ショートパンツの丈が短すぎへんか?
待ち合わせ場所に停まった赤いロードスターの助手席に、円が乗り込んだ。 シートは円にぴったりの位置だった。前回乗ったときから、動かしていないのだろう。
「お待たせしました!」
そう言ってハンドルを握る和の脚を見て、円は眉間にシワを寄せた。
和は引き締まった脚がよく映える、黒いショートパンツを履いていた。
「まだまだ暑いっしょ?」
円に言われて、和はそう言い返して車を出した。
円は額に手を当てて苦笑いした。
「うま!」
トマトとチーズが入った変わり種のラーメンを食べて、和が声を上げた。 「トマトとチーズは鉄板の組み合わせッスけど、ラーメンにも合うとは思ってなかったッス」
「そやなぁ」
同じものを食べながら、円もうなずいた。
「伊勢原さんとエビにも教えたろーっと」
なんの気なしに和が言うと、円は箸を止めて和の顔を見た。
「神田橋さんはホンマに伊勢原さんが好きやなぁ」
「ん?ほら伊勢原さんには入社したときからずっとお世話になってますから、兄貴みたいなもんスよ」
ラーメンをすすって、和が答えた。
「ほんでエビは弟やね、同い年やけどちょっと頼んないもん」
和が言うと円が笑った。
「エビちゃんは仕事はごっつできるけんね、僕も頼りにしとんよ」
「マジスか?俺の知らんとこでがんばっとんやなぁ」
和は感心したように言った。
「伊勢原さんが兄貴でエビちゃんが弟やったら、僕は何なんやろ?」
円が言うと、和は3秒ほど沈黙した。
「東雲さんは……」
和は顔を赤くして視線を泳がせ、言葉を探しているようだった。
「東雲さんは、東雲さんや」
やがて和は、円の目を見つめてしっかりとした口調でそう言った。
「ほうやね」
円は微笑むと、残りのラーメンをすすった。
季節限定のモンブランパフェを嬉しそうに食べる和を、円はコーヒーを飲みながら満足げに見ていた。
「ホンマにうまそうに食うなぁ、僕はほんな神田橋さんを見るんが好きよ」
円が言うと、和は照れくさそうに笑った。
和は裏表のない正直な笑い方をする。
「一口くれへんか」
「いッスよ」
和は円に言われてパフェを差し出そうとしたが、円はそれを手で制して、自分の口元を指さした。
和は顔を真っ赤にしながらパフェをすくったスプーンを円の口に入れた。
「うん、うまいな」
口の中でスプーンを舐めた円がとろけるような笑顔になったので、和は腰が抜けそうになってしまった。
「ほら、口にクリームが付いとうぞ」
円は和の唇の端に付いていたクリームを指で拭うと、瞳孔の開いた目で和の目をじっと見つめながら舐めた。 「このあと、どこ行こうか?」
そして、低い声で囁くようにそう言った。
慌てて和が言うと、円は吹き出した。
「僕はほんな和が好きよ」
円はひとしきり笑うと、そう言って優しいまなざしで和を見つめた。