語彙増強の道具としての辞典
〜作り手としての経験から
2022.9.10
株式会社ブルラッシュ代表 坂本淳
発表者紹介
坂本淳(さかもと・じゅん)
1967年 6月 高知県生まれ
1996年 2月 株式会社増進会出版社 入社
通信教育事業部、株式会社ゼット会出版 書籍編集部にて勤務
2005年 2月 増進会出版社 退社
2005年 3月 株式会社三省堂 入社
辞書出版部 外国語辞書編集室
『ウィズダム英和辞典』第2版、第3版
『ウィズダム和英辞典』第2版、第3版、『グランドセンチュリー和英辞典』第3版
『デイリーコンサイス英和辞典・和英辞典』第7版、第8版 など
学参・教材出版部
2021年10月 三省堂 退社
想定読者層による辞典の分類
一般向け 大辞典・中辞典・携帯用辞典
学習者向け(実は高校生向け)
上級
一般向け中辞典に学習要素を盛り込んだもの
学習者向け中級辞典を拡大したもの
中級
初級
中学生以下向け
学習英和辞典の商品特性
代替財が多い
他社製品
教科書巻末の単語集
電子辞書
無料のサイトや翻訳サービスなど
買い替え需要はほぼ期待できない
価格感応度は(おそらく)高くない
市場は1989年以来長期的に縮小を続ける
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熾烈な競争を勝ち抜くための戦略
コストリーダーシップ戦略は取れない (例外として『ビーコン』『エースクラウン』小型版)
差別化戦略が基本
ブランドイメージ・製品・顧客サービス・流通チャネルの4つの軸
辞書においては製品と顧客サービスで新機軸を打ち出すことが特に重要
編集方針、囲み記事
付属物、付随サービス
音声CD
(データCD-ROM)
集中戦略をとる場合、どの市場に集中するか
学校での採用・推薦を狙う
電子辞書への搭載の判断基準にもなりうる
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残存者利益を獲得する競争の局面に入っている(2010年ごろから)
学習辞典ならではの市場拡大局面があった
ただし小学生向け国語辞典
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引いた語のあるページに付箋を貼る学習法
高校生に馴染むか
横書きの辞書に馴染むか
中学生以上向けの辞書には波及しなかった
辞書の使い方指導と組み合わせることで使用頻度が上がれば売り上げ増につながるとの感触を得た
高校生に対する辞書の使い方指導
「辞書は知らない語の意味を調べるための本」という思い込みを捨ててもらう
語彙力増強を主眼とするなら「知ってるつもり」の語を引くことが大切
具体的な施策例
販促の一環としての編者・編集委員による教員対象の講演会の中で
修学旅行や会社見学の際に
umbrellaの項を引いてみせる
今なら動画を使うキャンペーン
今後の方向を予想してみる
学習辞典の需要が完全に消滅することはない
上級向け学習辞典の一部は残存者利益を享受しつつ進化
改訂頻度は落ちる
本体はウェブ上に置き、冊子の補遺を年度版で出すといった形態もありうるか
中級以上の学習辞典にもコストリーダーシップ戦略を採用する可能性
より単語集的な要素が大きく低価格に
残存者利益を享受する版元はぜひ画期的な辞書指導法も開発してもらいたい
ご清聴ありがとうございました
お問い合わせ先:info@bulrush.co.jp