ポピュリズム
「ポピュリズム=大衆迎合主義」というと、俗情に媚びる指導者と無知な大衆の衆愚政治をイメージしがちだが、オルテガが『大衆の反逆』において大衆社会を論じた頃には、ポピュリズムのイメージは、匿名的な大衆が文明社会に解き放たれ、その力を持て余しているといったものだった。事実、『大衆の反逆』が世に出る1930年前後には、アメリカを中心として、歴史意識や使命感のような「帰依すべき価値」を必要としない大衆の(主として経済の領域における)巨大な力が顕在化していたのであり、大航海時代から産業社会への移行において、世界における覇権を完全に失ってしまったスペインに生まれたオルテガにとっては、ポピュリズムは、可能性を持つと同時に危険な傾向として写らざるを得なかったのだと思われる。 ちなみに、1995年になって出版されたクリストファー・ラッシュの遺作『エリートの反逆』では、ポピュリズムはむしろコミュニタリアニズムと並んで、民主主義を支える重要な要素であり、アメリカの民主的伝統を担うものとして描かれている。 オルテガ・イ・ガセット『大衆の反逆』
クリストファー・ラッシュ『エリートの反逆』