夢の国から目覚めても
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発行 2021/3/17
装丁
レズビアンとヘテロセクシュアルの女同士が、百合創作を通じてお互いに好意を抱き、交際する過程を描く宮田眞砂の小説『夢の国から目覚めても』は、レズビアン当事者ではない人々が百合を描き読むことの意味に正面から立ち向かう。レズビアンの有希の語りで百合というジャンルの危うさを鋭く問う前編も面白いが、作品の誠実さがいかんなく発揮されているのは、ヘテロセクシュアルの由香の語りで進む後編だと思う。当初「百合とレズは違う」などの無責任な言葉を発していた由香。彼女が自分の態度を改め有希との愛情を深めながらも、それでも「自分はヘテロである」という自覚は捨てられずに葛藤する胸のうちが素直に綴られる。
(『それでも女をやっていく』p133~134)
という、ざっくり言ってしまえばメタな百合で、ジェンダーだとかコミュニケーションについてめちゃくちゃ考えさせられてしまった。
当然、男が百合を創作したり消費する事にもしっかり問いを突きつけてくるので、そういう描写に触れると、男の立ち入るスペースなんて本来ないのでは…と思う他ないのだけど、男の同人仲間として出てくるヒロさんというキャラクターが分別ある人間として有希や由香と接してくれる事ででいくらか救われるような気はする。
ともすると二次創作自体に、創作上とは言え既に存在しているキャラクターを書き換えて弄ぶような行為って乱暴といえば乱暴なんじゃないのか…とか感じるところはあったので、そういう点でも作る人の中には葛藤があったりするのだなというのも窺い知れて良かった。
ちなみに、この本をよく行く大きめの本屋で買おうと思ったら全然在庫がない中、広尾の駅前にある文教堂にだけあるのを見つけて、ちょっと不思議に思いつつ仕事の帰りに買いにいってみたら、百合特集的な棚が設けられていて、この本も含めてピックアップされてる本の並びなどから察するに、真面目に向き合ってる人が企画してる棚なんだなと思え、それもまた良かった。
それにこういう棚がある事でリアルに救われるような思いになる人もいるんだろうな、みたいな事も思う。