いつまでも仲良くしましょうね
僕らと同じ薄給とは思えんほどええマンションに住んどんよなぁ、謎やわ。
リビングのソファに腰かけた東雲さんに、僕はミネラルウォーターを渡した。
「ほな僕は帰りますからね、ちゃんとベッドで寝てくださいね」 ほう言うて立ち上がった僕の腕を、東雲さんがぎゅっとつかんだ。
「今日はもう遅いけん、泊っていったらどうですか?」
東雲さんの上品な笑顔を見て、僕はなんともいえん顔になってしもうた。 東雲さんがほういう笑い方をするときは、たいてい下品なことを考えようときなんやって。
「絶対変なことするやろ」
「しませんて」
「するって」
「しませんてぇ」
東雲さんは両手で僕の手をつかみながら、瞳孔の開いた目でじっと僕を見つめとった。
絶対変なことする顔やん。
みんなあんまり気づいてないけど、東雲さんは感情が目に出るけん。僕は付き合い長いけんわかるけん。
「わかりましたから、今日はもう寝ましょう」
僕は仕方なく、ベッドルームまで東雲さんを連れていった。
ベッドに座らせて上着を脱がせると、東雲さんは僕を見つめながら恥ずかしそうに笑うた。
「リードしてくれるんですね」
どえらい勘違いをしとう東雲さんをよそに、僕は引き出しからパジャマを出してベッドの上に置いた。
前はよう東雲さんちで家飲みもしたけん、何がどこにあるかは知っとんよな。
「パジャマはここに置いときますから、着替えるんですよ」
今度こそ帰ろうと僕が背を向けると、東雲さんは僕の腰に両手を回して抱きついてきた。
「帰らんといてぇ」
「だはー!わかった!わかったけん!」
僕はもうびっくりしてもて、なんとか東雲さんを引きはがそうとしたんやけどびくともせんかった。
ベロベロに酔うとんのにどこからこんな力が出るんよ。
「伊勢原さん、好きです」
東雲さんは僕の耳元で、甘ったるいというよりも甘えた声でささやいた。ほんな声会社の人らが聞いたらびっくりするよ。
「わかったけん離してください!」
「離したら帰るでしょ」
ほれはほうよ。
ほしたら東雲さんはますます腕に力を込めて僕を抱きしめた。
「わかった!帰らんけん!泊まるけん離して!」
僕が叫ぶと、東雲さんはパッと手を離した。
僕は上機嫌の東雲さんをパジャマに着替えさせて、ベッドに押し込んだ。ほんな嬉しそうな顔せんといてくれ。
「大好きです」
東雲さんは僕の服の袖をつかんで言うた。
「いつまでも仲良うにしましょうね。お互い今よりもっと年取っても、ずっと」
ほう言うて、東雲さんは楽しそうに笑うた。
「ほれは、もちろんですよ」
僕やって東雲さんとはいつまでも仲良うにしたいよ。大人になってからできた一番の友達やけん。
仕事でやってもたときも、彼女にフラれたときも、いつも僕を助けてくれた親友やけん。
「伊勢原さん」
東雲さんはかすれた声で僕を呼んだ。
「愛してます」
東雲さんは顔を赤くしてほう言うて、何度かまばたきして嬉しそうに笑うた。
もう寝てくれ。
酔っぱらい相手とはいえ嘘をつくんも嫌やったけん、僕は結局東雲さんの家に泊まった。
朝、リビングのソファで目を覚ますと、ベッドルームから出てきた東雲さんと目が合うた。
「あれ、伊勢原さん、僕んちでなにしよんですか」
キョトンとした顔の東雲さんに、僕はキツめのヘッドロックをかけたった。