静になんかあったら、僕はもう生きていけん
僕が昼前に一度事務所に戻ると、静の姿が見えへんかった。
なんか気になった僕は、東雲さんに訊ねた。
「エビちゃん、朝礼の時に倒れたんですよ……」
東雲さんが申し訳なさそうにほう言うた。
僕が訊くと、東雲さんは首を横に振った。
「脳貧血で失神したみたいです」
東雲さんは立ち上がって、そっと僕の肩に手を当てた。
「伊勢原さん、いけますか?」
「いけるって、なにが……」
「めちゃくちゃ顔色悪いですよ」
東雲さんの心配そうな声が聞こえた。
顔が冷たあなるんがわかって、膝に力が入らんようになって、目の前が真っ暗になった。
気が付くと僕は、東雲さんの膝枕で床に寝かされとった。 慌てて立ち上がろうとして、東雲さんに制された。
「寝よってください、すぐに救急車来ますから」
東雲さんが静かな声で言うた。
「え?」
僕は間抜けな声を出した。自分がどうして床に寝よんのか、理解できてへんかった。
「伊勢原さん、死体みたいな血圧でしたよ」
目を開けて声のしたほうを見ると、東雲さんが長い脚を組んで椅子に腰かけとった。
「死体に血圧はないでしょ」
力なく僕が突っ込むと、東雲さんも力なく笑うた。疲れとうみたいやった。
僕は横になったままあたりを見渡した。白で統一されたベッドと部屋。どう見ても病院やった。 ああほうか、僕、静が倒れたって聞いて、びっくりして倒れたんやな。
ほれはびっくりするよな、静になんかあったら、僕はもう生きていけんもん。
静……
「静はいけるんですか?」
僕は起き上がって、東雲さんの顔を見た。
「エビちゃんやったらもういけますよ、今日は大事をとって家に帰しました」
「なんで……」
僕はまたベッドに身を沈めて、両手で顔を覆った。
「なんで倒れるまで気づけへんのや、自分上司やろ、しっかり見といてくれよ」
涙がこみあげてきて、我慢ができへんかった。
「伊勢原さん、いけますか……?」
また、東雲さんが心配そうな声で言うた。
「しっかり見といてくれよぉ……!」
僕は声をあげて泣いた。自分を抑えることができんかった。
静になんかあったら、僕はもう生きていけん。