ゆっくり息吐いて
同僚の事務員に子供が生まれたっちゅう話を聞いて、なぜか静は事務所を足早に出ていった。
偶然居合わせた僕は、静の普通と違う様子に気がついて後を追った。
「静、どしたん、いけるか?」
僕が声をかけると、静はこっちを向いて僕を見上げた。
「息ができん」
静は口を開けて必死に息をしとった。
僕は大声で人を呼んだ。
事務所と給湯室はそんなに離れてへんし、僕の声は大きいけん、間違いなく聞こえたはずや。
「ゆっくり息吐いて」
その場に座り込んでしまった静に薬を飲ませて、背中をなでた。
「息が……」
静はすがるような目で僕を見とった。
「静、大丈夫やけん。ゆっくり息吐いて」
僕は静を抱き寄せて、腕をさすった。
東雲さんが来て何か言うとったみたいやけど、僕にはよう聞こえんかった。
ふいに静の体から力が抜けた。僕は慌てて、静の体を支えた。
僕が何度名前を呼んでも、静は返事をせんかった。
東雲さんが静のネクタイとベルトを緩めるのを、僕は何もできずにただ見とった。
僕はたぶん、泣いとったと思う。
意識を失った静の体は、見た目よりも重く感じた。