているかを問う設問であれば、選択肢が5つの場合「大変満足―やや満足−どちらでもない―やや不満―大変不満」という見慣れたものになります。したがってリッカート尺度の設問は、極めて多くの調査でいまも活用されています。厳密に言うと得られるデータは順序尺度となり間隔尺度ではないのですが、5件法以上の場合は実務でも研究でも平均値を算出したり、相関係数を求めたり、因子分析にかけたりしています。 問題は自分がアンケートを設計するときにリッカート尺度の設問の選択肢を4件法にすべきか、5件法にすべきか、6件法にすべきか、7件法にすべきかということでしょう。それは調査の目的による、としてしまうと身も蓋もないのでIR実務担当者としての視点からこの問題について考えてみましょう。 この問題を整理すると選択肢を奇数にすべきか偶数にすべきかということと、選択肢の数をいくつにするかということに分けられます。奇数にするということは、尺度が左右対称の場合に「どちらでもない」という中間選択肢を加えることだと考えて良いでしょう。これまで自分自身が回答してきたリッカート尺度のアンケートを思い出しても、例に挙げたどちらでもないを含む5件法がもっとも多かったのではないでしょうか。この中間選択肢については増田・坂上(2014)** で詳細に扱われており、入れるべきか入れないべきかという結論は述べられていないものの、日本人は中間選択傾向が強いとの記述があります。 そこでこの問題に対処するための指針を得るため、ある大学の学生調査で同じ6つのディプロマ・ポリシーの到達度について4年次の12月に実施した学生調査では4件法で、3月に実施した卒業時アンケートでは5件法で聞いてみました。時期にして3ヶ月しか離れていないため、回答者はおおむね同様の選択をしたと仮定します。その結果を下図に示します。一目で分かるのは「とてもそう思う」、「そう思う」の割合は両調査でそれほど変わらないことです。一方で卒業時アンケートでは中間選択肢が入っていることにより否定側の選択肢の回答割合、特に「そう思わない」という弱否定の回答が大きく減ったことが判明しました。つまり中間選択傾向が強いというより、どちらでもないの大部分は実は弱否定の婉曲的な意思表示なのかもしれません!(もちろん一般的に卒業時アンケートでは否定的な回答が少なくなる傾向にあるので、必ずそうであると言っているわけではありません。) https://gyazo.com/a650fa3e8f5f6b753f8f22aeff8dd51c
以上のことから、満足や好みといった個人の選好を尋ねる場合には中間選択肢を除いた偶数のリッカート尺度が望ましそうです。逆に、能力や知識の変化を尋ねる場合には、当然「変化なし」という選択肢が必要となるので、奇数尺度を採用しなければなりません。 次に問題となるのが、選択肢の数です。4件法と6件法、5件法と7件法、どちらが実務において望ましいのでしょうか?これについても明確な結論があるわけではありません。しかし図のように各ディプロマ・ポリシーを比較したいといったような場合には、4件法よりも6件法の方が、分散が大きくなるだろうと予想されます。また上述のように間隔尺度的に定量分析をおこなうためには、選択肢の数は多い方が望ましいです。そうしたことを考慮すると、一般に学生調査のアンケートでは、変化を尋ねる場合を除いては6件法を用いるというのが一つの目安となるでしょう。一つの例ですが、教学比較IRコモンズのALCS学修行動調査*** では多くの設問で6件法を採用しています。 ************************
** 増田 真也, 坂上 貴之「調査の回答における中間選択 ―原因,影響とその対策―」『心理学評論』57巻4号,p. 472-494,2014
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