今年はどうしても静と二人で過ごしたいんや
「忙しいときにすんません」
僕は誰もおらん給湯室に東雲さんを呼び出して、注意深くあたりをうかがった。 「構いませんけど、どうしたんですか?」
不思議そうな顔をする東雲さんと向き合って、僕は「お願い」を切り出した。
「今年のクリスマス・イヴなんですけど、もし予定がなかったら和を誘ってやってくれませんか」 真剣な顔で僕が言うと、東雲さんは声を出して笑うた。
「すんません。ほなけど伊勢原さん、ええんですか?イヴに僕と神田橋さんを二人きりにするやなんて」
東雲さんはクスクスと笑いながらほう言うた。
ほんときも、運転手はいつもみたいに東雲さんで、助手席は和の指定席やった。
和は今年もみんなでイルミネーション見に行きたいって言うと思うんよな、ほなけど僕、今年はどうしても静と二人で過ごしたいんや。ほなって僕達が付き合い始めてから初めてのクリスマスやん。
「むしろ和は東雲さんにしか任せられませんよ」
東雲さんはなんやかんや言うても和にベタベタに惚れとうし、誰よりも和のことを守ってくれとうけん。
「わかりました。ほな任せてください」
東雲さんは、僕の理由を訊こうとはせんかった。
「あと、25日は誕生日休暇取りたいんでお願いします」 「ええ、もちろん。楽しんでください」
僕が休暇のことを言うと、東雲さんは何かを察したように目を細めて、上品な笑顔を見せた。 東雲さんがほういう笑い方をするときは、だいたい下品なことを考えとんよな……。