もっと静のこと教えてだ
10分早く待ち合わせ場所に着くと、静はもう待っとった。
僕を見つけて嬉しそうにRAV4の助手席側のドアを開けると、するりと隣に乗り込んできた。 「待ったんちゃうん?」
僕が言うと、静はうん、とうなずいた。
「嬉しいて早う来すぎた!」
静は少し恥ずかしそうに笑いながらほう言うた。かわいいやっちゃな。
僕はドリンクホルダーに入れてあるペットボトルを指さした。
「ありがとう!」
静はホンマに嬉しそうやった。うーん、これは期待を裏切れんなぁ。これが正式な初デートやけん、ええ思い出にせな。 「ホンマや、ありがとう!」
静は前から、こういう細かいことでも嬉しそうにありがとうって言ってくれるんよな。ホンマにええ子や。 「シャツのお礼にあげたとき喜んでくれたもんなぁ」
「伊勢原さんは僕のことよう覚えとうね」
感心したように静が言うた。
「遥でええよ」
僕がそう言うと、静は恥ずかしそうに「遥」と僕の名前を呼んだ。
名前を呼ばれた僕も、なんか恥ずかしくて、口元が緩んでしもうた。
「運転代わろうか?」
「かんまんよ、プロに任せとき」
僕が言うと、静はあまり納得のいかん顔をした。
「静、運転しよう僕を見るんが好きやろ?めっちゃ見とれとったもんなぁ」
僕はニヤニヤしよったと思う。
運転中ずっと静の視線を感じとったけん、確信があった。
「遥は僕のことよう知っとうね」
静は顔を赤くして、少しうつむいてから上目遣いに僕を見て恥ずかしそうに笑うた。
「僕はまだ、静のことなんも知らんよ。ほなけん、もっと静のこと教えてだ」
僕は静を見つめて言うた。
「遥のことも教えてな、全部教えてな」
静は僕を見つめ返して言うた。二人きりのときにだけ出す、甘えた声やった。