伊勢原さんだけですよ
最近は4人でつるむことが多なって、二人でゆっくり話しすることもあんまりなかった。
和と静がおったらほれはほれでにぎやかで楽しいんやけど、たまには大人の男同士でしっとりしたいときもあるでな?
「ほらエビちゃんと二人でおったら親子にしか見えんでしょ」
僕が静と二人で歩いとったら親子やと思われたことを愚痴混じりに話すと、東雲さんは真顔でほう言うた。
「ほなって伊勢原さんもう今年で48でしょ?かたやエビちゃんは25で、ほんでどう見ても25には見えんでしょ?」
「まあ、ほうですけど……」
「あれは17くらいにしか見えへんのとちゃうかな……ほしたら周りから見たら30歳くらい差があるように見えるんですよ」
「無茶苦茶やな……」
確かに静は25歳には見えん。ほなけど僕やって48には見えんと思うよ?少なくとも家庭があって老け込んどう男よりは若いよ?
「伊勢原さんいつもエビちゃんの父親面しとうやないですか」
「いやまあ、してますけど……」
最近はどっちかというと彼氏面やと思うけどな。実際彼氏やし。ほなけどほれはまた次の機会にしよや。
「そろそろ自分がおっさんやと認めなアカンね」
東雲さんはチーズのてんぷらを口に入れて、楽しそうに笑うた。
「キツぅ!自分やっておっさんのくせに!」
これはさすがに文句をつけさせてもらうわ。自分やって41歳のくせになぁ?立派なおっさんでな?
「僕もおっさんやけど、今でも若い子から逆ナンされますから」 僕の言葉に、東雲さんはすました顔でほう言うた。
あ~~~、ほうやった!東雲さんは今でも若い女の子に声をかけられるんやった。ほんでいっつも僕の手を握って、「彼氏とデート中」って言うて笑うんやった。 「僕がおらんときに声をかけられたらどうするんですか?」
何気なく僕が訊ねると、東雲さんは僕から視線を外して焼酎をあおった。 「断りますよ」
「えぇ?」
グラスを空にした東雲さんがテーブルに視線を落としたままほう答えたけん、肩透かしを食らって素っ頓狂な声を出してしもうた。
「デートせんのですか?まあ、東雲さんは理想が高そうなけんなぁ」 僕は同じくグラスを空にして、二人分のお代わりを頼んだ。
東雲さんは見た目もええけど頭もええけんなぁ、ほれはもう美人の才女でなかったら釣り合わんやろなぁ。
「僕の理想はめっちゃ高いですよ」
運ばれてきたストレートの焼酎を一口飲んで、東雲さんが言うた。
酔いが回ってきたんか、僕達は饒舌になっとった。
「僕の理想はね、伊勢原さんなんです」
あまりにも唐突な宣言に、僕は焼酎を噴き出しかけた。
僕を見つめて、東雲さんは目を細めて笑うとった。
「伊勢原さんは僕にとって完璧な男です」
すっかり出来上がっとる東雲さんとは対照的に、僕は一気に酔いが醒めてしもうた。
「僕の何がええんですか」
恐る恐る訊ねると、東雲さんはクスクスと恥ずかしそうに笑うた。
「伊勢原さんと一緒におると、すごく楽しいて、幸せなんです」
東雲さんはとろんとした目つきで僕を見つめながらほう言うた。
「僕をこんな気持ちにさせてくれるんは、伊勢原さんだけですよ」
アカンわこれ、もう連れて帰らな。
僕は会計を済ませると東雲さんの手を引いて店を出た。
ほれにしても東雲さんがこんなに酔うなんて珍しいな。まあ、疲れとんのやろ。