キスしたやないですか
東雲さんにほう言われて、僕はフリーズした。
僕が酔いつぶれて東雲さんに介抱してもうたあの晩の話を静にしたことを話したら、僕の記憶がない間になんかとんでもないことが起きとったらしかった。 「あの晩、伊勢原さんがずっと女が恋しいて寂しいって泣っきょるけん、僕が添い寝したんですよ」
呆れ顔で東雲さんが言うた。
「ほしたら伊勢原さん、もう女はこりごりや言うて、僕に抱きついてわんわん泣いてね」
「冗談は堪忍してくださいよ」
僕はホンマに、まったく、1ミリも記憶がなかった。
そもそも僕が、女にフラれたけんいうて東雲さんに抱きついて泣くやいうことある?
またしょーもない冗談に決まっとうわ。
「ほなけん僕が、ほな女やめて僕と付き合いますか?って訊いたら」
東雲さんは楽しそうに笑うてほう言うた。
「なんでほんなこと訊くんですか?」
冗談にしても怖すぎるわ、どこからほんな発想が出てくるんよ。僕がほんなこと考えるわけないやん。
東雲さんのことは好きやけど、ほれはまた全然別の話やん。
「伊勢原さんは、うん、て言うて」
「いや言うてないけん!」
ほれはもう、全力否定させてもらうわ。
ベロベロに酔うたことってほとんどないけんわからんけど、酔うても思うてもないことは言わんけん。
「キスしますか?って訊いたら」
「ほなけんなんでほんなこと訊くんですか?」
僕が抗議すると、東雲さんは目を細めた。
「うん、て言うたやないですか、伊勢原さん」
「いやいやいや……」
僕は頭を抱えてしもた。
「舌も入れましたよ?」
何を入れたって?舌を?どこに?
「伊勢原さんのキス、めっちゃ上手かったなぁ。思い出したら立ってきた」
「何が!?」
僕の反応を見ながら、東雲さんは頬を赤くして笑うた。何を前かがみになっとんよ。
東雲さんがこういう子供っぽい笑い方をするときは、大体ホンマのことを言いよんよな……。
「ほんで伊勢原さんも気持ちようなってしもたみたいでね、ほんならもっと気持ちええことしますか?って訊いたら」
「あああ〜〜〜!!!」
なんちゅうことを言い出すんやこの男、絶対アホやろ。
僕の男の初めては、静がよかったのに。
「伊勢原さん、もう寝てました」
東雲さんは少し残念そうにほう言うた。残念そうに?なんでや?
僕を責めるような口調で、東雲さんが言うた。自分が一番遊び人のくせに。
「いやあの、遊びとかではなく……」
「本気やったんですか?!」
「いやいやいや……」
ほう言うて東雲さんが僕の肩をつかんだけん、僕は変な悲鳴を上げてしもた。
そんな僕を見て、東雲さんはうわははと笑うた。
ごめん静、この話は内緒にさせといてくれ。恥ずかしすぎるわ。